嵐の季節
キヒカとそろそろ嵐が来る季節だね、なんて言っていたら、本当に嵐がやってきた。
家の窓を塞いで回って、屋外作業場にも対策用でロープを張って。そうして作業を終えて家に戻る頃には、すっかり頭から足までずぶ濡れだ。
「お風呂入ろう」
「ホー」
まぁ、そうなるだろうと思ってお風呂の準備はしておいたので、身体が冷え切って風邪を引く前にお風呂に入って温まる。
キヒカも一緒に来たので、桶にお湯を張って、それを抱えての入浴だ。
冬には割とよくやっているけれど、暑い時期はキヒカは軽く水浴びをするだけでお風呂には入らないので、これは中々久々である。
「シエルたちは大丈夫かな」
「ホー。ホホー」
「そうだね、備えはしてあるし……」
シエルは色々対策する方だから大丈夫だろうし、デリックさんには窓を塞ぐ板の場所もやり方も説明してある。
板には魔方陣も書き込んであるし、大丈夫だろうとは思うけれど……一回目の嵐だ、少し心配なのはどうしても仕方がないだろう。
「嵐の後は森を見に行こうか」
「ホー」
森の中も荒れているだろうし、嵐の後というのは変に魔力が溜まってしまっていることもある。
去年はキヒカが問題ないことを確かめて……というか、ある程度対処してくれていたのだと思うのだけれど、今年は一緒に行くことにしよう。
狩りなんかをするのもいいかもしれない。秋だし。そう、でっかい燻製機とかあったら楽しいかもしれない、とか考えていたのだ。
そんな風に予定を話し合って、身体がしっかり芯から温まったらお風呂を上がる。
身体の水気をしっかり拭いて、髪の水気もしっかり拭いて、キヒカをタオルでくるんでリビングへ移動する。暖炉の掃除と試運転は既に済ませてあるので、もう暖炉は使えるのだ。
嵐が来ると一気に気温が下がるので、湯冷めしないようにちゃんと暖炉に火を入れよう。
「薪の消費量が増える季節が来るね」
「ホー」
暑い時期は料理くらいにしか使わない薪も、寒くなってくれば暖を取るために大量に消費される。
また薪割もしなくちゃいけないな、と考えて、ふと思った。
「……あ、デリックさんに薪割用の道具」
「ホー」
そうだ、忘れてた。私はいつも魔法で薪割をするから、うっかりしていた。
薪棚は用意して薪を補充して、それで満足してしまっていた。普通に薪割をしようと思うと重労働だから、何か道具を用意しようと思っていたのだ。思っていたのに、うっかり忘れていた。
それと合わせてもう一つ。
「家の暖房……」
「ホホー」
当然あの家にも暖炉はあるけれど、寝室が冷えるといけない。
ユージンさんは身体が弱いそうだし、身体を冷やしてはいけないだろう。外が見えるのが嬉しいと窓辺にベッドを置いていたし、そこからの冷気も防ぎたい。
とりあえず寝室の暖房は私が使っているものと同じものを作るとして、窓からの冷気はキヒカの出入り口に付けているような魔方陣で対処出来るだろうか。
「懐炉が要るかは聞いてみようね」
「ホー。ホホー、ホー?」
「あ、そうだね、シエルにも聞いてみよう」
シエルは自分で対処する気もするけれど、こういうのが作れるよ、とお知らせするのは悪いことじゃないだろう。
嵐が止んだら買い物に行かないと、とメモを作って、他に必要な物を考えながら暖炉の前で髪を乾かす。キヒカもしっかり乾かす。水気は寒さに繋がるのだ。
「さて……編み物でもしようかな」
「ホー」
早めのお風呂が終わった後は、嵐なので外にも出られず暇な時間だ。
なので、若干の暇が出来て再開した編み物をすることにした。久々なので小さな四角い物を編むことにする。沢山作ってつなげてブランケットにでもしよう。布団にかけられるくらい大きくしてもいい。
というわけで編み物を始めた。キヒカは止まり木で寝ることにしたらしいので、静かな時間だ。
途中お茶を淹れに行ったりご飯の支度をしたりもして、一日のんびり編み物をする。
まとまった時間でじっくりやると中々に進む。進捗が目に見えているとそれだけやる気になるので、楽しくてずっとやっていた。
流石に肩が凝って目がしょぼしょぼしてきたところで切り上げて寝ることにしたけれど、そうじゃなければ夜通しやってしまいそうな感じだ。楽しい。
「……キヒカが運動できるものもあった方がいいかな……」
「ホー。ホホー」
「うん、おやすみ……」
嵐の間、家から出られないとキヒカは暇だろうと思ったのだけれど、いらないからさっさと寝ろと言われてしまった。
まぁ、キヒカの事だから暇つぶしくらい既に見つけているのだろう。
何せ去年も嵐の間は家の中で過ごしていたし。……嵐が止んだ後は、一目散に森に行っていたから、運動不足を感じてはいたんだろうけれど。
まぁ、何を用意しても家の中で自由に飛び回るのは難しいだろうし、ならば余計なものは増やさず飛べる範囲を確保しておく方がいいのかもしれない。
なんて考えている間に眠気に負けて、嵐の音を聞きながら健やかに就寝するのだった。