思ったより大荷物
王都に到着して二日目、私とシエルは、当然のように連日の休みをもぎ取っているシンディと一緒に、王都の中を散策していた。
相変わらず王都の中は賑やかだ。見覚えのある場所も多いけれど、いつのまにやら知らない建物が立っていたり、前まであったはずの建物がなくなったりしている。
変化の多い王都の中心街を通り抜けて、古いお店も多く残っている大店の並ぶ一角へと足を進める。
私が学生の頃に良く通っていたお店は、特に変化なくそのまま残っているらしい。あそこも古くて長く続いているお店だからそんなに心配はしていなかったのだけれど、あると聞いて安心した。
王都では一体何があってお店が潰れるか、なんて予想も出来ないからね。
「新しく出来たお店もあるよ。小物とかは、そっちで見てもいいかも」
「じゃあ、ここで探すのは大型道具だね」
「とりあえず蒸留器ですかね。フィフィーリア先輩はどのくらいの大きさのを探すんですか?」
「ソメメブの精製が出来るやつかな」
「あ、でっかいやつだ」
「ホー」
やっぱり色々作ろうと思うと、他のパーツを接続して増やせたりある程度大きかったりする道具が必要になるのだ。
シエルもやっぱり大きめのやつを買うつもりではあるらしいので、これは何かを作る魔法使いからすると絶対の条件になるんだろう。小さいとね、作れないものもあるから。
今後長く使っていくものなので、良い物を選びたい。
そんなわけで、学生時代から通っていたお店に入って大型道具が纏められている一角へと足を進める。
私は蒸留器、シエルはその他に大釜とすりこぎと撹拌機を探さないといけないらしい。撹拌機は私も欲しいところだけど、必要になったら自作も出来るから今は買わなくてもいいだろう。
まずは大釜から探すか、という話になり店の中を見て回りつつ、私も必要そうなものをいくつか見繕う。
「ホー」
「うん?……あ、これ」
「ホホー」
「そうだね。シエルー、ヤァプあったよ」
「あ!買います!!」
あれこれ見ながらお店の中を進んでいたら、キヒカが何かを見つけて一声鳴いた。
その声に従ってそちらに目線を向けると、ヤァプと呼ばれる道具が何種類か置かれている。買わなければ、と考えていた物の中には入っていなかったけれど、あった方がいいものだ。
すっかり忘れていたので、キヒカが気付いてくれてよかった。
というわけで別の物を見ていたシエルも呼んで、どれにするかと話し合う。
ヤァプというこれは、一定の速度で液体や粉などを落とす道具だ。絞りを弄ることでどのくらいの速度で一滴、もしくはひとつまみの粉が落ちてくるかを決めることが出来て、細かい調整が必要な物作りではあると重宝する。
そんなわけで、シエルと私ではこれを使って作りたいものも違うので、それぞれの用途に合わせたものを選んで浮かべ、次の物を探しに行く。
元々の目的だった蒸留器も見て選び、追加の部品と接続用のあれやこれやも購入する。
ついでにろ過機だのなんだの、あれこれと選んで購入すると、既に私たちの上は浮かべた荷物でいっぱいになった。
「うん、一回宿に荷物置きに行こうか!」
「そうだね」
「ホー」
「はい!」
ここまで物珍しそうにはしつつも、ただニコニコ笑って私たちの買い物を眺めていたシンディの号令がかかった。
シンディは学生時代から私の買い物に付き合ってくれていたりもしたから、なんだか慣れた様子だ。
とはいえここまでの大荷物になることは珍しい。元々大荷物になる予定ではあったけれど、だとしても、だ。
「思ったよりも大荷物になるかも」
「そうですねぇ」
「ホー」
見通しが甘かったかな、とは思いつつ、どれも必要な物なのだから仕方がない。
今回買わなかったとしても、そのうち必要になって買いに来ることになっていただろう。
道具作りを本格的に再開するのであれば、この数年忙しくて存在を忘れていた道具たちを思い出して買いに来ることもあるだろうし、その回数が増えるか減るかという違いしかないのだ。
だったら、回数は少ない方がいい。魔法使いであればそう日数もかからず往復できる距離であるとはいえ、遠いことには遠いので。
その間家の畑はほったらかしになってしまうし、作業も出来ないし。
次から買い物に来るのは畑の心配がない冬の間になるだろうか、なんて考えながら、荷物を宿に置いて買い物の続きに戻る。
「次は小物見に行く?さっき言ってたお店!」
「そうだね」
「ホー」
「楽しみですねぇ」
今回の買い物はどれだけ大荷物になってもいいから、必要な物をとにかく揃えていこう。
そう改めて心に決めて、私は静かに気合を入れた。キヒカも肩の上でふくふくと身体を膨らませているから、一緒に気合を入れ直してくれているのが分かる。
顔を見合わせて、同時に頷いて、私とキヒカは前を歩く二人のご機嫌な声についていきつつ、楽しかった学生時代と多忙で半分記憶が飛んでいる王宮魔術師時代を思い出して、必要な道具を改めて脳内に並べるのだった。