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流石シンディ

 シエルと再会してから数日、家に戻ってきた私は、とりあえずパンを捏ねていた。

 この数日あれこれと細かい用事を家の中でこなしていたのだけれど、畑の手入れも昨日やったし、今日は暇なのでパンを焼くか……と思い立って朝からやっているところなのだ。

 今回は新しくレシピ本も買ってきたので、それに従ってパンを捏ねている。


 捏ね終わった生地を休ませながら、ちょっと細長く整形して焼くのか……とレシピ本を確認していたら、外にいたキヒカが家の中に戻ってきた。

 どうしたのかと思ったら、手紙が届いたらしい。


「シンディだ」

「ホー」


 町から帰ってきた翌日に手紙を出していたのだけれど、思ったよりも早く返事が返ってきた。

 ちょうど今手が空いたところなので手紙を取りに行き、リビングで手紙を開ける。

 返事が早かったから取り急ぎの連絡かとも思ったのだけれど、便せんの量的にそういうわけでもなさそうだ。


「えーっと、シエルの地元について……わぁ、すごい」

「ホー」


 パッと見ただけでも、とんでもない情報量がそこに詰まっていた。

 一旦全てを流し読んで、そこから情報を整理していく。黙って読んでいるよりも声に出した方が分かりやすいので、キヒカと一緒に確認だ。


「えーっと、先代が退いて領主が変わったのが今年に入ってから、それから領地での優秀な魔法使いをって流れになって……」

「ホー」

「魔法使い同士を結婚させて子供を産ませれば、その子供も優秀な魔法使いになるって結論に至って」

「ホー」

「拒否権なく領地内の魔法使い同士を結婚させて強制的に子供を産ませようとした、と。うん、シエルも言ってた通りだね」

「ホホー」


 シンディはどうやってこれを調べたんだろうか、という疑問はちょっと残るけれど、それはもう言っても仕方がないことなので言わないでおく。

 そもそも私もシンディなら何かしら知っているだろう、と思って手紙を送っているわけだから、シンディがなぜかそれを知っていることは最早前提な訳だ。


「……魔法使いが、皆町から出て別の土地に行ってる」

「ホー。ホホーホーホホー」

「そうだね、逆効果だったね」


 手紙には近隣の町に避難した魔法使いを連れ戻そうとしていた、とも書いてあるから、シエルが町の中に住むのを躊躇った理由はこの辺りにあるんだろうか。

 ……とりあえず、シエルにはお守りを作って渡しておこうかな。気休め程度にはなるはずだし。

 と、いう事で手紙の確認を終えて、返事を考えながらパンの状態を見に行く。


 キッチンで発酵中のパンはもう少し置いた方がよさそうだったので、リビングに戻ってシンディに返事を書く。

 お礼と一緒にどうやって調べたの、と聞いておいて、ついでにシエルが私の家と町の間に住むことになった、人との接触をちょっと怖がっていそう、と書いておく。

 シンディならば下手に人に伝えることはないだろうし、何かあったら助けてくれるだろう。


 手紙のインクを乾かしている間にシエルに渡すお守りについて考えて、自動発動はいるだろうか、とのんびり考える。

 ……あんまり盛り過ぎるとアデラに怒られるし、シエルは魔法使いなのであんまり効果を盛り過ぎると受け取ってくれない可能性もある。

 なので、ほどほどに使いやすいくらいにしないと。


「……自動発動、入れてもいいかな?」

「ホー……」


 キヒカとしても悩ましいラインなようだ。私とキヒカは、お守りの自動発動くらいは当たり前だと思っているけれど、アデラには普通であってたまるか!って怒られたし。

 そんなわけで悩みつつ、パンの状態を確認にいく。

 うん、いい感じだ。分割して形を整えて、そうしたら再度休ませつつ石窯を温めに行く。


 薪を積んで火をつけつつ、引き続きお守りについて考える。

 ……発動は、自動じゃなくて魔力量なんかでもいいかな。渡す相手はシエルだし、とっさにお守りに魔力を籠めるくらいは造作もない。

 なら発動は自発にして、あとは発動内容か。……防御は必須、精神干渉への抵抗はいる?


「……一応入れよう。弱くでも入れておけば、シエルはその後自力でどうにか出来るだろうし」

「ホー」


 ぱちぱちと爆ぜる火に薪を追加しながらお守りの内容を決めて、石窯の温度を確かめる。

 うん、十分上がったし、火はこのまま自然に消えるのを待とう。その間にキッチンからパンを持ってきて、石窯に入れる準備をしておく。

 火がほとんど消えたら石窯の蓋を外して中にパンを入れ、蓋をして待機。


 待っている間にお守りの魔方陣を書いて、乾くのを待ちつつ石窯の様子を見に行く。

 家の中と外をウロチョロしていると時間が経つのは思っているよりも早く、お昼時にお腹が鳴るのを合図に石窯の中を確認して、いい感じに焼きあがったパンを回収した。


「あち、あち……」

「ホー。ホホー」

「そうだね、焼きたてのパンを乗せとく網とか、探してみようか」

「ホー」


 熱々のパンに翻弄されていたら、キヒカに冷めるまで置いておく場所を確立しろと言われた。

 それもそうなので、次の買い物で探すことにして、今はパンを持って家の中に戻る。

 お昼ご飯に焼きたてのパンを食べて、ちょっと贅沢な午後の開始としよう。

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