初めまして
シンディから受付の人が決まった、と手紙が来た。あまりにも早い決定にびっくりしてキヒカと一緒に、シンディに手紙を送ってから返事が来るまでの日数を指折り数えてみたりした。
本当に早いな……流石シンディ、受付の人を探したい、という手紙を送ったその時からやる気満々だったし、目星はつけていたんだろうな。
そんなことを考えながら、受付の人が王都からこちらに来る日程も書かれていたので確認して、その日に町まで行って初めましてのご挨拶と、家までの案内をすることにした。
家にはもうすぐにでも住めるくらいに家具を揃えておいたけれど、まだ不足はあるだろうか。
急ぎで必要な物は町で買ってから家に行ってもいいし、家の状態を確認してから町に買い物に行ってもいい。
最近はシエルのお店に行くためなのか、数日おきに町と往復の馬車が出ていたりもするから、町までの往復は結構楽に出来るはずだ。
それでも手間には変わらないだろうし、必要な物が揃いきるまでは荷運びなど手伝うつもりで居る。
でっかい家具など買いたいときは任せてほしい。浮かせて運ぶの、得意です。
そんな気持ちで、当日までそわそわしながら過ごし。当日には朝早めに起きて日課をこなし、着替えて町へ向かうことにした。
季節も秋めいてきたことで少し肌寒く感じる日も増えてきたので、朝早くに空を飛んでいくときは上着を羽織ることにしている。風邪を引いたらまたなんだか大事にされてしまいそうだし。
「どんな人だろうね」
「ホー。ホホー」
「うん、シンディが選んだ人だし、悪い人ではないよね」
「ホー」
キヒカとのんびり話しながら町まで飛んで、いつもの位置で地面に降りたら門番さんに会釈をして町の中に入り、とりあえずロヒ・レメクへ行くことにした。
早くに町に来たから、まだ時間があるのだ。
その時間を使って用事を済ませてしまうことにしたので、まずはお守りの納品に向かう。
今後、ロヒ・レメクに置いてもらっているのよりも効果の強いお守りは、受付で依頼を受けることにする予定だ。
時々これよりも強いお守りが欲しい、と言われることはあったのだけれど、今までは断ってしまっていたから、ようやく受けられるようになる。
そんなことを考えながら町を進んで用事を済ませて回り、王都からの馬車が到着する少し前には広場で馬車の到着を待って、いい感じの日陰で座って門の方を眺めた。
キヒカも肩から膝に降りてきて、どことなく眠そうにしている。
やっぱり昼間は眠いんだろうな、と思いながらキヒカを撫でていたら門から馬車が入ってきたので、キヒカを抱えて立ち上がる。
「ホー」
「うん、来たよ」
私が立ち上がったことで目を覚ましたキヒカが肩に移動したので、両手でしっかり杖を持ち直して馬車から降りてくる人を眺める。
何人か人が降りてきた後に、手に手紙と大きなカバンを持っている人が降りてきた。
その人のすぐ後に細身の少年が降りてきて横に並んだのを見て、キヒカと目配せしあって声をかけることにした。
「あの、こんにちは、デリックさんですか?」
「お、あぁ。あんたがフィフィ……フィフィーリアさんか」
「はい。初めまして」
やっぱりこの人だったようだ。シンディからある程度の事情を聞いていたので、判断がしやすくて助かった。
手に持っていた手紙は、この人が受付の人として雇われたデリックさんだと分かるようにシンディが書いたものらしく、つまりはシンディに持たされた証明書であるらしい。
一応確認させてもらったところ、確かにシンディの筆跡でこの人が受付の人だからね!!!!と書かれていたので、間違いはないだろう。シンディの筆跡は見慣れていて分かりやすい。
メモ用紙もシンディのお家の生地屋さんの物だったし、これで成りすましだったらすごい精度だ。
なんて考えながら、改めて自己紹介をしておくことにした。お互い名前は知っているようだけれど、こういうのは大事だ。
「改めまして、フィフィーリアです。この子はキヒカ」
「ホー」
「俺はデリック。こっちは弟のユージン」
「初めまして、よろしくお願いします」
頭を下げて、弟さんにも挨拶をして。
そうして、このまま家の方に行くか、町で何か買い物をしたり休憩したりするかと尋ねた。
ここまで王都から馬車で移動してきているし、疲れていたら休んでから移動した方がいいだろう。何せここから家まで行くのもそれなりに時間がかかるから。
と思ったのだけれど、家の状態を先に確認したいと言われたので、それならと移動の準備を始める。
馬車を出してもらえるように頼んであるので、声をかければすぐにでも出発出来るのだ。
ちなみに、馬車を出してほしいと頼みに行ったら珍しいなと言われた。まぁ、私普段飛んで移動しているし、王都を飛び出してから馬車に乗っても居ないし、そりゃあそうなのだけれど。
今回は私だけ飛んで移動してもあれなので、一緒に馬車に乗っていくつもりだ。
必要ないとは思うけれど、一応道中の護衛も兼ねて。まぁ、この町と家までの間で襲われるような危険があるのならシエルが真っ先に知らせてくれるはずだから、本当に必要はないと思うけれど。