制作準備
騎士団からの依頼を受けた後、テルセロと少し個人的な話もして、実はそわそわ様子を窺っていたらしいシエルをキヒカが見つけて引っ張ってきたので三人でお茶もして。
そうして家に戻ってきて、さっそく必要な物をリスト化して、話し合いの最中に書いたお守りの形を確認したり詳しく作り方を考えたりして、翌日には足りないものを買いに町に向かうことにした。
今回は騎士団からの正式な依頼だ。なので、魔方陣を書く紙もそれらを入れておく外装も、そこそこちゃんとしたものにしないといけない。
単に見栄えのためだけでなく、騎士団の持ち物になるので普通に売っているお守りに使っている布だと弱すぎるのだ。簡単に破けるし濡れるし燃えるし、心もとない。
その辺もしっかり話し合っており、値は張ってもいいから丈夫なものを、と頼まれている。
隊で同じものを持つなら見た目も揃えたいし、その方が管理もしやすいだろうからそうするつもりだ。
幸い、期限はそこそこ長く貰っている。数が多いし、乗せる効果も多いからだ。ここで無理を言ってこないで余裕を持った期限を先に提示してくれるあたりに、ベニントン隊長の人柄が出ている。
「本当に、王宮魔術師時代からありがとうございます」
「ホー」
朝から町に向かって空を飛びながら、しみじみ呟いてしまう。
テルセロにもしっかり説明したのだが、本当にありがたい仕事として認識していたのだ。指示書しか認識していなかったが、逆に指示書を見ればあの人だったんだ、と思い出せるくらいには記憶に残っている。
もう本当に、本当にあの激務の中での癒しにすらなっていたのだ。
「テルセロが隊長にあこがれてるのも分かるよね」
「ホホー」
騎士団の他の隊が王宮魔術師に仕事を押し付けていたのが発覚して大騒ぎになっていたあの時も、その様子をみて憤るくらいには無関係だったみたいだし……
頭が固いとか融通が利かないとか言われているらしいけれど、私からすると好感しかないのだ。
真面目を人型にしたような人だとテルセロが言っていた。すごく楽しそうに言っていたし、テルセロも真面目だから相性がいいんだろうな、と思う。
なんて考えている間に町に着いたので、いつもの位置で地面に降りて、キヒカを肩に乗せて歩き出す。
門番さんに会釈をして町の中に入り、さてどこから行こうかなと考えていたら、キヒカが翼で広場の方を示した。
なるほど、キヒカ的にはあっちからか。
「じゃあ、そうしようか」
「ホー」
朝から移動してきたけれど、町に着く頃には朝早い時間では無くなっている。
なので、多分アルパとおじいさんは既に噴水広場にいるのだ。アルパの魔法の練習は今も順調に進んでいて、最近では魔法で風を遮って寒さ対策をしているくらいだ。
そんなアルパの様子を確認して話をするのが用事の一つでもあるけれど、もう一つ。
ジリューロで商品の受け渡しに使っている木製の割り符、あれはアルパのおじいさんに依頼して作ってもらったもので、それ以降木製で飾りの綺麗な物が必要になったらおじいさんに依頼を出していたのだ。
今回は、依頼していた追加の割り符を受け取るのも用事の一つだったのである。
ちなみにアルパのおじいさんに依頼した理由は、私がドレッサーの上に鎮座させている木彫りのキヒカが本当に可愛いからだ。ずっと何かを依頼はしたかったのだ。
「あ、フィフィーリアさん!」
「おはようアルパ」
「お嬢さん、頼まれてたもんは出来とるぞ」
「ありがとうございます」
おじいさんから依頼していた物を受け取って、中身を確認して問題は何もなかったのでそれを荷物にしまう。
そして、アルパから魔法の練習の成果を見せてもらって、修正点を伝えて、お手本を見せて、次に会うまでの宿題を出して。
いつも通りのやり取りが終わって、お互い他に何か忘れていることがないことを確かめたら手を振って別れる。
アルパはずっと真面目に魔法の練習をしているし、実力もついてきているので今後が楽しみだ。彼女はどんな魔法使いになるのだろう。
今は明確にどんな魔法使いになりたい、というイメージが固まっているわけではないみたいだけれど、だからこそこれから何にでもなれるのだ。
「楽しみだね」
「ホホー」
キヒカも楽しみらしい。キヒカは小さい子に優しいから、これから魔法使いになっていくアルパを見守るのが楽しみなのかもしれない。
そんな話をしながら町の中を歩いて進み、ヒヴィカのインクにやってきた。
魔道具を作るのだから、当然足りない素材は魔法素材になりがちだ。となればここに来るしかないのである。
「こんにちは」
「おー、いらっしゃい」
最近は魔石を買いに来るお客さんも増えたと聞いていたけれど、私はあまりここで他のお客さんに会ったことはない。タイミングなのだろうか。
なんて考えながら棚の隙間を移動して、今回の目的である素材を探す。
今日ここで買いたいのはお守りの外装、中に入れる魔方陣等を守る、強い入れ物の素材である。