表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
177/194

安定稼働

 デリックさんを雇ってから、早くも二か月以上が過ぎていた。

 季節は段々冬めいてきて、既に嵐が三度ほど通って季節の経過を告げている。

 道具作りの依頼はあの後順調に貰っていて、既にいくつかは納品が済んでいる。現状大きな問題はなく、順調そのものだ。


 デリックさんも生活にも仕事にも慣れたようで、お給料を渡したら本当にこんなに貰っていいのか、と戸惑われたりもしたけれど、基本的にはいい感じの距離感で過ごせている、と思う。

 お給料の件については、なんというか、なんとなく向けられ慣れた、この人なんか感覚違うんだろうなぁ、みたいな目線を感じた。……最初に提示した通りの額だったんだけどな。

 寝室に暖房を、ついでにお店用にもどうぞ、と作った暖房を持っていったらすごい感謝されたりもした。


 ユージンさんもこっちに来てから大きく体調を崩したりはしていないようで、それも一安心だ。

 と、そんなわけで、道具作りの魔法使いとして、そしてその依頼受け付けは安定稼働している。今ちょっと困っていることで言えば、一つだけだ。


「名前……」

「ホー」


 シエルから……ついでに、手紙でシンディとアデラから。あとはテルセロから。そしてとどめに、ルルさんとレイラさんから。

 つまりは知り合いのほぼ全員から、お店もしくは工房の名前を決めてはどうか、と言われているのだ。

 その方が分かりやすいし、何かと便利だろう、と。


「そういうもの、なのかな?」

「ホー。ホホー、ホー」

「なるほど……」


 道具作りの魔法使いフィフィーリアへの道具作成依頼、がお店の名前一つで説明できるようになる、のか。それは確かに便利かもしれないし、みんながあった方がいいというのなら、そうなんだろう。

 けれど、問題は、私がそういうのが苦手だという事だ。

 もう既に言われ始めてから半月ほど悩んでいるのに、何の案も出てこない。


 ちなみにキヒカは「名前なんて割とどうでもいいけれど、周りの人間がみんな要るっていうなら要るんだろう」ということで、私の相談に乗ってくれている。

 ……私が名前を付けたのなんて、キヒカくらいだ。あとは道具でもなんでも、とりあえず分かればいいかなという簡単な呼び名でしか呼ばない。


「うーん……」

「ホー」

「名前……工房、でもいいんだっけ」

「ホホー、ホーホゥ」

「なんとか工房、が分かりやすいかなぁ」

「ホー」


 キヒカにも相談に乗ってもらいつつ、私は悩みながら手を動かしていた。

 今はお守り作成中なのだ。ルルさんのところに持っていく分ではなく、依頼を受けたものでもなく、私が勝手に作っている、デリックさんとユージンさんに渡す分のお守りである。

 アデラに時々怒られながらも、私は大事だと思った人にお守りを渡す癖を直せないでいる。


 最終的には許してくれるから、と甘えてしまっている部分もあるんだろう。

 それに、今回は私が雇った人だから、安全確保も仕事のうちだろうという言い訳が通じる。……と、キヒカが言っていたので。

 それならばとせっせと効果を詰め込んでいるのだ。


 そもそもあの建物には悪意のある人は入れないようにしてあったりもするんだけれど、それは一旦置いておく。もしかしたら入れちゃう人もいるかもしれないし、外出中に何かあるかもしれないし。

 シエルが傍にいるからある程度は安心なのだけれど、シエルは戦闘は出来るけれど専門外なので、守りは多い方がいいだろう。


「……体調の悪化を知らせる事って出来るかな?」

「……ホー……ホホー、ホー」

「なるほど」


 ユージンさんの方の守りを強くしようかな、なんて考えたついでに思いついたことを声に出したら、キヒカが本人が押せるボタンの方がよくないか、と言ってきた。

 なるほど。本当につらいときには教えてね、というボタンか。


「……ユージンさん、遠慮しないかな」

「ホー……」


 しそうだ、とキヒカも思ったのだろう。悩まし気な顔をしている。

 ユージンさんは、自分の体調のせいで兄に迷惑をかけている、と遠慮がちなところがある。まだ二か月ちょっとの付き合いでも分かるくらいには気にしている。

 なので、教えてね、とボタンを渡しても遠慮して押してくれなさそうな気がするのだ。


 ……それでも非常時に気付けるようにはしたいから、何かしら考えてみたいところだけれど。

 もういっそ本人にどんなのがいいか聞いてみた方が早い気もするが……どうだろう。聞いてしまっても大丈夫だろうか。

 ユージンさん本人に聞くより先に、シエルにでも相談してみようかな。何かいい案があるかもしれない。


「……とりあえずお守り作ろう」

「ホー」


 そして工房の名前を考えよう。

 急ぎじゃないかもしれないけれど、後回しにしていると本当に決まらないから。

 もう既に諦めてシンディに案を貰おうかな、とか考えているけれど、もう少しだけ自分でちゃんと考えてみてから頼った方がいい気がしたので、もうちょっとだけ頑張るのだ。


 ……まぁ、それでも何の案も出てこない気しかしないけど。

 キヒカの名前を決めた時はそんなに時間もかからなかったけれど、あの時はどうやって決めたんだったか。そこまで悩まず、この子はキヒカだなぁと思ったんだったか。

 あの感覚は、使い魔の名前だから出来た事だろうなぁ。つまり今回は無理なのだ。……やっぱり、シンディに頼ってしまおうかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ