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程々に忙しい

 シエルとアルパの顔合わせは問題なく終わり、これからは回復魔法の事はシエルに聞く、ということになった。私は回復のかの字も分からないので、これで一安心だ。

 さて、そんなことを考えつつ、私はリビングに積みあがった樽を眺めているわけなのだけれど、これが中々場所を取る。


 大工さんの奥様方からの依頼は、一つ一つならばそう時間もかからないものなのだけれど、一気に沢山作ろうと思うと当然それだけ手間がかかるのだ。

 土台の方は前にもお願いした職人さんにお願いして、完全にお任せしてしまうので問題はない、が、この量は中々である。


「魔方陣、彫り込みかなぁ」

「ホー」


 樽は既製品を必要個数買って来てあるので、あとは魔方陣を用意するだけ……なのだけれど、それについて少しだけ悩んでいるのが現在だ。

 彫り込みが確実だとは思うけれど、どうだろう。中に水と洗剤を入れるわけだから、書き込みは避けるべきだろうと思うのだ。


 紙を貼るのも、少し不安。ならば掘り込みか……と、思うのだけれど、それだと不具合が起こった時の交換が少し面倒くさい。

 樽の底板が外れたりしなければ問題は無いと思うのだけれど、毎日使っていると多少ガタが来そうな部分ではある。


「ホー。ホホー」

「……そうだね、確かに」


 けれど、まぁキヒカの言う通りだ。今からそんな心配をしても仕方がないのである。

 と、いうわけで、魔方陣は彫り込むことにした。

 樽をひっくり返して床に置き、彫刻刀と筆を持ってきて魔方陣の下書きをして、乾いたら魔方陣を彫っていく。


 最近何かと木を彫っているな……なんて思いつつ作業をして、時々腰を伸ばしつつ樽に魔方陣を彫って、とりあえず出来た一つを仮組で簡単に作った土台に乗せて、魔力を籠める。

 問題なく動き出したのを確認して、キヒカと小さく頷きあった。

 魔方陣は、これで問題なさそうだ。その確認が出来たので、残りの樽にも魔方陣を下書きしていく。


「魔石固定用の網は町で作ってもらってるし、樽にはもうそれ用の穴が開いてるし……」

「ホー。ホホー、ホー?」

「そうだね、余裕があったら、作ってみようか」

「ホー」


 奥様達が石か何か入れて叩き洗いすると言っていたから、それの管理用に何か作ってみてもいいかもしれない。

 濡れたままで放置するよりかは乾燥させた方がいいだろうし、水洗いしてから乗せて置けば早く乾く物ならば他にも使い道はありそうだ。


 作りたいものが増えてきたな、とちょっと楽しくなりつつ樽の加工を進めていく。

 好きに物を作るために忙しいのは楽しい。予定を組むのも、材料を考えるのも楽しいのは良いことだ。

 こうやって道具作りは楽しいのだ、と思い出していると、なんだか死にそうになりながら働いていた王宮魔術師時代の事も浄化できるような気がする。


 なんて、最近はあまり苦痛に思わず思い出せるようになってきた王宮魔術師時代に思いを馳せる。

 先輩たちはみんな仕事の環境が改善されて、お休みも取れるようになったと聞いているけれど、元気だろうか。

 一度テルセロを経由させてもらって日持ちするお菓子を贈ったこともあるが、あまり詳しく現状は聞いていないのだ。


「……うん、出来た」

「ホー」

「そうだね、この感じなら、余裕をもって全部終わりそう」


 魔方陣を彫りこむだけならそれほど時間もかからないので、ひと月ほど時間は貰ったが、そこまで待たせることなくお渡し出来そうだ。

 後はまぁ、完成した土台を受け取って、乗せてみて問題がないかどうか、だろうか。

 問題があったら作り直すか調整しないといけないので、その辺を考えるとやはり期間はひと月あって正解なのだろう。


「魔方陣発動用に魔石……一個目は用意しておくべきかな」

「ホー、ホホー」

「そうだね、魔力少なめの……屑石だと小さすぎて二、三回で崩れそうだなぁ」

「ホホー、ホー。ホーホ」

「なるほど……」


 付けて渡すのは屑石で、別で手持ちの魔石を売ればいいと。キヒカは一体どこでそういうやり方を覚えてくるのだろう。

 私よりもキヒカの方が商売の事を分かっている感じがするのは、一体何故なのか。

 最近は夜の間に町まで行ってその時間にやっているような商売を見ていたりするんだろうか。キヒカなら出来そうだけども。


「町の人ならヒヴィカのインクの場所も分かるよね」

「ホー」

「なら、そっちで買ってください、で良いかな」

「ホホー」

「そうだね、それが手間って人には手持ちの魔石を売ればいいね」


 方針は決まったので、今日の作業を終えて他の魔道具の構造を考えることにした。

 次に町に行ったときに職人さんから土台を受け取って、持って帰ってきて乗せてみて問題がないかの確認をして、問題なければ奥様方へ引き渡し。

 間に誰も入っていないから、そこまで私の仕事だ。少し緊張するけれど、投げ出すことも出来ない。


 王都では接客は別の人がやっている道具作りの魔法使いのお店もあったな、なんて思い出しつつ、シンディに町の人から依頼を受けたよと手紙を書いてみてもいいかもしれない、と思考を回す。

 シンディとは相変わらずの頻度で手紙のやり取りをしているけれど、テルセロはそろそろ王都に戻ってきたんだろうか。

 まだ忙しいなら、道具作りの魔法使いを本格的に再開したから道具の制作依頼を受け付ける、という連絡は後の方がいいかな。

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