表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
163/194

仕事の依頼

 屋外作業場で日差しを避けながら丸太椅子に座って、先端の尖った木材に護りの文字を彫り込んでいく。

 私の座っている丸太椅子の横にはもう一つ椅子が置かれていて、そこにはキヒカが座ってお昼寝に勤しんでいる。

 何をしているのかというと、まぁ見ての通り家の周りを囲んでいるのと同じ杭作りなのだけれど、これは私の家を囲う物でも新しく耕した畑を囲うものでもない。


 これは、シエルから正式に道具作りの魔法使いへの依頼として頼まれた仕事の品である。

 つまりはシエルの家の周りを囲うものだ。私が木を切ってシエルが整えた土地を丸ごと囲うので、結構な量が必要になっている。

 けれど、これは既にいい長さに調整されて、先端も削られた状態で運び込まれているので、全て自力でやった自宅周りと比べるとやること自体は少ないのだ。


 シエルが家の周りを囲んで守ると決めた後、私に依頼を出して、一緒に敷地全域を囲むのに必要な杭の数を数えて、杭の長さを測って、そうして町の加工屋さんに木材の加工依頼を出したのだ。

 なので今私の手元にある木材は全て長さも揃っていて、先端も綺麗に鋭く削られている。

 なんなら、全て同じ位置に線を入れてもらってあるので、私はそこに合わせて文字を掘り込み、魔石を打ち込むだけでいいのだ。


 そうだった、道具作りの魔法使いの仕事としては、それが普通なのだった。

 なんて、驚きと感動、そして納得に襲われつつ私はせっせと文字を彫り込んでいる。ちなみにここに彫り込む文字は、シエルとも相談した結果私の家の周りを囲んでいるものとは少し変えて、より広範囲の守りに適したものにしてある。

 敷地が広いから、その方がいいだろうという話になったのだ。


「……よし」

「ホ」

「あ、おはようキヒカ」

「ホー」


 文字を彫り終わった杭を横に避けたら、キヒカが小さく鳴いて目を開けた。

 まだまだ終わらないから寝ててもいいよ、と言ったけれど、起きることにしたらしく軽く翼をばたつかせた後毛繕いをしている。

 その様子を眺めて少し休憩した後、私は次の杭を手に取った。


 私の仕事はこれをシエルに受け渡すところまでで、その後に杭を地面に打ち込んだりその間を繋いだりするのは大工さんに頼むらしい。

 そして、間を繋ぐのはロープではなく木材にするんだそうだ。つまりこれはしっかり柵になるのだ。

 私は自分でやったからロープでつないだけれど、柵の方が頑丈なのは確かだろう。


 ついでに、しっかり出入り用のゲートもつけるらしく、それが完成したらシエルの家はまた一段と綺麗な仕上がりになるのだろう。

 必要な杭の数を数えがてら顔を出したら、畑も既に整備されていくつか植物が植えてあったから、草薬の魔法使いとしての本格稼働もそう遠くはないだろうし、何よりシエルは楽しそうだ。


 やっぱり何かしらやる事がある方が気がまぎれるのだろう。

 町に来てすぐの頃の不安そうな、どこか落ち着かなさそうな雰囲気は既に鳴りを潜めていて、今は学生時代のような楽しそうな感じが前面に出てきている。

 いろいろと作業を頼んだからか大工さんたちとも仲良くなったようで、大工さんを通して大工さんの奥様方と仲良くなって、料理のレシピを教えてもらったりもしているらしい。


「楽しそうで良かったよね」

「ホー」

「やっぱりシエルはああじゃないと」

「ホホー」


 私の認識では人の輪の中で楽しそうに笑っているのがシエルなので、過度に怯えることなく楽しそうに町の人たちと関わりを持っている様子は、見ていて嬉しいのだ。

 無理をしている気配もないし、安心して住める家がある、というのも大きいのかななんて考えながら、手元の杭にせっせと文字を彫り込んでいく。

 彫り終わったら魔石の準備もしないといけないな、と脳内でやる事の順番を組み立てて、キヒカと話しながらのんびり作業を進める。


「そういえば、アルパの事をシエルに話すの忘れてた……」

「ホー。ホホー?」

「うん。回復魔法の先生は居た方が良いからね」

「ホー」


 シエルの魔力は柔らかいので、回復魔法も扱える。なので、色々落ち着いたらアルパを紹介して回復魔法についてはシエルに教えてもらえないだろうか、と考えていたのだ。

 イリアス先輩はそうそう頼れないので、初級の回復魔法を教えてくれる人として、シエルがいてくれたらとても助かる。

 とはいえ、これは仕事としてやっているわけでもないので無理強いはせず、もし時間があれば、くらいの話になる。


「アルパは攻撃より回復が向いてそうだからね」

「ホー」


 私は攻撃向きなので、多分相性があんまりよくないのだ。

 基礎の部分は教えられるけれど、細かい向き不向きを考えると他の人に習った方がいい。

 アルパが他に先生を見つけるまで放り出すつもりはないけれど、他の魔法使いと会わせてみて、相性がいいなら出来るだけその人に習えるように場を整えるくらいは、した方がいいだろう。


「ホホー。ホーホー」

「……確かに?」


 なるほど、確かにキヒカの言う通りだ。

 もしかしたら、アルパが道具作りの魔法使いになりたい可能性もあるのか。

 なにせアルパは家族の中でもおじいさんに特に懐いてずっとついて回っているらしいし、おじいさんは木彫りの職人さんだし。


 アルパの魔力は柔軟性が四だから、道具作りの魔法使いとしての適性はある。

 ……もしそうなら、私が見ていた方がいい、のだろうか。どうなんだろう、物作りにしても、結構幅があるんだけれど。

 次にアルパに会った時に、魔法使いの特性の説明をして、どうなりたいかを聞いてみるべきかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ