自動回転魔道具
エルベスさんと別れた後は、予定通り大工さんのところに向かうことにした。
ここからはもう遠くないので歩いている間にすぐについて、扉を開けるとレイラさんと目が合った。他にお客さんも居なさそうだったので中にお邪魔して、促されるままソファに腰を下ろす。
「今日はどうしたの?」
「前に大工さんに話した自動セコト混ぜ器が上手くいったご報告に……」
「あら、そんなの作れるの?」
「作れましたね」
そんなやり取りと共にお茶が出されたのでお礼を言って、大工さんを呼びに行ったレイラさんを見送った。
私の横に座っているキヒカを撫でたりお茶を飲んだりしている間に大工さんとレイラさんが戻ってきて向かい側に腰を下ろしたので、荷物の中から作ってきた自動セコト混ぜ器の模型を取り出す。
「前に言ってた道具が出来たんだってな」
「はい。これが模型です」
「模型まで作ったのか……」
「時間があったので……」
本当に、土台完成まで時間がかかったから、最後の方は割と暇だったのだ。
おかげでいい感じの模型が作れたので私としては満足である。なんて考えながら、模型を机に乗せる。
ちゃんと動くし、棒の固定も取り外しも出来るように作ってある。我ながらいい出来なのだ。
「ここが回るのか」
「はい。樽が斜めに置かれてて、自動で回ってこの棒で中身が混ざる感じです」
「よく出来てるわねぇ」
机に置いた模型を手に取って、大工さんが興味深そうに構造を確認している。
魔方陣は樽に張り付けてあるのだ、とか魔方陣は一つだから支えの部分はほかの形でも動きを阻害しなければ問題はない、とかそういう話をして、お茶を飲む。
最初に作ろうと思っているという話をした時から興味があるみたいだ、とは思っていたけれど、思っていたよりも興味が強そうだ。
なんて思いつつ詳しい説明をしていたら大工さんが真面目な顔でこちらを向いた。
なんだか、お仕事の話をするときのアデラの顔に似ている。自然に背筋を伸ばしつつ首を傾げたら、大工さんが模型を机に戻す。
「嬢ちゃん、これ売ってもらうことは出来るか?」
「……自動セコト混ぜ器を、ですか?」
「おう。嬢ちゃんも混ぜる作業が大変すぎて作ったって言ってたが、実際俺らもセコト混ぜてる時間はほかの事が出来ねぇからな。もしこれを使えるんなら、作業が楽に、早くなる」
「なるほど」
確かに、私が庭に作った作業場の土台だけでもあんなに大変だったのだから、大工さんたちが作る大きな建物に使うセコトの量を考えると、手作業で混ぜるのはあまりにも大変そうだ。
多分私とは一度に混ぜる量も、混ぜる人数も違うのだろうけれど、それでも大変なのは分かる。
その人数を別の事に割けるのならそうしたい、というのも、とても分かる。
「えっと、作れはするんですけど、魔方陣が別で貼り付けられるので、どう……どういう形式がいいですか?」
大工さんにはいつも本当にお世話になっているし、自分の専門分野で何かお役に立てるのであればそれは喜んでお手伝いしたい。
なんて思って、脳内で作り方を一から並べながらとりあえず出来ると伝えなければ、と焦った結果、なんだかあわあわした受け答えになってしまった。
「魔方陣だけ頼むってのも出来るのか」
「そうですね、彫り込みではないので……あ、掘り込みでも出来るんですけど、土台の部分とかは、多分私が作るよりも大工さんたちの方が綺麗に作れると思うので」
「掘り込みと貼り付けだと何が違うんだ?」
「貼り付けだと、魔方陣が擦り切れて効果が消えた時の対応が楽です。新しい魔方陣を張り付ければいいだけなので。ただ、張り付けてるだけなので掘り込みと比べると外れやすいので、使う前とかに剥がれてないかを確認した方がいいです。
私はその辺、ちゃんと張り付いているかを魔力を流しているタイミングで把握しているので貼り付けで使っているけれど、魔法使いじゃない場合は樽をひっくり返して確認することになるだろう。
あと、大工さんが使うとなると持ち上げる頻度も増えると思うから、もしかしたら私が使うよりもはがれやすいかもしれない。
私は浮かせて流し込んでたからな……と思い出しつつ、それも伝える。
「掘り込みだと、剥がれたりする可能性がないので、その辺が楽ですね。あと直接魔方陣が触れてるので、効果が減衰しないって利点もあります。
ただ、今回は魔方陣を彫り込むのが樽の裏側なので、回転するときに土台とこすれたりすると魔方陣が削れて、動かなくなる可能性があります。
そうなると樽ごと交換しないといけなくなるので、ちょっと手間がかかりますね」
「なるほどな……」
貼り付けだったら何枚か書いて渡しておく、ということも出来るのだけれど、掘り込みだとそれが出来ないのだ。
けど、魔方陣部分がこすれて削れていくところだけ解決出来たら、多分掘り込みが楽だ。洗っても転がしても取れたりしないし。
そんな話もして、腕を組んで考えている大工さんを見る。
「……ホー」
「どうしたの?キヒカ」
「ホー、ホホーホー」
「……確かに」
作るとしたら多分これは仕事になるから、ちゃんと値段を考えないといけない。キヒカに言われるまですっかり忘れていたのだけれど、その辺をちゃんとやらないと、アデラにとてもとても怒られてしまう。
大工さんはアデラのお父さんだし、隠し通すことも出来ない。隠そうとしたことが分かったら余計に怒られる。
……大工さんがどうするか考えている間に、私も値段についてちゃんと考えないといけなさそうだ。