久々に会った人
朝から飛んで町に向かい、朝は涼しくて移動も楽だなぁなんて考える。飛んでいる間に目も覚めるし、夏の移動は朝が一番だなぁと思いつつ飛んで、町の外で地面に降りた。
門番さんに会釈をして町の中に入り、まずはルルさんのところに向かう。
建物で日陰が出来ている道を選んで歩き、前までは通らなかった小道を通ったりしてロヒ・レメクまで移動する。扉を開けると中に他のお客さんは居なかったので、そのままカウンターに近付いた。
「いらっしゃいフィフィーリア」
「こんにちは。今回は、ちょっと数が多くなったんですけど大丈夫ですか?」
「多い分には有難いよ。前からちょっと時間開いたもんね」
「作業に思ったより時間がかかりまして……」
言いつつ、荷物の中からいつもの小箱と溢れた分を入れた袋を取り出す。
量が多くなったので十個ずつまとめておいたので、数は数えやすい。次からもこうやっておいた方がいいかもしれない。
なんて思いつつルルさんにお守りの売れ行きを聞いておく。
「相変わらず結構売れてるよ。この通り、在庫はなくなってるわけだし」
「本当ですね……もう落ち着く頃だと思ったんですけど、まだですね」
「そうだね」
それならまだまだ量産してよさそうだ。強いお守りも普通のお守りも同じくらい売れるらしいので、どちらもしっかり作ることにする。
そんな確認をして、ロヒ・レメクを後にした。次はもうちょっと早く来ることになるだろう。
土台は作り終わったし、今回ほど間が空くことはないはずだ。
さて次は大工さんのところだ、とキヒカを肩に乗せて歩き出す。
話しながらのんびり歩いて大通りに戻ってきたところで、キヒカが肩から飛び立った。どうしたんだろうか、と考える暇もなく、キヒカが乗っていたのとは逆の肩に何かがぶつかった。
結構な衝撃で、よろめきそうになったところで肩を抱えられて、転ぶこともなくその場に停止した。
「フィフィーリア!久しぶりだなぁ!」
「わ、あ。エルベスさん。お久しぶりです」
キヒカが飛んで行ったのは、これに巻き込まれないようにするためか。と納得しながら豪快に笑うエルベスさんに肩を揺さぶられる。止めることは出来ないので、もう受け入れるしかないのだ。
この人は学生時代の先輩で、ほとんど在校期間は被っていないのだけれど、その短い期間で目をかけてくれた人である。
「王都の魔術師やめたって聞いたぞぉ~!」
「はい、やめました」
「今度こそうちに来るか?家も食事も休みもちゃんとあるぞ~?」
肩を揺さぶられつつそんなことを言われ、なんだか王宮魔術師をやめた話が広がっているようだ、とのんびりそんなことを考えた。
エルベスさんは卒業する前にも、うちに来ないかと誘ってくれていたのだ。
王都を飛び出した直後に誘われていたら付いて行っていただろうな、と思いつつ、徐々に収まっていく揺れを止めつつエルベスさんを見た。
「今の家が気に入っているので」
「そうかそうか。ならまぁ今回はやめとくが、ちょっと金が必要になったとか、そういうことがあったら言ってくれ?お前なら短期でも大歓迎だぞ~」
「ありがとうございます」
肩を揺さぶる手が止まったと思ったら、頭をぐりぐり撫でられ始めた。
エルベスさんとは会うたびにこんな感じなので、キヒカは巻き込まれないようにさっさと離脱してしまうのだ。
今もちょっと離れたところからこちらを見ているのが見えた。まだまだ近付いてくる様子はない。
「まぁ、その話は置いといてだな。フィフィーリア、魔道具を売ったりはしないのか?」
「お守りは売ってますよ」
「お前さんが作るにしては弱いやつだろう。そういうんじゃなくて、あたしらみたいなのを相手にしたもっと複雑で面倒なものは売らんのか?」
もっと複雑なもの。つまりは、私が家で作って使っているような、売ろうとすると結構な額になるから特に売ったりはしていないもの、ということだろう。
私が作るものは基本的に複雑で高くなるのだ、とアデラに言われた記憶がある。
あれを売るとなると、いろいろと面倒くさそうだ。ルルさんのところにおいてもらうわけにもいかないし……
「今のところは、売る相手も売る場所もないので」
「そうかぁ。売り出したら買いに来るからな、お前さんの道具作りの腕は確かだ」
「ありがとうございます」
道具作りの魔法使いとしては、とても嬉しい言葉だ。
エルベスさんは昔からそうやって褒めてくれるので、会うたびにがくがく肩を揺らされても髪をかき混ぜられても、全く嫌いにはならなかった。
そうしてまたがくがく肩を揺らして、エルベスさんは去っていった。
エルベスさんは王都からはそれなりに離れた海の近くの都市を守っている魔法部隊の人だから、多分今回は王都に来たついでに寄っていっただけなのだろう。
去っていった背中を見送って、肩の上に戻ってきたキヒカを撫でる。
相変わらず嵐のような人だったけれど、なんだか元気を分けてもらったような気もする。そんなことを考えながら、大工さんのところに向かうことにした。