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雨の日

 ここ数日、ずっと天気が良かったから、連日石窯作りに精を出していた。

 中々順調に作業は進んで、下半分は既に組み終わって次からは上のアーチを作る予定だ。

 けれど、今日は久々に天気が崩れ、朝から雨が降っている。


「よし、マニキュアを作ろう」

「ホー」


 朝ごはんを食べて片付けをして、窓の外をぼんやりと眺めた後に、今日の予定を決めて立ち上がる。

 元々天気の悪い日にやろうと思っていたので、今日がちょうどいいだろう。

 というわけでこれまでに用意した材料を全て籠にまとめて、外のかまどに向かう。薪もここに多少積んであるのですぐに作業を開始できる。


「ここにも薪棚、置いておいた方がいいかな?」

「ホー……ホー、ホホー」

「そっか」


 確かに、ここに置くなら小さなものを自作するくらいでよさそうだ。

 今後、ここのかまどと石窯の使用頻度によって大きさを決めればよさそうなので、とりあえず石窯を作り終わるまでは考えないでいいだろう。

 なんて考えながら、机の上に材料を並べていき、かまどに火を入れた。


 丸太椅子をかまどの前に置いて、まず使う材料を鍋に入れてから椅子に座って鍋をかまどの上に乗せた。さて、これで終わるまでここを動けない。

 木べらで鍋をかき混ぜながらのんびりと雨の音に耳を澄ませる。

 雨の音に混ざって薪がぱちぱちと音を立てるので、手を動かしていないと寝てしまいそうなくらい穏やかな空間だ。


 うっかり寝ないようにしないと、なんて考えながら、鍋に材料を追加する。一気に増えた鍋の中身を溢さないように、慎重に鍋底から混ぜていく。

 キヒカが次の材料を持ってきてくれたので、お礼を言ってそれを手に取る。

 このマニキュア作りは、状態を見て材料の量を調整しないといけないのだ。それが中々面倒で、けれど調整を怠ると綺麗に色が出ない。


「……ショサパの粉末」

「ホー」


 キヒカにも手伝って貰って、マニキュアを調整していく。

 用意した材料のほとんどはこの調整の時に使うものであり、全てを使うわけでもないのだ。けれど、用意していなかったものが必要になると途中で全て駄目になるので、用意しないわけにもいかない。

 ……レシピはちゃんと書き留めてあったけれど、これ、他の人が作ろうと思ったらかなり困るくらいには面倒かもしれない。


 私は完成までさんざん試作もしたから調整の仕方も分かっているけれど、そうじゃなければ結局、自分でなんとなくこうだと納得できるまで試作と調整を繰り返すしかない。

 ……なんというか、そこまで面倒ではない記憶があったけれど、やっぱりこれ、割と面倒なものかもしれない。作っている時は楽しかったから、本当に面倒だとは思っていなかったのだ。

 一度冷静になるのって、やっぱり大切なんだな。


 なんて考えながら、せっせと鍋をかき混ぜる。

 適宜材料を追加しながら鍋を混ぜ続けていれば、気付けば鍋の中身は透明で少しとろみのある液体になっていた。

 その状態になったら火からおろして、机の上に鍋を移動させる。この机は天板が石なので、そのまま乗せてしまっても大丈夫なのが良いところ。


 鍋の中身を冷やしつつ、今のうちに広げていた材料を籠に入れ直して、家の中に置きに行く。

 ついでに籠の中身を空の小瓶と小筆に入れ替えて、それを抱えて作業場へと戻った。

 小瓶、結構な量を買ったのだけれど、材料を入れるのにも使ったから思ったよりかは量が少なくなってしまっている。


 とはいえ今回作った分は全て入れられるだけの量があるだろうから、そのうちまた作る頃にでも買い足せばいいだろう。

 そもそも次に作るのがいつなのかも分からないわけだし、あまり心配することでもない。

 まぁ、今後あれこれと道具を作るのなら材料を入れる小瓶はあって困ることもないから、もう少し大きな瓶は買っておいてもいいかもしれないけれど。


「……冷めたかな」

「ホー」


 まだだよね。うん。まだ湯気立ってるもの。

 分かってはいたけれど、ちょっと暇だから言ってみただけなのだ。

 キヒカも分かっているようで、冷めるまでおしゃべりに付き合ってくれた。


 そうして、しばらくキヒカとおしゃべりをしている間に鍋の中身も冷めたので、小筆を手に取ってちょっとマニキュアを爪に乗せてみる。

 薄く延ばして広げていると、爪がじんわり色を変えて、黄色に染まった。

 前にも見た、私の魔力の色だ。


「大成功」

「ホー」


 質は問題がなさそうなので、後はこれを小瓶に詰めていくだけだ。

 その作業が中々手がかかるのだけれど、まぁ今日はこの後特にすることもないし、のんびりやればいいだろう。

 零さないように慎重にマニキュアを瓶に入れていき、しっかり蓋を閉める。


 鍋の中身が空になるまで作業を続けて、全てが終わったら凝り固まった身体をぐーっと伸ばして左右に揺らす。やっぱり細かい作業をしていると、どうしても肩が凝る。

 ともかくこれで作業は終わったので、あとはこれをルルさんのところに持っていくだけだ。

 次に町に行くのは王都から先輩が来てくれる時なので、その時に持っていけばいいだろう。

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