でっかい樽
大工さんと話し合って、魔方陣は樽に彫りこむ形にすることにした。
そして、その他の部分は他の人が作ることで私は魔方陣の代金だけを考えればよくなった。
……お守りの値段を基準に考えればいいと思うのだけれど、それでもどのくらいが適正だろうかと頭を悩ませている。
「とりあえず樽見に行くか?」
「そうですね、大きさがどのくらいになるか確認したいです」
樽を持って帰って魔方陣を彫り込むのか、道具を持ってきてこっちで彫り込むのかも決めないといけない。その辺も含めて、値段を考えた方がいいのだろうか。
……値段、アデラに相談してもいいだろうか。シンディを経由して、このくらいにしようと思うんだけれど問題はあるか、と聞いてみるのはいいかもしれない。
「キヒカ、どう思う?」
「ホー……ホホー、ホーホー」
「……なるほど」
一個目はお互い試作として、それ以降を求められるかどうかを見つつアデラに値段を相談する。なるほど、今すぐに動きつつもちゃんと相談も出来るいい策だ。流石はキヒカ。
それにしてもここまで来ると、アデラにもちゃんと相談料を払わないといけない感じだ。それも含めて相談してみよう。
なんて考えながら、大工さんと一緒に樽屋さんへ向かう。
私が自動セコト混ぜ器を作った時にも行った樽屋さんが目的地なようで、どのくらいの大きさの樽まで動かせるのかと聞かれたので多分どの大きさでも動く、と答えつつ移動する。
ちょっと考えないといけないところもあるので、その辺は樽を見つつ大工さんに相談しよう。
「どんなんでも動かせるってんなら、こんくらいのが使いやすいな」
「でっかい……」
「ホー」
大工さんが指さしたのは、私が中に入れてしまうくらいのでっかい樽。流石、職人さんが求める量を作ろうとなると、樽もでっかくなるらしい。
まぁ、魔方陣はそのままで動く範囲だと思う。けれど、大事なのは動力の方だ。
というわけで、樽の底面がどうなっているかなどを確認しながら、大工さんに声をかけた。
「魔方陣に接するところに、動力になる魔石を入れられる部分を作りたいんです。魔石が触れてるかどうかで動かすかどうかを決める形が使いやすいかなと」
「なるほどな。魔石ってのはどんくらいの大きさだ?」
「物によりますが、そんなにおっきくはないです。私が片手ですっぽり覆えるくらいの大きさが基本です」
「なるほどな」
話しながら確認した樽の底面は、ちょっとだけ縁より凹んでいる。これなら魔方陣が削れてしまうことも少ないだろうか。
考えながら大きさを測っておいて、樽の底面に彫り込む魔方陣の大きさをなんとなく把握しておく。
結構大きいから、普段とは違う苦労もありそうだ。
「その辺はこっちで考えとく。樽は問題なさそうか?」
「はい」
「どういうののほうがいいとかあったら先に教えてくれ」
「そうですね……底の板に段差とか隙間がない方が、魔方陣は彫りやすいです」
「そうか、分かった」
やっぱり平らなところの方が魔方陣は彫りやすいので、要求があるとすればそのくらいだ。
綺麗に彫れた魔方陣の方が効果も高いし、平らなところに彫れるならその方がいいのだ。いろんな意味で。
他に樽で見たいところはないので、立ち上がって大工さんを見上げる。
「魔石はこの町でも買えるんだよな?」
「はい。ヒヴィカのインクで扱ってもらってます」
元々は私が町で買い物をするようになったからと置いてもらっていたものだけれど、こうして町の人たちも買うようになって、売り上げも上がっていくんじゃないだろうか。
いつもお世話になっている分、少しでも売り上げに貢献できそうでなんだか嬉しい。
魔石は魔道具を使う人ならば買いに行くことも多いだろうし、こうして私が魔道具を作っていればあのお店が潰れることはない、だろうか。まあ、元々趣味のお店らしいし、潰れないのかもしれないけれど。
「土台と必要なもんの準備はこっちでやっとく。嬢ちゃん、次はいつ町に来る予定だ?」
「魔方陣掘り込みに、早めに来ます。とりあえず十日以内には」
「分かった、それまでに用意しとく」
これで一旦話が纏まったので、樽屋さんを出て大工さんと別れる。
私はこの後他の用事を済ませて、アルパがいるかどうか広場を覗いてみたら家に戻る予定である。次は早めに来る予定だし、買い物はそれほど量を買いこまなくてもいいだろう。
食料も、あまり買っていくと腐らせてしまいそうなのでほどほどにした方がいいだろう。
と、そんな事と一緒に、買って帰る食材についても考える。
ついでに帰ってからやる事についても考えて、手紙の内容について頭を回す。
シンディに送ろうと思っていた手紙の内容は大体まとまっているので、そのついでにアデラに渡してほしいって別の便せんを入れておけばいいだろう。
「……テープみたいなの、買っておいたら便利かな?」
「ホー」
そっか、シーリングスタンプでもいいのか。
シンディとの文通は魔方陣を押しているから最近使っていないけれど、前に使っていたものが荷物の中にあるはずだ。
あれを引っ張り出してくれば、それでよさそうだ。