次の作業
マニキュアの材料作りと並行して行っていた屋外作業場のかまど作りは、予想よりも早く数日で完了した。やっぱり夏だから、乾くのが早かったみたいだ。
組んだレンガの上に分厚い鉄網を乗せて、屋外のかまどは完成になる。
上が鉄網だから鍋が小さくても問題なく置ける、という寸法である。鉄網が痛んできたら新しい物に変えればいいし、便利でとてもいい。
ちなみにかまどの後ろ側には穴を開けてあり、後ろは作業場の土台の縁ぎりぎりなので、ここから灰を掻き出して下に落とすことが出来る。
穴の大きさはキヒカが通れるくらい、だ。
そんなわけでかまどが無事完成し、ここでマニキュアの材料作りが出来るようになった。
そんな中で次にやるのは、いよいよ石窯作りである。
長かった。春に思い立ったのに、作業に取り掛かれたのは夏真っ盛りの今である。本当にここまで長かった。でもこれで、きっと今年の秋のうちには美味しいパンを焼けるようになるはずだ。
というわけで、以前貰った石窯の設計図を広げて、作り方を改めて確認する。
「楽しみだね」
「ホー」
作り始める前からもうすでに脳内は美味しいパンでいっぱいだが、やる気があるのは悪いことではないので浮かれ気分のまま確認と下準備を始めた。
私が作ろうとしている石窯は結構大きく、レンガは二重だし間には砂を入れたりもする中々本格的なものだ。
素人が一人で作ろうとするものではないかもしれないけれど、それを言ったらこの屋外作業場だって素人が一人で作るようなものではないので、その辺は考えないでおく。
そもそも私は道具作りの魔法使いなので、道具作りと考えれば全くの素人ではないのだ。
作り方を詳しく書いてもらった設計図もあるし、じっくりやってみるとしよう。
「まぁ、でも明日は買い物かな」
「ホー」
今日は確認と準備だけ、明日は町まで買い物に行かないといけないので、結局作業を始めるのは明後日からだ。
それも仕方がない。夏だから、あんまり大量に食材を買い込めなくて、食料の調達にちょこちょこ買い物に行かないといけないのだ。
本当に、こればっかりは仕方ない。私だって今日から石窯を組み始めたいのだけれど、食料がないのだから仕方ない。
下手に初めて一日間が開くよりも、連日作業が出来た方がいいだろうから、ここはぐっと我慢しないといけないのだ。
なので今日は、石窯作りの最初の段階。大きさの確認と、石窯を作る場所に印をつける事だけをやっておくことにした。既に時刻は昼を過ぎて夕方間際なので、どっちみち大した作業は出来ない。
土台の上に印をつけて、間違っていないことを確認する。
それが終わったら家の中に戻って石窯の材料が揃っていることを確認して、今日は早めに寝ることにした。何せ明日は買い物に行かないといけないので。
そして翌日、起きて朝の日課を熟し、準備を整えて町に向かって飛び立った。
キヒカは昨日夜遅くに何かをしていたのか、ちょっとだけ眠そうだ。杖の先に相乗りしてくるのを抱え込んで、移動の間は寝ておいてもらう。
町でも抱えて移動したっていいのだけれど、キヒカは人目のあるところではあんまりそういう事をさせてくれないから、町に着いたらいつも通り肩に乗ってくるだろう。
なんて考えながら空を飛んで、いつも通り町の外で地面に降りる。
その時にはキヒカは肩に乗ってきたので、やっぱりなぁと思いながら門番さんに会釈して町の中に入った。
まず向かう先はルルさんのところだ。今回も、そこそこの量のお守りを作ったので。
そのついでにマニキュアの進捗と、改めて詳しく考えてきた値段についての相談をしておきたい、というのが今回のロヒ・レメクでの用事である。
ルルさんが忙しかったらまた改めてになるかなぁと考えながらのんびり歩いて、ロヒ・レメクの扉を開ける。中ではなにやら話し合う声が聞こえていたのだけれど、扉を開けて中を覗き込むと、ルルさんがぱっと表情を明るくして私を手招きした。
「ちょうどよかった、フィフィーリア!」
「はい……こんにちは……?」
「ホー」
何事だろうか、と近付いて話を聞くと、どうやらこの品のいいおじさまは、お守りを買いに来たお客さんだったらしい。
けれどお守りは売り切れてしまっていて、次に入荷するのはいつなのかを話していた、と。
そんな話をしていたところに来たのなら、本当にちょうどよかったのだろう。
なんて考えながら、荷物の中からお守りを入れている小箱を引っ張り出す。今回もぎっしりだけれど、ちゃんと十個ずつにまとめてあるし、端数は置いてきたので扱いやすいはずだ。
私もルルさんもだんだん慣れてきて買取はスムーズに終わるようになったので、ささっと買取を終わらせてお客さんの対応に戻ってもらった。
お店の中に他のお客さんはいないので、あのおじさまの会計が終わったらルルさんに相談に乗ってもらおう。
というわけで、待っている間にお店の中を見て回って、夏らしく可愛いレターセットを見つけたのでそれを買っていくことにした。