シエルの新居
王都に買い物に行って、戻ってきてから数日。
私はこの数日で、買ってきた道具を設置したり、あらかじめ買って置いてあった机や棚の位置を調整したり、王都で買ってきた小物類を棚にしまったり、新たに木材でちょっとした棚を作ったり、椅子の可動域と棚の戸の開け閉めに影響するものがないかを確かめたりして、物置になっていた空き部屋を作業部屋に作り替えていた。
「出来た……!」
「ホホー」
満足感から杖を高らかに掲げて呟いた私の頭に乗って、キヒカがぐるりと部屋の中を見渡す。
元々床に直置きしていた鍋などもしっかり棚に収納して縦に保管が可能になり、とりあえずとここに置いてあったお客さん用の折り畳み家具もしっかり棚に保管された。
物置から作業部屋への華麗なる転換である。
なんだかんだと最初の予定よりも増えた道具も溢れることなく設置することが出来たし、後は実際に使っていくうちに使いやすいように調整されていくだろう。
これで、私は約一年ぶりに道具作りの魔法使いとして本格的な稼働が出来ることになった。
まずは何を作ろうか、どこから調整を始めようか、とウキウキで考えつつ扉を閉めて、ちょっと畑に行くことにした。
帽子を被って靴を履き替えて、キヒカを肩に乗せて畑に向かう。
王都に行っている間にも雨は降ったようで、全て駄目になってしまっても仕方がないかな、と思っていたのだけれど、全くそんなことはなくまだまだ収穫は出来そうだ。
今日もしっかり収穫させてもらった。ので、今畑に来た目的はそれではなく、その横だ。
来年にはもう少し畑を拡張しようかな、とシエルにも相談した結果、今の畑よりも広い規模で新しく畑を作ることにしたのだ。
そして今は、畑予定地を耕して、草の根っこなどを取り除くところまで終わっている。この後は、ここにモワブホという直物の種を蒔いていく。
モワブホは土の状態を回復させて土を育ててくれるらしい。
「流石、草薬の魔法使いは土と植物に詳しい」
「ホー」
私の畑と土の状態を確認したうえで、ここならばと植えるべきものを教えて種をくれたシエルに感謝だ。今度またお礼に何か持っていこう。
そんなことをキヒカと話しながら、耕した土の上にモワブホの種を蒔いていき、蒔き終わったらじょうろで水を撒く。
「ここにも囲いを作らないとね」
「ホー」
木材を買ってきて、先端を削って、護の字を彫り込んで、魔石を打ち込んで。
手間はかかるけれど難しい作業ではないし、嫌いでもないのでのんびり進めていこう。
なんなら杭作りは冬の間にのんびり進めておいて、春になったら立てる作業を始める、というくらいの感じでいいのだ。まだ何も植えていないから、荒らされることもないし。
やる事が無かったら進めるくらいの作業にしておこう、と考えて一人頷き、畑の縁に沿って歩きながら必要な杭の数を数えておく。
数を数え終わったら忘れないうちに家に戻ってメモを作っておき、次の買い物リストに追加した。
これで、今日やろうと思っていた作業はおしまいだ。まだお昼前なので、午後に何をするか考えておこう。
「ホー」
「うん?」
「ホホー、ホーホー」
「そうだね、行ってみようか」
どうしようかな、と考えていたら、キヒカがシエルの家を見に行かないかと言ってきた。
確かにシエルの家であれば午後からでも行ける距離だし、もうそろそろ完成だと聞いているから、様子が気になるのも分かる。
キヒカなら夜に一人で見に行くことも出来るだろうに、私と一緒に行こうと思って気にはなるけど見に行かないでおいたらしい。可愛い。とても可愛い。
「じゃあ、お昼ご飯持って行ってみようか」
「ホホー」
もしかしたらシエルも居るかもしれないし、ということで、お昼ご飯にサンドイッチを二つ作って、それと水筒を籠に入れて持っていくことにした。
お昼ご飯の準備を終えたら外に出て、杖に跨って空に上がる。
いつも通り杖に相乗りしてきたキヒカと一緒にシエルの新居に向かって飛んでいき、見えてきた森の中の空き地に、やっぱり上から見ると分かりやすいなぁ、なんて考えた。
上から見てみたら、敷地の中にはちょうどシエルが立っていた。
他に人は見当たらないな、なんて思っていたらシエルがこちらに気付いたようで、大きく手を振られたので傍に降りる。
なんだろう、いつもよりもご機嫌というか、嬉しそうだ。
「フィフィーリア先輩!」
「ご機嫌だねシエル」
「はい!ついに家が完成したんです!」
「おぉ……おめでとう」
「ホー」
「ありがとうございます!」
ちょうど今日の午前中に家の中の確認が終わって、問題なしと判断出来たらしい。
そして、その確認をもって依頼していた作業は全て終わりになった、と。作業を終えて大工さんたちは町に戻っていったけれど、シエルは一人で残って完成の感動に浸っていたところだったみたいだ。
「じゃあ、明日からは荷物の運搬だね」
「はい!」
「手伝うよ。量もそこそこあるだろうし」
「良いんですか!?ありがとうございます!」
「ホー」
「うん、とりあえず、お昼ご飯食べよう?」
持ってきた籠を持ち上げて興奮状態のシエルをお昼ご飯に誘う。
この土地にはシエルの新居のほかに、屋根のついている資材置き場と大工さんたちの休憩所になっていた小屋があるのだ。
小屋の方は好きに使っていいと言われているので、そこでお昼を食べることにした。中には机と椅子も置かれているので、食事を取るにもピッタリの場所だ。