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シエルの希望

 シエルにお茶を飲ませて水分補給をさせつつ、詳しく話を聞いていく。

 ステラさんは心配そうにしながら、そっとクッキーを差し出していた。


「結婚相手を勝手に決められそうになってしまったのね……?」

「そうみたいです」

「親同士に決められる、なんて話はよく聞くけれど、領主さまに決められる、なんてことがあるのね」

「普通はないと思いますけど……ない、よね?」

「ないです」

「ホー」


 この辺りは王都の特別区なので、領主がいるわけではなく王族の管理下にあるのだ。

 なので、この辺でずっと暮らしている人たちは領主の管理というのにあまり馴染みがない。

 私も王都の出身なので、正直よく分かっていない。多分ちゃんと理解した方がいいんだろうな、とは思いつつ、触れる機会はこれまでなかった。


 とはいえ、それがおかしいのは確かだろう。他でそんな話は全く聞いたことがないし。

 とにかく新しい領主が全ての発端であるらしいのは分かったので、それ以外の事で聞いておきたいことを考え、そういえばという疑問が湧いてきたので声に出した。


「逃げてきたって言っていたけど、王都じゃなくてこの町にいたのはなんで?」

「王都にも行ったんですけど、ここにフィフィーリア先輩がいるって聞いたんです。助けてくれる人を考えたら、フィフィーリア先輩が思い浮かんで、だからここに来ました」

「なるほど……」

「ホー」


 王都ならば知り合いもいるだろうに、と思ったけれど、そもそも私に会いに来ていたらしい。

 学生時代からよく話しかけに来てくれる後輩ではあったけれど、私が思っている以上に頼りにしてくれていたようだ。

 ちょっと嬉しい、なんて思いつつ、真面目に他の事を考える。


「ご家族とかは、大丈夫?」

「はい。みんな他の町に移ったので、大丈夫だと思います。無事なのだけは分かってます」

「そっか。……シエルは、今後どうするの?」

「私は……できれば、フィフィーリア先輩の近くで草薬の魔法使いが出来ればなぁと思ってるんですけど、先輩ってこの町に住んでるわけじゃないんですね」

「そうだね、ここから、飛んで三時間くらい」

「……結構遠いですね?」

「そうかな?」


 なるほど、私がこの町にいると聞いてきたから、この町に住んでいると思っていたのか。

 それならこの町で草薬の魔法使いとして働こうと思っていたけれど、私が実は別のところに住んでいたからちょっと困っている、と。

 日帰りで往復できる距離とはいえ、私の移動手段が飛行だから日帰りが出来るだけだし、まぁたしかに、ちょっと遠いかもしれない。


「……でも私の家の傍よりかは、この町の方がいいと思うよ?」

「ホー」


 私は気楽な今の暮らしを気に入っているけれど、普通に考えたら不便なので人の集まるところで暮らした方がいいだろう。

 あと、私の家の傍は封印したとはいえ良くないものが居るので、あの辺に人が集まるのはちょっと避けたい。また村みたいになったら、封印が緩むかもしれないし。


「そう、ですよね……でも、なんか、人の多いところにいると、なんかこう、落ち着かない……」

「ホー……」

「あぁ……トラウマになってる……」


 シエルは元々、人を嫌う質ではない。私は人が多いと疲れてしまうけれど、シエルはシンディと同じで人の輪の中にいる方が好きなタイプだ。

 そんなシエルが町では落ち着かないと言うのだから、よっぽど嫌な目にあったのだろう。

 後でシンディに手紙を書いて何があったか知らないか聞いてみよう。シンディなら、何故か詳細を知っている気がする。


「……ホー、ホホーホゥ」

「あぁ、そうだね、それなら……」

「フィフィーリア先輩?キヒカはなんて?」

「あ、えっとね、この町と私の家の間に家を建てたらどうかって。それなら町との往復も簡単だし、何かあれば私もすぐに行けるよ」


 シエルの膝に乗ってもちもちと撫でられていたキヒカが、私の方に戻ってきて折衷案を出してきた。

 確かに、それが一番話が早いか。町から伸びている街道沿いなら分かりやすいし、そこから外れたとしても私はどうせ飛んでいくから問題はない。

 他に問題があるとすれば家の守りと、そもそも家を建てるというのに大分手間がかかるという点だけれど……ひとまず案としては、悪くないんじゃなかろうか。


 というわけでキヒカの案を代弁して、どうだろうかとシエルの様子を窺う。

 うん、さっきに比べて落ち着いているし、多分町に住むよりもその方が気楽なのだろう。

 今すぐに決めなくても、選択肢の一つとして考えてくれればいいのかな、なんて思いながらお茶を飲んで、膝に乗ってきたキヒカを撫でる。


「町の外でも、近くならおうちを建てることは出来るはずよ」

「町の大工さんに頼めるんですか?」

「えぇ。時々、そういうお仕事も頼まれるってレイラが言っていたの」

「なるほど……」

「ホー」


 それなら、町と私の家の間に家を建てるっていうのも、割と現実的なのかもしれない。修繕ではなく建築になると流石に素人では無理だよな、と思っていたのだけれど、そもそもプロに頼めるのか。

 心なしかシエルの目が輝いているし、希望が見えてきた、だろうか。

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