荷運びは得意
シエルの新居予定地を確保した後、私は町で頼んでいた玄関扉を受け取って、家に戻ってからはそれに魔方陣を彫りこんで取り換え、ようやく玄関に鍵をかけられるようにした。
うん、玄関扉が綺麗になったことで、また一段とかつての面影が消えた。もう部屋の配置くらいしか共通点はないのではないかと思うくらいには別物だ。
「綺麗になった……!」
「ホー」
大満足だ……!と両手を掲げ、キヒカと一緒に玄関の完成を喜び、扉を開け閉めして問題がないことを確かめる。
どこにも異常は見られないし、これで大丈夫そうだ。
魔方陣もしっかり発動して、鍵の役目を果たしてくれている。
「よし、お守り作ろう」
「ホー」
とりあえずやる事が終わったので、家の中に戻ってお守り作りをすることにした。
数日後にはシエルの新居作りが始まるので、お手伝いに行くのだ。それまでにある程度お守りを作って、ルルさんのところに持っていきたい。
次は食料の買い出しもしてこないとな、なんて考えながらお守り用の魔方陣を書いて、乾燥棚の板に乗せていく。
板が埋まったらそれを抱えて乾燥棚に持っていき、棚にセットして別の板を持って戻る。
それを数回繰り返して、結構な量の魔方陣が出来たので手を止めて、続きは魔方陣が乾いてからにするので、時間を確認して夕食の支度を始めることにした。
そしてキヒカと一緒に夕食を食べながら、シエルとの連絡用に何か道具があってもいいかもしれない、なんて話をした。やっぱりあったら便利だし、シエルなら多少複雑なものでも使えるだろうし。
道具についてあれこれ考えながら日々の作業をこなしている間に数日が経って、シエルの新居作りのお手伝いに行く日になったので、杖に跨り町へと飛んでいく。
町に着いたら今回も門の傍で待っていたシエルと合流して、先にルルさんのところにお守りを渡しに行き、その後大工さんのところへと向かう。
「おはようございます」
「おう、おはよう」
今回は、家の傍に建材を運び込んで、保管するための簡易的な建材置き場を作るらしい。
私は荷運びのお手伝いだ。運ぶのは得意。任せてほしい。
と、気合十分で大工さんについていき、大工さんの同僚の人たちに挨拶をして運ぶ建材と順番を教えてもらう。
本来なら馬車や押し車で少しずつ運ぶらしく、それだけでかなりの時間がかかるんだそうだ。
私が普段から物を浮かせて運んでいるのは皆さん見たことがあるらしく、あれで運べるなら大分時間も短縮できるのでは、という感じの反応だった。
疑いなく任せてもらえるのは嬉しい。張り切って運んでいこう。
というわけで、まずは町の中で用意された建材を町の外まで運び出す。
その間にシエルと大工さんたちは新居予定地に移動するらしく、私が運ぶものを間違えないように一人だけ残ってくれた大工さん以外は街道を歩いて行った。
シエルは今日まで毎日コツコツ新居予定地に通っては地面を均し、街道から予定地までの道を作っていたらしい。
流石草薬の魔法使い、地面作りに余念がない……と合っているのか分からない感想を思い浮かべつつ、町の外に運び出し終わった建材を纏めていく。
残ってくれた大工さんにも手伝って貰って二つに分けてまとめて、それが終わったら杖に跨って地面を蹴った。
私の横ではキヒカが身体を大きくして、大きな方の建材を掴んでいる。
「よし、行ってきます」
「おう、気をつけてなー」
大工さんに一声かけたら小さい方の建材を浮かべて、キヒカと一緒に空に上がる。
今回は建材置き場を作るための荷物なので、そこまで多くはない。今後は量が増えるのかな、なんて思いながら空を飛んでいると、街道を歩いているシエルが見えた。
私たちの方が先に着きそうだ、と考えていたらキヒカが一声鳴いた。なるほど、確かに。
「荷物、どこに置いたらいいですか?」
「敷地内入って左側に纏めといてくれ」
「分かりました」
一度高度を落とし、大工さんに建材の置き場所を聞いて、空に戻る。
キヒカにも置き場を伝えて、新居予定地に先行して建材を置いておく。
なにやらロープが張ってある場所があるけれど、これが建材置き場を作る場所、という事ならここには置かない方がいいか、と思ったので少しだけ離して置いておいた。
もしかしたら動かすかもしれないので、建材はまとめたままでシエルと大工さんたちの到着を待つ。
待っている間に、この数日シエルが丹念に均した土地を歩いて回る。
木の伐採と根っこの排除を手伝った時は固くて石やら木の根やら、木漏れ日で茂った草やらでそこそこ歩きにくかった地面だけれど、今ではその全てが跡形もなく、ほどほどにふかふかで、けれど歩きやすい地面になっていた。
「これが本職……草薬の魔法使いの実力……」
「ホー」
私の畑よりもふかふかだな、なんて考えている間にシエルと大工さんたちも到着したようで、綺麗に整備された土地にちょっと驚いた声が聞こえてきた。
うん、そうだよね、町から外れた街道沿いに家を建てるって聞いてきたのに、ここまで綺麗に整えられた土地があるとは思わないよね、普通。
草薬の魔法使いは多種多様な薬草を育てる関係上、土の扱いも得意だからな……なんて思いつつ、とりあえずそちらに合流することにした。




