家が賑やか
シンディとテルセロが家に遊びに来て、まず反応していたのは屋外作業場だった。
そういえば去年遊びに来た時には、まだこれは作る前なんだったか。
「お前、本当に石窯作ったんだな……」
「うん。パンが焼けるようになったよ」
「すっかり料理にはまってるねぇ」
「ホー」
話しつつ、とりあえず荷物を置くために家の中に入る。
今日はまだまだ日も高いから、これから何をするかをまずは決めないといけない。積もる話もあるけれど、それは多分夜になるだろうからね。
というわけで荷物を置いて、そのまま再び外に出てきた。
「これは?」
「かまど。道具作るのに色々煮たりするから」
「あぁ、なるほど……」
「あ、丸太椅子ある!」
「ホー」
この屋外作業場は私が一から作ったものなので、家に比べると諸所作りの甘いところはあると思う。
それでも、二人に対してだと頑張ったから見て、という子供のような気持ちが強くて、こんなのもあるよ、とあれこれ引っ張り出してしまった。
「そういえば畑増やしたんだっけ」
「うん。種まきまではもうやった」
「ホー」
「農業にもはまってんのな」
楽しいんだもの。結局私は、何かを作るのが好きなのだろう。
あと、畑は取れたての野菜の美味しさを知ってしまったので。あれは一度知ったら忘れられない味だ。
収穫後熟成させていたヒロゾ芋を焼いてみたら、美味しすぎて思わず食べ過ぎて動けなくなったのもいい思い出になっている。ちなみにキヒカも食べ過ぎて動けなくなっていた。
そんな話をしながら畑の方に足を向け、拡張した畑へと向かう。
既に耕しで種を蒔いて、周りは杭とロープで囲んである。一個目の畑の二倍ほどの大きさになったので、なんとなく見ごたえもある……ような、気がする。手入れはちょっと大変。
「なんかある!あれなに!?」
「休憩所。前に作ったベンチもあそこに移したの」
「お前ついにそんな物まで……」
「屋外作業場の方が大変だったよ。これはそんなに広くもないし」
「ホー」
休憩所の方はそこまで広くないし、地面もちょっと盛り上げて固めただけでセコトを撒いたりはしていない。なので、作業としては一日くらいで終わったのだ。
屋外作業場の方は、本当に時間がかかったから……大変だったな、終わらない床作り。
本当にやってもやっても終わらなくて、軽く絶望したもんな。王都を出てから絶望したのはあれが最初で最後だったかもしれない。
なんて考えながら、一度並んでベンチに腰を下ろす。
一年間雨ざらしにしていたから、位置を動かすついでに丸洗いして乾かしたのだ。おかげでちょっとだけ綺麗になったような気もする。
元々撥水加工はしていたから、そんなに変わっていない気もするけれど……まぁ、綺麗にはなっただろう。
「畑は何植えたの?」
「とりあえずあそこにルミャベリー。向こうは全部ロピュ。他にも色々植えてみた」
「楽しんでるねぇ」
「ホー」
今は空いている場所もあって、そこにはもう少し気温が上がってきてから別の苗を植える予定になっている。耕した部分が全部埋まるのは、夏前くらいになるだろうか。
植える物は園芸店の店長さんに相談して決めたので、去年作ってみて美味しかったものを今年も植えつつ、新しい野菜も植えてみる感じになっている。
そのうち畑の状態を見つつ休ませたり植える物を選んだりもしないといけないらしいけれど、今はあまり気にせず楽しくやっていこうね~ということで話は纏まった。
気にしすぎても楽しくないからね、と言われたので、その言葉を信じて気にしすぎないで楽しんでいる。どうせ自分で食べる物なので、出来が悪くても困るわけではないし。
「果樹は育てないの?」
「今はやらないかな。やるなら、果樹の前に薬草類を育てると思う」
「そりゃそうだ。むしろまだ育ててねぇのな」
「ホー。ホホー」
「うん、私は薬作りはそんなに得意じゃないし、シエルもいるし」
「なるほど、適材適所だ」
薬草が必要になったらシエルから買えばいい、というのも、自分で育てて居ない理由の一つである。
シエルは草薬の魔法使いなので、育てている薬草も当然質がいい。私が育ててもああはならないと思うので、必要になったら買うことにしているのだ。
現状はシエルから道具の依頼を受けることの方が多いけど、そのうち私もシエルのお世話になるだろう。
「畑の相談もしてるから、今でもしっかりお世話にはなってるけどね」
「ホー」
「前の畑とちょっと位置が違うのもシエルの提案?」
「うん。ここが一番やりやすいだろうって」
「魔法使いの感覚って分かんねぇんだよなぁ……」
「私も草薬の魔法使いの感覚は分かんないよ」
「ホー」
なんて、畑のベンチでしばらく話していたけれど、誰かのお腹がぐぅ~と盛大な音を立てたので家に戻ってご飯を食べることにした。
色々作ったのでぜひいっぱい食べてほしい。テルセロはいっぱい食べるから、とウキウキで作ったら作り過ぎた気がするのだけれど、どれくらい残るだろうか。
「食べたら廃村見に行きたい!」
「もうただの更地だよ」
「それがむしろ気になる!」
「まぁ、それは俺も気になる」
「じゃあ午後はそっちに行ってみようか」
「おー!」
「ホー」
家に戻りつつ午後の予定も決まったので、まずは腹ごしらえだ、ということで家で用意していたあれこれをテーブルに並べていく。
あっという間に埋まったテーブルを見てシンディが大笑いで、テルセロはちょっと呆れたように笑っていた。
ね、いっぱいあるでしょ。まだあるから。いっぱい食べてね。