やりたいように
イリアス先輩とシャロン先輩にお礼を、ということでお守りなどを作ってキヒカに持って行ってもらい、キヒカが戻ってきて数日。
ここ数日はずっと天気も良かったので私はせっせと石窯を組んでおり、ついにそれも完成に至った。
なんだかんだ思ったよりも時間は掛からなかったな、なんて思いつつ、これで問題ないかを確かめないといけないので、とりあえずパンを焼いてみようか、とキヒカと話し合う。
「これで美味しいパンが焼ければ、もう本当に急ぎでやりたいことはなくなるね」
「ホー。ホホーホー」
「あ、そっか扉……」
「ホー……」
また忘れてたのか、と呆れた顔をするキヒカを撫でて誤魔化して、扉の大きさを測ってメモを荷物に入れておこう、と心に決める。
後回しにしたらまた忘れるだろうから、次に町に行くときには扉を新調する、というのを目的の一つにしよう。
なんて、キヒカと話し合いながら、組み終わった石窯を眺めてもう一度満足の息を吐く。
今日明日はしっかり乾かして、明後日あたりにパンを焼いてみよう。というわけで、今日明日は暇になった。まずは忘れないうちに扉の大きさを測って、メモを作っておこう。
これでまた忘れたら、流石にキヒカが怒る気がする。
というわけで扉の大きさを測ってメモを作り、それを荷物に放り入れておく。
魔法錠は扉に直接彫り込む予定なので、扉に関して今やれることはこれでおしまいだ。何ともあっけないというか、そもそもの準備が出来ていないというか。
さて、これで暇になってしまったな、なんて思いつつキヒカを撫でていたら、キヒカが飛んで行ってしまった。
「あぁ……あ、おかえり」
「ホー」
逃げられちゃった……と落ち込んだのも一瞬で、キヒカはすぐに戻ってきた。
何か持ってきたようだ、と足で掴んでいるそれを受け取ると、キヒカは膝の上に着地する。
持ってきたのは、私が学生時代に作っていた物のレシピやらなにやらを纏めたメモのようだ。なるほど、私が暇だと言ったから、暇つぶしがてらこれを見直して考えようと、そういうことか。
「本格的に道具作りをするなら……物置、改造しないといけないかもね」
「ホー」
新しく小屋を建てるのはあまりにも手間なので、やるのならあの部屋の改造くらいになるだろう。
とりあえず蒸留器は欲しいし、すり鉢も欲しい。他にも足りていないものは色々あるけれど、すべて揃えて置いておける場所はあるのか。
かまどは外に作ったし、あれでいいと言えばいいけれど、もしかしたら室内にも欲しくなるだろうか。
……そうしたら薪じゃなくて魔法式の、簡易的なものにしよう。手間だし。
「今後、作る事あるのかな」
「ホー。ホホーホー」
「……そうだね、研究は好きだし」
「ホー」
使うかどうかで考えないで、やりたいことをやればいいのか。
そういえば、学生時代に何かを作るときは大体そうやって、思いつくままにやっていた気がする。なら、それでいいのか。
せっかく自由に時間も使えるのだし、楽しんでしまえばいい。
「となると、やっぱり道具は揃えたいね」
「ホー」
買って来てから置き場所を、と考えると多分面倒だから、場所を作ってから買いに行くのがいいだろうか。
そうなると、やっぱりまずは机か。もう三度目になるけれど、やっぱり天板が石製の机が丈夫で好きなので、またあのお店に行って新しく机を買ってくるべきだろう。
「あとは棚も欲しいよね」
「ホー」
今後材料を散々増やすだろうし、それを纏めておいて置ける棚がいる。既にマニキュア作りの材料がごちゃごちゃし始めているし、早めの方がいいだろう。
他には……作業台のほかに、書き物をするための小さな机が別であると嬉しいか。
作業台で書こうと思うと、中々に場所づくりが面倒なのだ。作業台の上にはいつだって作業中の物が置かれているし。
「欲しい物、いっぱいだね」
「ホー」
理想の作業環境は既に知っているから、それと同じものを作ろうと思うと、やっぱりほしい物は増える。
考えているだけでも楽しいな、なんて思いつつ、思いつくままにメモをして買い物リストを作っていく。
一度に全て揃えることは難しいだろうから、この家に住み着いた頃と同じように、気に入ったものを探してゆっくり揃えていこう。
「王都にはいつ行こうか」
「ホホーホー」
「そうだね、机と棚が先だけど……」
予定を考えながら、とりあえず寝室の横の、今は物置にしている部屋に向かう。
ロープを煮ていたでっかい鍋とか、マニキュアを作っていた小鍋とか、魔方陣の乾燥棚とか、そういったものを置いているので現在でも魔道具作りの部屋らしくなってはいる。
この鍋たちも、そのうち棚に収めよう。なんて思いつつ部屋の大きさを測って、それもメモしておく。きっちり詰め込もうと思っているわけではないけれど、基準にはなるだろう。
「棚の幅は重要だし、ね」
「ホー」
話しながら計測を終えて、とりあえずリビングに戻る。
せっかくだから、昔に作ったあれこれを見直して道具を揃えたらどこから始めるか考えてみるのもいいだろう。