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魔力について

 お爺さんに促されて、芝生の上に広げられたシートの端に座らせてもらう。

 横に座ったアルパの方に身体を向けて、一度離れたことで消えてしまった魔力数値の文字をもう一度表示するために、再度魔法陣を開いた。

 魔法陣の上に手が乗せられたら魔力を通して、そこに表示される文字をアルパが見ているのを確かめてから口を開いた。


「一番上の魔力量は、自分の身体の中にある魔力の量。魔法を使ってると増えるし、使わないでいると減っていくの」

「減っちゃうの?」

「うん。魔力量は筋力みたいなものだから。魔力の量が多くないと使えない魔法もあるよ」


 アルパが魔力量の数値をじっと見つつ頷いているので、その下に目を向ける。

 ……お爺さんも凄くしっかり聞いている気がする。あれだろうか、割と興味があったりするんだろうか。


「その下は魔力の柔軟性だね」

「じゅうなんせい?」

「柔らかさ。魔力が硬いと攻撃に向いてて、柔らかいと回復に向いてるの」

「私は……柔らかくも硬くもない?」

「四だと回復も出来るだろうし、防御に向いてるよ。硬すぎると防御は難しかったりもするから」


 納得はしているのか、していないのか。何かを考えてはいるようだけれど、私は察する能力が低いので何を考えているのかは分からない。

 何かすごくやりたい魔法の系統でもあったんだろうか。まぁ、四なら大体の事は出来ると思うけれど……極端に振れていないと出来ない魔法に憧れていたとしたら、がっかりさせてしまうかもしれない。


「その下は?」

「その下は、魔力の特性。何かすごく得意なことがあったりすると、それが見える所」

「お爺ちゃんには何か書いてあったよね」

「そうだね。後から発現したりもするから、アルパにもそのうち何かつくかもしれないよ」


 魔力の特性は、魔法以外の行動でもつくことがある。

 魔法での行動の方が付きやすいのは確かだけれど、それでも長年続けた日課などで付与されることは確かにあるのだ。

 アルパのお爺さんは、恐らくそれだろう。無意識に魔法を使っているのか、とも思ったけれど、そんな気配はしないので。


「魔法って、どうやって使うの?」

「杖があった方がいいね」

「お爺ちゃんたちが使ってるやつ?」

「ううん、それとは違うやつ。こういうの」


 手に持っている杖を軽く掲げながら言ってはみたが、見た目ではよく分からないだろう。

 色々と特徴はあるけれど、まぁその辺は今はいい。問題は、杖の確保方法だ。この町には魔法使いも居ないようだし、そうなると当然杖の店も無い。

 一番手っ取り早いのは王都に行くことだけれど、私は今王都に行きたくない。


「杖が無くても一応使えるけど……あった方がいいんだよなぁ……」

「杖の有無では何が変わるんだい?」

「操作性とか色々ありますけど、一番は怪我防止です。杖を介する分、何かあった時の衝撃を杖が受けてくれるので」

「なるほどね」


 聞かれたことに答えつつ、どうしたもんかと考える。

 アルパの杖だしアルパが買いに行くのが一番確実ではある。けれど、王都まで一人で行くわけにもいかないし誰かと一緒に、と言っても気軽に行ける距離ではないだろう。

 私はまぁ、そこそこの時間で行けるけれど、行きたくないから多分時間かかる。


「杖無しで出来る事は、何も無いかい?」

「魔力の操作とかの練習くらいなら、やっても大丈夫だと思います。……今やっても大丈夫ですか?」

「構わんよ。魔法使いになりたいと、ずっと言っておるからなぁ。教えてやってくれ」


 お爺さんの言葉に頷いて、アルパに目を向ける。首を傾げてこっちを見上げている女の子の手を取って、魔法陣を一旦仕舞う。魔力の操作は、一番最初が一番難しい。

 まずは体内で魔力が流れている感覚を掴まないといけないから、それが分かるくらいまでは手を引くべきだろう。


「アルパ、手のひらに魔力を流すから、手のひらに集中してみてね」

「分かった!」


 元気のいい返事を聞いて、ゆっくりと手のひらに魔力を流していく。

 ちなみに魔力の柔軟性が十とかの人だと、これだけで他人の魔力に傷をつけかねないから出来ない行為だったりする。

 硬すぎるのも考え物だ。その分攻撃では他の追従を許さないくらいの能力を発揮するけれど。


 なんて考えながら魔力を流して、アルパの反応を窺う。

 真剣な顔で手をじっと見てはいるけれど、まだ分かってはいなさそうだ。これは本当に急に気付いたりもするから、いかに触れている時間があるか、という話になってくる。

 魔法が身近な子だと教わる前から分かっていたりもするらしいし、出来るだけ魔力に触れる生活をしていると気付きの瞬間も多い、という事なのだろう。


「うーん……?」

「焦らなくてもいいよ」

「うん……」


 ちょっとしょんぼりしているアルパを見て、キヒカと顔を見合わせる。

 何か簡単に魔力に触れられる、安全な物とかあっただろうか。今日の荷物になくても家にあるなら次に来るときにでも持ってくるのだけれど……


「ホー」

「……あ、そうだね。多分入ってるはず……」


 キヒカに言われて、そういえばいつも持っているものでちょうどいい物があったことに気が付いた。

 荷物の中、入れっぱなしにしている小さな袋を引っ張り出して、その中身を一つ取り出す。

 小さな小さな魔石、屑石と呼ばれるものだが、微弱に魔力を発しているのだ。使い捨てのアレコレに便利で、いつも適当な量を入れた袋を持ち歩いていた。


 このくらいなら害にはならないし、元々使い捨てるものだから渡して困る物でもない。

 そんなわけでその小さな石をアルパの手に乗せて、石の説明をしておく。

 魔力に触れるのが目的なので、暇な時は持っていてもらえば多分そのうち魔力の流れもつかめるようになるだろう。

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