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騎士団からの依頼

 騎士団からの正式な依頼が来たのは、冬のある日の事だった。

 デリックさんから連絡が来たので杖に跨りキヒカと一緒に飛んでいったら、騎士団の鎧を着た人が三人ほど受付の前に並んで立っていたのだ。

 冬なのにここまで来て、騎士団って大変なんだなぁ、なんて呑気な事を思いながら地上に降りる。


 並んでいた三人のうち、二人は知らない人だったけれど、一人はテルセロだった。

 なんとなくそうかなとは思っていたから特に驚きはせずに、テルセロの横にいる人たちへと目を向ける。

 ……一人はテルセロと同じ鎧だけれど、一人は少し装飾が違う。王宮魔術師時代に何度か見たことがあるので分かるが、騎士団の中の各隊隊長の装飾だ。


「よう、フィーリア」

「久しぶりテルセロ。……とりあえず中へどうぞ、寒いでしょう」


 テルセロに返事をしつつ三人を促して、受付の中に入る。

 中ではデリックさんが椅子を増やして、ついでにお茶まで淹れてくれていた。

 折り畳みの椅子をいくつか買っておいてよかった。念のための予備、くらいに思って買っていたのだけれど、思ったよりも使われているのかもしれない。


 なんて考えながら、デリックさんに促されてカウンターの内側に回る。こっちにも椅子が増えている。

 デリックさんは依頼書とメモ用紙とペンを既に用意していて、どうやら筆記係をしてくれるようだ。有難い。

 読み書きの本格的な練習と勉強はここに来てから始めたと言っていたけれど、デリックさんの文字は丁寧だから読みやすいのだ。


「以前に王城内で何度か見かけていたが、こうして顔を合わせるのは初めてだな……改めて自己紹介を。私はクライド・ベニントン。サエヒャ王国騎士団第六部隊の隊長をしている。こちらは副隊長のクンツ・バーレ。突然の来訪、すまなかったな」

「道具作りの魔法使い、フィフィーリアです。こっちはキヒカ。テルセロから話は聞いていたので、大丈夫です。わざわざご足労いただいてありがとうございます」

「ホー」


 テーブルに乗って小さく頭を下げたキヒカを撫でる。可愛い。普段は返事はしても人に合わせてお辞儀をすることはないけれど、相手が騎士団の隊長だからか気を使ってくれたらしい。

 そんな賢いキヒカはそのまま私の膝に移動してきたので、膝に乗せたままお話を聞くことにした。

 ベニントンさんも魔法使いの使い魔は見慣れているのか、キヒカの行動を目で追ってはいたけれど何か言う事はなかった。


「今回ここに来たのは、第六部隊の隊員用にお守りの作成を依頼したくてな」

「通常の物とは違う効果を、という事でよろしいですか?」

「ああ。いくつか追加してほしい効果がある」


 どうやら、あらかじめお守りに追加したい効果などを考えてまとめておいてくれたらしい。

 副隊長だと紹介されたバーレさんから紙を差し出されて、受け取って確認してみたら個数や欲しい効果、望ましい形状などが書き記されていた。

 ……あぁ、なんだかすごく見覚えがある。これ、王宮魔術師時代に見たな。


「…………ホー。ホホー」

「あ、うん。大丈夫、読んでただけ」


 無言でじっと紙を見つめていたら、キヒカに手首をつつかれた。

 そんなに心配されるほどの間無言になっていただろうか。私は割と普通に、あぁこれ、王宮魔術師時代に何回か見た、他よりも随分と丁寧で期限に余裕がある、有難い仕事の指示書だなぁ、って思い出していただけなのだけれど。

 なるほど、これがテルセロの隊からの依頼だったのか。


「フィーリア、大丈夫か?」

「うん。……いくつか確認してもよろしいですか?」

「もちろんだ」


 テルセロと……副隊長さんにも、心配されてしまっている気がする。申し訳ない。別にトラウマになっていたりとかはしないから、大丈夫なのだけれど。

 とはいえ、私が何を言っても意味はなさそうな気がしたので、そのまま仕事の話を続けさせてもらうことにした。


 お守りの個数は、全部で四十個。各隊員に持たせるとして、予備もいくつかあるのだろう。

 目立つ特徴として、お守りに番号を振ってほしいという要望と、お守りが発動したり壊れたりしたときに確認できる構造が欲しい、という部分がある。

 番号は管理のためだとして、わざわざ私に頼むということは、この「発動したり壊れたりした時」の確認にも使いたいのだろう。


「えっと、発動と破損を認識したい、というのは、遠隔でですよね?」

「そうだな。出来れば、まとめて確認が出来ると有難い」

「なるほど。発動と破損、知らせが別の方がいいですか?」

「出来るのなら、その方がいいな」


 つまり、どこか自分の知らないところで団員に何かあってお守りが発動したら把握したい、ということなのだろう。

 それなら発動なのか破損なのかは別で分かった方がいいだろうし、遠隔でも知らせを飛ばすことは出来るはずだ。

 私がこの受付に置いている、簡易的な知らせの装置と仕組みはそう変わらないだろう。多分。


「あまり遠くに行き過ぎると反応が遅れたり、届かなかったりする可能性もあるんですが……どのあたりまでは絶対に把握したい、とか、ありますか」

「そうだな……王都の特別地区内は知らせることが可能か?」

「はい、それは問題ないと思います。多分……南の入江あたりまでなら、遅れはあっても届く、かな」

「そこまで広いのなら問題はないな」


 実際どこまで届くのかはやってみないと分からないが、魔方陣が引き合うなら王都の特別地区内は確実にカバーできている。

 ここは割と特別地区の端の方だけれど、私は家から王都までシンディに手紙を飛ばせているからね。

 あれが出来ているのだから、魔力だけを飛ばす知らせの方が距離は伸ばせるはずだ。


 なんて、そんな話もしながら具体的に話を詰めていって、納期や金額についてもしっかり話をしておいた。ここを疎かにしてはいけないし、騎士団的にもちゃんとしないといけないところだ。

 そうして話は無事にまとまったので、私の冬の間の仕事が定まったのだった。

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