受付の場所
シンディから手紙が来た数日後、私は昨日焼いたパンをサンドイッチにして、それを持ってシエルの家へ向かっていた。
いるかな、とちょっとドキドキしながら来たのだけれど、シエルは無事畑に居たので声をかける。
まだここに住み始めてひと月ほどしか経っていないはずなのに、実に見事な畑だ。これが本職か。
「フィフィーリア先輩!こんにちはー!」
「こんにちは。今時間いい?」
「はい!ちょっと待ってくださいねー」
畑の手入れもちょうど一息吐くところだったらしく、家の中に案内されたのでついていく。
持ってきたサンドイッチを差し出すと拝まれたので、お腹も空いていたようだ。シエルも料理はする方だと思っていたけれど、今日は特に用意もしていなかったらしい。
二人分のサンドイッチを皿に並べ、出されたお茶を受け取ってお昼を食べながら話を切り出す。
「ねえシエル、私が道具の制作依頼を受け付ける建物、ここの傍に作ったら迷惑かな?」
「受付ですか?道具作りの魔法使いが、よくやる形の、ですよね?」
「うん」
「迷惑なんてとんでもない!先輩が町よりここの方がいいって思うなら、ぜひそうしてください!」
ぱやっと笑ったシエルに、小さく安堵の息を吐く。
私としては、町よりもここの方が往復も楽だし、変に面倒に巻き込まれることもないかな、と思っていたのだけれど、それでシエルの迷惑になるのは嫌だったのだ。
家が出来て生活が安定してきたことで、シエルの人間に対する恐怖心もだいぶ消えたのかもしれない。少し前なら、不安が表に出て来そうなところだけれど、今日はそれも全く見えなかった。
「よかった、なら大工さんに建物の依頼もしないと。……そういえば、なんか休憩小屋が新しくなってなかった?」
「あ、そうなんですよ。町の人がたまに来るんですけど、夕方に町まで帰るのは危ないからって一泊できるように改造されまして……なんかちょっとした宿みたいになってます」
「そうなんだ……」
「ホー」
いつの間にそんなことに。シエルは草薬の魔法使いだから町の人も頼ることは多いんだろう。
町にも診療所はあるけれど、魔法使いの作る薬はまた別物だ。合わせて使えるのが一番いいし、何なら診療所の人が買いに来ているのかもしれない。
と、そんな話をしていたらシエルに私が診療所の場所を知っているのが意外だと言われてしまい、私が冬に風邪をひいてキヒカに運び込まれた話を知られてしまった。
特別薄着だったつもりもないし、それで油断したつもりもないのだと言い訳はしたけれど、シエルは何かうっすらとした笑みを浮かべて納得したようにキヒカと頷きあっていた。
なんで二人が通じ合っているんだろうか。この話になるたびに、キヒカは人と頷きあっている気がする。私だけ理解できていない何かがあるのは分かるけれど、それの内容を教えてはくれないのか。
「受付の人はどうやって探すんですか?募集かけたり?」
「シンディが任せろーって」
「あぁ……すごい安心感が……」
「ホホー」
そう、あの後手紙でお礼と、もし人を探すとなったら頼ってもいいかと聞いてみたら、すごい速度で返事が来て任せろ!!!って言われたのだ。
この件に関しては誰よりもシンディが気合十分かもしれない。まだ建物がないから、まだだからねと念押しの手紙を送り返したくらいには気合十分だ。
「このまま建物が増えていったらここが村みたいになりますね」
「そうだね。宿もあるし」
「宿場町かぁ。ちょっと町に近い気もしますけど、まぁ小休憩にはいい場所かな?」
「ホー」
雑談しながら昼食を食べきって、少し休んだ後は建物を建てるならどこがいいか、というのをシエルと一緒に見に行くことにした。
人を雇うなら、私への依頼を受け付けるお店の部分とは別に、その人が暮らすための家もないといけない。
完全に同じ建物にするか、別の建物にするか。そのあたりは大工さんと相談だろうか。
「……あ、そうだ忘れる所だった……」
「どうしたんですか?」
「これ、シエルに渡しておこうと思って」
場所はシエルの家の向かいあたりがいいだろう、ということで話が纏まったところで、もう一つ用事があったことを思い出した。
私が完全に忘れていたらキヒカが帰る前に教えてくれただろうけれど、そうなる前に思い出せてよかった。
なんて考えながら、ポケットに入れてきた小さな道具を引っ張り出す。
「箱……あ、開く」
「うん。押したボタンに合わせて、三色に光るようにしてあるんだけど……何か用事がある時に、家に居るかどうかだけでも分かったら便利かなって」
「なるほど。……もしかして双方向ですか?」
「うん」
「また地味にすごいことを……」
私の分も作って、どちらからでも合図を送れるようにしてある。
今から行きたいけど都合はどうですか、の確認用に一色、来ても大丈夫な時の色と、都合が悪い時の色で二色。計三色だ。
試しにボタンを押してみたらちゃんと光ったので、問題はなさそうだ。
そんな確認をして、私が次に町に行く日程も知らせておき、また大工さんと一緒に来ると思う、と伝えておく。
なんだか、いつまでも家を直したり建てたりしているなぁ、なんて思いながらシエルと別れて、私は家に戻ることにした。
依頼を受けていた道具は作り終わっているから、帰ったらまた別の物の試作でもしようかな。