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・今年のお誘い

 よく晴れた春の日。その陽気でわずかに残っていた雪も全て融けていく、暖かい日。

 そんな日に、王都の一角では非番の騎士を見つけて全力疾走している女がいた。


「テルセロォ!!!!」

「うるっせぇなぁ!?」


 周りの人間の度肝を抜く大声でテルセロを呼び止めたシンディは、そのままの勢いでテルセロに突撃して見事に騎士を捕獲した。

 もう既に諦めの表情になっているテルセロは、シンディを引き離しつつ軽く耳を抑える。

 それはもう、本当にうるさかったので。周囲もなんだなんだと騒いでいるが、騒ぎの元凶を見て納得したように去って行った。


「フィフィからお誘いが来てるよ!!」

「知ってる、俺のところにも来た」

「休みを教えろ!!直近の休みを!!」

「これから休みの申請するからまだ確定してねぇよ」


 シンディがテルセロに突撃してくる用事なんてフィフィーリア関係以外にはありえないので、どうせその件だろうとは思っていた。

 去年も春頃に誘われて家に遊びに行ったので、恐らくフィフィーリアの中では春になったら二人を呼ぶ、というのが確定事項になったのだろう。


 ともかく、用事は知っていたので騒ぐシンディを黙らせて適当なカフェに入り、テラス席で茶をしばきながら日程を決めることにした。

 シンディは勤め先が実家なので、休みにも自由が利く。

 フィフィーリアのところに遊びに行くというシンディを引き留めてもどうせ仕事にならないので、快く送り出されるはずだ。


 なので、決めるのはテルセロの休みの申請をいつにするか、である。

 騎士団は時期や状況によっては休みを取りにくかったり、申請した日に休みが取れなかったりもするが、今はある程度落ち着いている時期だ。

 それに、テルセロの所属している隊は比較的休みの申請が通りやすい。


「そういえばテルセロ、フィフィにお守りの依頼したんでしょ?」

「俺じゃなくて隊がな。それがどうかしたか?」

「ほかの隊もお守りの制作依頼しよう、みたいな話が出てるって聞いたけど、結局どうなったの?」

「なんでお前がそれ知ってんだよ……他は、上から許可が出てない。元王宮魔術師との関係改善の意味も込めての依頼だったのに、仕事押し付けてたやつらが行ったら悪影響だろ」

「なるほど確かに」


 国としては、元とはいえ王宮魔術師に悪感情を持たれたくはないのだ。

 それだけ優秀な魔法使いが、仕事の環境が悪かったせいで王宮を去った。フィフィーリアの場合は王都の特別区内に留まったが、下手をしたら他の国に行ってしまう可能性もある。

 というか、以前にやめていった王宮魔術師の中には他国へと出ていった者もいるだろう。


 それは避けたいのだ。だからこその大規模改革だったし、王宮魔術師に仕事を押し付けていた連中には厳しい処罰が下った。

 フィフィーリアは仕事を辞めた後も王宮魔術師たちとの関係性は悪化しておらず、お互いなんとなく気にしあっている。

 テルセロを経由して王宮魔術師に菓子を差し入れていたこともある。


 なので、王城内での魔法使いの待遇改善がある程度進んだところで、既に王城を出てしまっているフィフィーリアとも協力体制が築けないか、という話が出たのだ。

 王宮魔術師時代の全てに嫌気がさしているわけではなさそうなので、やらかしていなかった人を使って新たに関係値を築き、王都から、国から離れないように出来ないか、と。


 そこで白羽の矢が立ったのがテルセロの所属する部隊の隊長だった。

 依頼の最中に無言で依頼書を見つめるフィフィーリアには少し冷や汗をかいたが、詳しく話を聞いてみれば、王宮魔術師時代の「優しい依頼者」の指示書と同じだった、と言われたくらいだ。悪感情は全くないのは見て取れる。


 その点において、ベニントン隊長を行かせた上の判断は正しかったのだろう。

 フィフィーリアが用意したお守りの効果が思っていた以上に強く、他の部隊も欲しがったのは想定外だったのかもしれないが。

 とにかく、これでようやくフィフィーリアとの繋がりを作る下地が出来た状態なのだ。そこに彼女が嫌がりそうな相手を送り込む、ということはあり得ないのである。


「……まぁ、フィフィあんまり気にしなさそうだけど」

「まぁな。だから余計に、こっちで止めてるんだろ」

「頼むぞテルセロ。フィフィの平穏はテルセロにかかってる」

「やめろ、妙に重いもんを背負わすな」


 フィフィーリアがあまり気にしないだろうというのは、テルセロも分かっている。分かっているが、だからと言って友人に無茶ぶりをしかねない奴を押し付けるかと言われたら、それは別の話だ。

 同じお守りなら調整の必要がないから以前よりも早く制作出来る、というのも知っているが、上に伝えるかも別の話だ。隊長に聞かれたら答えはするが、だとしてもフィフィーリアの負担になるような依頼を出しそうなやつに伝わらないようにはする。


「ギリギリになるまで自分でも無理に気付かないからな、あいつ」

「大分改善したみたいだけどねぇ……やっぱりやらなきゃいけないことが減ったのがいいのかな?やりたいことはあっても、明日でいいやーって出来るから」

「そうなんじゃねえか?雨だから家で読書してたとか、前ならやらなかっただろ」


 なんて、フィフィーリアの成長についてひとしきり話し合った後、二人で話し合ってテルセロの休みの日程を決めた。

 第一希望が通らなかった時用に第三希望まで作ったので、どれかしらは通るだろう。

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