回復魔法について
大工さんのところで樽に魔方陣を彫りこみ、魔石も用意して動作に問題ないことを確かめた後。しっかり代金を受け取って、私はキヒカと今日はこのまま町に泊っていこうかな、なんて話し合っていた。
魔方陣作成の最後の方は何故だかすごい人だかりになっていて、全方位囲まれる感じで見守られていたのだけれど、それもあってかちょっと疲れたのだ。
まぁ、単にでっかい魔方陣を(それも他者に渡す前提の物を)一発で綺麗に彫ろうとしていた気疲れが大きいんだろうけど。
ともかく、ちょっと疲れたので今日は町に泊って、明日買い物をしつつのんびり帰ることにした。
と、いうわけでこの後が暇になったので、噴水広場に行ってみることにした。前回来たときは会えなかったのだ。
町に来たときは大体最後に噴水広場に寄ってから帰るのだけれど、会えるかどうかは半々くらいの確率だ。
「あ、フィフィーリアさん!」
「アルパ。こんにちは」
「ホー」
「こんにちは!」
今日はまだ夕方前なのもあってか居てくれたので、傍によって身体を屈める。
私は大して身長も高くないし、何なら小さな方だけれど、まだ子供なアルパよりかはそれなりにでっかいので。
自分の声が小さくて聞き取りにくい自覚もあるので、出来るだけ会話しやすいように基本会話するときはかがむことにしているのだ。
「調子はどう?」
「調整ね、出来るようになったよ!」
そう言って、アルパは手に持っていた石を光らせる。
眩しすぎないけれど、暗闇でもしっかり物は見えるくらいの、ちょうどいい光加減だ。
その状態でブレることもなく光らせ続けられているので、確かに調整はもう合格点を出していいくらいまで出来るようになったらしい。
「持続時間は、どのくらい?」
「このくらいの光なら、おじいちゃんが木に下書きし始めてから彫り終わるくらいまでは光らせれるよ!」
「大体一時間か二時間か、といったところじゃの」
「なるほど」
「ホー」
それなら魔力量についても、練習し始めよりかは上昇しているだろう。
なにせアルパは真面目なので、ちゃんと毎日コツコツ練習を繰り返している。その分がしっかり身についていると思うので、魔力量に関してはしばらく困らないくらいになっている、はずだ。
気になるようならもう一度ちゃんと計ってもいいか、と考えながら、アルパと一緒にアルパのおじいさんの敷物にお邪魔して腰を下ろす。
「そろそろ、別の魔法の練習を始めてみようかと思うんだ」
「本当!?」
「うん。調整が出来るようになったから、周りに影響がある魔法も少しずつやってみてもいいかな」
光以外の魔法となると、どうしたって周りに影響が出る。私は風で物を浮かせたり氷で食材を冷やして帰ったりしているけれど、あれだって周りに影響が出ないように調整して行っていることだ。
どんな魔法でも、自分以外に影響が出るものだ。つまり、ここからはちょっとの危険と隣り合わせの練習になる。
それをアルパとおじいさんに伝えて、保護者からの許可ももらっておく。アルパには、むやみに放ってはいけないと言い聞かせておく。
「それから、もう一つ」
「はい!」
「アルパは魔力の柔らかさ的に回復魔法にも適性があるんだけど、私は回復魔法は使えないから、やってみたいようなら他の人に頼まないといけないんだ」
「フィフィーリアさんでも使えない魔法があるの?」
「うん。私の魔力は、どっちかっていうと固いから」
アルパの魔力の柔軟性は四。四なら、簡単な回復魔法ならば使うことが出来る。
回復魔法の適性は四までで、私の魔力の柔軟性は八なのだ。とてもじゃないけど使えないし、教えることも出来ない。
私が回復魔法なんて使ったら、使った相手を自分の魔力でさらに傷つけてしまうのだ。適性がないとはそういう事である。
「ほかの魔法使い……」
「私の知り合いに回復の魔法使いが居るから、アルパがやってみたいなら頼めないか聞いてみるよ」
「いいの?」
「うん。……忙しい人だから、来れるかは分からないけど、知り合いに何人かいるから」
第一候補として考えている魔法使いの先輩については、今も王都に住んでいるとシンディが教えてくれた。もし頼むことになったらシンディ経由で手紙を渡してもらうことになりそうだ。
シンディにあれこれ頼みすぎな気もするから、キヒカに直接持って行ってもらうことになるかもしれないけれど、どちらにしても頼んでみることは出来る。
「……回復、やってみたい。けど、フィフィーリアさんみたいにカッコイイ魔法も使ってみたい、です」
「カッコイイ魔法……どれだろう……」
攻撃用の派手なやつだろうか。……とりあえず防御にも使えるし、地から始めてみようかと思っていたので、多少そのあたりの需要も抑えられる……だろうか。
もう少し詳しくやりたいことについて聞いてみた方がいいかもしれない。
私としては、まずは防御をお勧めする。使えたら便利だし、とっさに出せたら安全なので。移動しながらでも出せるようになると、もし何かから逃げないといけない状況になった時にも使えるし。