凄い速度だ
大工さんに建築を依頼してからしばらくは、建材を運んだり支えたりという作業を手伝うために、町とシエルの家を往復する日々を送っていた。
その間も依頼は来るし受けるのだけれど、そちらは夕方以降に進めて、日中は建築のお手伝いだ。
そんなわけでせっせと手伝った甲斐もあってか、建築は凄い速度で進んだ。本当に、びっくりする速度感だった。
本来もっともっと時間がかかるものでは、と思っていたのが顔に出ていたのか、大工さんからは魔法使いが居ると早いなぁ、というしみじみした言葉を貰い、それでこんなに早くなるものなのだろうか、と別の疑問が湧いてきた。
……そういう物なのだろうか?急ぎで、ということで、結構な人手を割いてもらったからかなと思っていたのだけれど。
まぁ、理由はどうであれ、本当に早く家は完成した。
二月足らずの早業だった。ひと月半とか、そのくらいで完成したんじゃなかろうか。すごい。
中を確認させてもらって、水回りには水引の魔方陣を仕込んで回って、ある程度の家具とかあった方がいいだろうか、なんて考えながら家に戻る。
大工さんにお願いしていた部分は終わったので、後は細かい部分を自分で調整するなりなんなりして、受付の人を雇うだけだ。
と、いうわけで、シンディに手紙を書いて、前に頼んでいた受付の人探しを改めてお願いする。
ついでに、家具は私が用意してしまった方がいいんだろうか、と聞いておく。いらなければ売るなりしてもらってもいいから、生活が出来るくらいのものは用意してしまった方がいいかなと思うのだ。
「……ふぅ……あっという間だった……」
「ホー。ホホー、ホーホゥ」
「そうだね、これが終われば、ちょっとゆっくり出来るね」
「ホー」
今日まで結構怒涛の日々だったので、流石に少し疲れた。気付けば季節は夏から秋に移り変わっているし、そろそろ嵐の季節がやってくる。
その前に色々整備しきれると思えば、急いだ甲斐もあるけれど。
「……もうすぐ一年になるのかぁ」
「ホホー」
私がこの家に来たのも、秋の頃だった。だから、そろそろここにきて一年になるのだ。
色々あったからもっと経ったかと思っていたけれど、まだそんなものなのか。なんて思う気持ちと同時に、もう一年経ったのか、と思う気持ちもある。
「一年で家をここまで快適にしたの、すごいのでは」
「ホー」
「ね、外に作業場も作ったし」
「ホー、ホホー」
ね、とキヒカに相槌を打ちつつそっと頭を撫でて、この家に来た詳しい日付は分からないけれど、何かしらお祝いのようなことでもしてみようかな、なんて考える。
せっかく石窯も作ったし、最近はクッキーなんかも上手に焼けるようになったので、ちょっとケーキ作りにでも挑戦してみようか。
失敗しても自分で食べればいいので、やってみるのは良いかもしれない。
「ホー、ホホーホー」
「そうだね。寒くなってきたら編み物も再開したいし……」
「ホー」
「今年は気を付けるよ。ちゃんと、服も増やすもん」
「ホホー」
なんなら既に増えているし。あれだけ防寒していれば、まぁ大丈夫じゃないだろうか。……この考え方が油断しているってことなのだろうか。
なんて、少し余裕が出来たからキヒカと今後の事を話し合って、やりたいことを纏めていく。
そういえば夏に収穫して熟成させていた芋も、もうそろそろいい仕上がりになっている頃のはずだ。あれも食べてみないと。
と、そんな話をしながらゆっくりお風呂に入って寝支度を整え、ベッドに潜り込む。
シンディからの返事は明後日あたりに来るだろうから、それを待って家の中をどこまで整えるかを決めるとしよう。
とりあえず、店の方は可能な限り物を用意してしまっていいだろうから、そっちに必要な物を考えることにする。
お店……私への依頼を受け付ける場所、いまだ呼び方の定まらない場所だけれど、まぁ受付と呼ぶことにする。
その受付は、居住スペースとは渡り廊下で繋がる形にした。
中庭を通ることも出来るしその方が早いけれど、雨の日などは外を通るのは嫌かな、と思ったので渡り廊下も作ってもらったのだ。
受付はそんなに広くなくて、お客さんからは見えない位置に荷物を置いておける部分と、カウンターがあるくらいの場所になっている。
カウンターには椅子を置いておきたい。受付の人が座る用と、お客さんが座る用に二つくらい。
カウンターの内側には引出しもついているので、そこには紙とペンを入れておく予定だ。
あとは、連絡用に魔道具を作っておくつもりだ。これはシエルに渡したものと同じような作りで、困りごとがあったら押してくれれば私が飛んでいく、という感じにしようと思っている。
あとは依頼があったよ、という報告で光らせてもらえれば、キヒカが内容をまとめた紙を回収に来る、とか、そういう使い方も出来るかなと思っているところだ。
そう、この受付部分には、ちゃんとキヒカ用の出入り口がついているのだ。
家の方にはついていないから、お店だけはキヒカが出入り出来る、という作りにしてある。ちゃんとその部分は魔方陣で風の侵入も防いでいるし、穴自体は大工さんに作ってもらったのでとても綺麗。
大工さんは私がキヒカの移動用に家の壁に穴を開けていたのも知っているので、作りたい構造を理解するのが早くてとても助かった。
「ホー」
「うん、寝ようね」
「ホホー」
あれこれ考えるのが楽しくなってしまってベッドの中で考え事をしていたら、キヒカに寝るように言われてしまった。
キヒカはこれから森に行ってくるらしいので、行ってらっしゃい、と声をかけてちゃんと寝る方向に意識を持っていく。
明日もすることは色々あるから、ちゃんと寝ないと辛くなるのだ。