表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
148/195

回復の先輩

 日陰に座ってぼんやりとキヒカを撫でていたら、見覚えのある人が門から入ってきたのが見えた。

 人違いではないことを確認して、寝ていたキヒカを起こして肩に乗ってもらい、その人の方へと歩き出す。

 向こうも気付いたのか、こちらを見て片手を上げて緩やかに振っている。


「やぁ、フィフィーリア」

「お久しぶりです、イリアス先輩」


 町のお姉さま方の視線を大いに集めながら歩いてきた先輩に頭を下げて、とりあえず挨拶をする。

 相変わらずモテモテだ。先輩は学生の頃からそれはそれはモテモテで、しょっちゅう女の人に囲まれていた。変わってないなぁ、と思いつつ、柔和な笑みを浮かべる先輩を見上げる。

 サラサラの髪に整った顔。そしていつでも柔らかな口調と雰囲気。なるほど、人に好かれるわけである。


「わざわざ来ていただいてありがとうございます。お忙しくはなかったですか?」

「大丈夫だよ。ここは大して遠いわけでもないし……それに、シャロンがフィフィーリアの頼みなら聞いてあげなさいって言うからね」

「なるほど。ありがとうございます」


 大層モテるイリアス先輩だけれど、先輩は恋人……今はもう結婚していたはずだから、奥様か。奥様であるシャロン先輩にしか興味がない。

 それはもう見事なほどにシャロン先輩しか見えておらず、その溺愛具合のせいで当のシャロン先輩からはちょっと面倒くさがられているくらいだ。


 それでも仲のいいお二人ではある。その仲も、相変わらずなようで安心した。

 今回もシャロン先輩が一言添えてくれたおかげで、ここまで早く予定が決まったのだろう。

 シャロン先輩は学生時代から何かと気にかけてくれていたから、また個別にお礼も伝えておきたいところだ。


「さ、それじゃあ今回の生徒のところへ移動しようか」

「はい」


 促されて、考え事はやめて歩き出す。

 歩きながら聞かれるままに近況報告をして、家を直しているだとか、今は石窯を作っているだとか、そんな話をしている間に噴水広場に到着した。

 いつもの場所で座っていたおじいさんとアルパを見つけてそちらに向かうと、アルパが気付いて走ってくる。


「こんにちは!フィフィーリアさん!」

「こんにちはアルパ。先輩、この子がアルパです。アルパ、この人が回復魔法を教えてくれる、イリアスさん」

「初めまして。今日はよろしくね」

「よろしくお願いします……!」


 緊張気味に返事をしたアルパと視線を合わせるようにその場にしゃがんだイリアス先輩が、アルパの手を取って何かを確認するように小さく魔力を流している。

 その様子を横目に、私はとりあえずおじいさんに頭を下げておいた。

 おじいさんはいつも通り何かを彫っていて、こちらを見つつ作業を続けるようだ。


「うん、魔力の探知はかなり上手だし、魔力量もちゃんと鍛えられてるね」


 おじいさんとぺこぺこしあっている間に先輩の方も確認が終わったようで、アルパの手を放して杖を取り出していた。

 さっそく回復魔法の授業が始まるようなので、二歩ほど下がったところでそれを眺めることにする。

 私は回復魔法の事は分からないし、出来るようになるわけでもないから邪魔をしないのが一番だろう。


 そんなわけで、回復魔法とはどういうものか、というところから始まった先輩の授業を横から眺める。

 イリアス先輩は、魔力の柔軟性が一の、回復魔法に特化している魔法使いだ。

 最柔の魔力は、そうでないと使えない高度な回復魔法もあり、いつの時代も特別大切にされてきた。先輩はその環境を全力で使って知識を蓄え実践を積んだ人なので、先生としてはこれ以上ないだろう。


「回復魔法は、自分の魔力を相手の形に合わせて変形させないといけない。他よりも、魔力操作が重要になるんだ」

「相手のかたちに……」

「そう。傷を塞ぐのにも、毒を取り除くのにも、相手の形を正確に認識しないといけない」


 そういって魔力を操作して見せる先輩の技量は素晴らしい。

 アルパも思わずほぇ、と小さく声を漏らしていた。私の肩の上で、キヒカも小さくホーと鳴いている。

 どこまでも細く、どこまでも薄くなる魔力。どんな形にも変形するそれは、魔力の柔軟性に甘えず努力を続けた人だけが至れる場所だ。


 私の魔力は固いので、あそこまで薄くも細くもならない。

 ああなりたいと思ったことはないけれど、それでもやっぱり、すごいなぁと思う心はある。

 憧れというよりも、純粋に尊敬だ。あそこまで一つの事を極めるというのは、生半可な事ではないから。


 違う形でも、同じくらいのところまで至れるだろうか、と先輩を見るたびに思う。

 学生時代は時々お世話になってたな、と思い出していたら、アルパが先輩に倣って魔力を操作をやり始めた。

 私が教えられるのは魔力操作の基礎くらいだったので、この場でぜひ、大いに学んでほしい。


「ホー」

「……キヒカもやる?」

「ホホー」


 キヒカが肩の上で小さく魔力を練っているので、それを眺めつつ私も小さく魔力を操作してみる。

 うん、硬い。キヒカの魔力の方が柔らかいので、比べてみるととても分かりやすく硬い。

 見比べてみると面白いな。この場にいる四人は全員魔力の柔軟性が違うから、見比べる見本みたいだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ