小物の買い出し
浴槽が使えないアホをやらかした私は、他にも色々と欲しい物があるからと再び買い物に行くことにした。
買い物メモも作った。まずは、なによりも浴槽の排水用にパイプ。パイプじゃなくても、何か使えそうなものを見つけていい加減ゆっくり湯舟に浸かりたい。
そんなわけで朝早起きをして、支度を整えたら杖に跨って空を飛び、いつものように町を目指す。
キヒカは相変わらず杖に止まって風を浴びている。町に行くときはこうするのが常になってきている気がするのだけれど、そんなに気に入ったんだろうか。
なんて考えながら町へ向かい、到着したら地面に降りて肩にキヒカを止めて買い物メモを取り出した。
まずは、資材屋さんへ行こう。まずはパイプを買わない事には他の買い物も考えられない。
そんなわけで既に何度か足を運んでいる資材屋さんへと向かい、前に案内してもらって場所を把握した排水パイプのある一角へと足を進めた。
欲しいのは、浴槽の底からふちを越える所までの長さのパイプと、向きを変えて水を流す部分。
縁に引っ掛けられれば放置も出来るし、そうするつもりだ。長さは長めに買って行けばいいので、探すのは向きを変えるパーツになるだろう。
ちょろちょろと棚の間を歩き回って、問題なく接続できる曲がったパイプと真っすぐなパイプを持って、会計に向かう。これであとは魔法陣を彫り込めば、浴槽も使えるようになる……はずだ。
「よし、次」
「ホー」
次に向かうのは、小物を売っているお店。浴室本格始動に向けて、小物も色々と欲しい。今までは野営とかで軽く身体を拭いたりとかくらいしか出来ていなかったし、それ用の物を使っていたのだけれど、ちゃんとお風呂に入れるとなればしっかりしたものが欲しくなる。
泡立ちとか香りとか、全然違うのだ。
野営用の物は手軽で嵩張らなくて、後処理が簡単なのが良い物として選ばれるから。
私は魔法でざっくり髪を洗ったりもしていたけれど、髪の艶だのなんだの、その辺は一切合切無視して清潔さとスッキリした気持ちの為にやっていたことだった。
浴槽も……まぁ、一応使えるようになった、余裕のある今の私は、親友が私の髪にやたらと手をかけようとしていたことも思い出し、ちょっと手をかけてみようかな、という気分になったのだ。
あわもこになって身体を洗いたい気分でもあるし、そういう物も探す。そう、私はお風呂を全力で楽しむのだ。ただの作業ではなく、楽しむものにするのだ。
そんな決意をもって雑貨屋に向かい、並んでいる物の多さにいつも通り目を回しかけた。
何が違うのかも分からない。そういえば、シンディの選んでくるものも私にはよく分からない物だった。前言撤回、私は分相応に、ほどほどにお風呂を楽しめればいい物とする。
とりあえず何か分からないけど、髪と身体を洗う物があればいいや。そういう事にしよう。
キヒカが匂いの強さにびっくりして外に出てしまったので、待たせないようにさっさと選ぼう。
何が何だか分からないけれど、学生時代を思い出しながら頑張って選ぶことにする。
なんて、棚に手を伸ばしかけては引っ込める私の哀れな姿に思う所にあったのか、隣で商品を選んでいたお姉さんが相談に乗ってくれた。
お客さんだと思うのだけれど、詳しい人だった。
何も分からないけどお風呂の道具を一式そろえたいのだとのたまう私に、説明しつついるものを選んでくれた。なんて優しい人なんだろう。
私がとんでもなく哀れに見えたという説もあるけれど、だとしてもお姉さんへの感謝は変わらない。お礼を言って会計に向かい、外で待っているキヒカの所へ向かった。
「ホー……」
「匂い?そんなに……分かんないな……」
色々混ざった匂いがするのか、キヒカはちょっとためらってから肩に乗ってきた。それでも乗るらしい。可愛い。
さて、これで一応今回欲しかったものは揃ったのだけれど、さっきのお姉さんが浴室に置くなら床に置くのではなく台の上にでも、と言っていたのでそれ用の台を探しに行くことにした。
おすすめの雑貨屋も教えて貰ったので、そこに行ってみるつもりだ。
私はつくづく人の縁に生かされているなぁ、と思うばかりである。
あとそうだ、服屋さんも教えて貰っちゃったのだ。確かに服も、そろそろ新しくしてもいい頃かもしれない。さっき服用の洗剤まで選んで貰ったし、冬まで粘ってもいいけれど。
なんて、色々考えつつ二件目の雑貨屋に入る。ここは先ほどの所と違って色んな匂いが混ざっている感じも無いようで、キヒカは肩に乗ったままだった。
なのでキヒカに相談しながら浴室に置く台を選び、ついでにタオルなんかを買って、それを干せるラックも買って、ついでに見つけた食器の水切りの網も買って、増えた荷物を抱えて店を出た。
これは、結構生活が豊かになってきたのでは。
なんだか楽しいお店だったし、また来たい所である。覚えておいて、また来よう。なんだか買うつもりのなかったものまで買った気がするが、便利そうだったからいいのだ。
魔法で荷物を浮かせながら機嫌よく歩き出し、ついでに食料も買って帰るか、と市場の方へ足を向けた。