廃村の封印
時間のかかるセコト混ぜが自動になったので、混ぜている間に別の作業を進められるようになった。
なのでここ数日は、外でセコトの練り具合を見ながら別の作業を進める、という感じの過ごし方をしており、今日は石に封印の魔方陣を彫り込んで、廃村の井戸にいる何かを封印する準備を進めている。
封印は一つだけではなく、いくつか作って多少崩れても問題のない封印にするつもりなのだ。
今日は外で座って封印の準備をしているけれど、日によっては家の中に戻ってお守りの制作をしている時もあるし、花壇の手入れをしている日もある。
最近色々花が咲いてきて、花壇が色とりどりになったのだ。華やかでとてもいい感じ。
たまに畑を見にも行くし、大分時間の使い方が自由になった。
「ホー」
「あ、おかえりキヒカ」
「ホホー」
封印の準備がもう出来るからと村を見に行っていたキヒカが戻ってきた。
どうやら前に廃屋を何軒か更地にした時から様子は変わっていないらしいので、予定は変更しないで大丈夫そうだ。
そんな話をしながら、今日彫っていた石をキヒカに見せる。
「どうかな?」
「ホー」
資材屋さんで買ってきた大きな石材に、ここにいたよくないものを封印した、とそんな内容を彫り込んでおいたのだ。
これの裏側にもしっかり封印を彫り込んで要にしてあるので、準備は万端である。
「それじゃあ、始めようか」
「ホー。……ホホー」
「そうだね、これを流し込んでから」
早速封印をしに行こう、と立ち上がったところを、キヒカに制されたので今練っているセコトの様子を見に行く。
うん、そろそろ止めて、外側をちょっとかき混ぜたら枠の中に流し込んでしまおう。
作りかけの土台も、何日も作業していたら流石にちょっと終わりが見えてきた。流し込んだ分がすべてどこかに消えてしまった訳ではないと分かって一安心だ。
なんて思いつつ、樽の回転を止めて棒を外し、ぐるぐる混ぜてから枠の中に流し込む。
しっかり全て流し込み終わって、中身を掻き出し終わったら樽を元の位置に戻して、今度こそ廃村の封印に向かうことにした。
家の中からこれまでに作っておいた封印用の魔方陣を刻んだ中くらいの石を持ってくる。これらを使って、ガチガチの封印にするのだ。
「キヒカ、これ持っててくれる?」
「ホー」
封印の道具たちはキヒカに持っていてもらって、一緒に廃村の方へと向かう。
でっかくなったキヒカが封印用の石を持っていてくれるので、私は村の外周を回るようにして、廃屋を更地に変えていく予定だ。
外側から徐々に更地にしていって、最終的に井戸を更地にして埋めて封印をするのである。
石を抱えたキヒカが空に上がっていったのを見届けて、私は予定通り村の外周部へと移動した。
一度空に上がって位置を確認してから、魔法を練って杖を廃屋に向ける。
前にやった時と同じように、四分割でそこそこの範囲の廃屋を一気に更地にしていく。
「攻撃 減少 分割 四段 発射」
魔法が放たれる度に杖を動かして行って、どんどん更地を広げていく。
徐々に内側に移動しながら魔法を放って行って、ある程度進んだところで少し井戸の方を確認する。
動いた気配はない。けれど、ちょっと揺れているので、外の異常には気付いているみたいだ。まぁ、気付いたところで逃がす気はないけれど。
「ホー」
「うん、分かった」
井戸の上にはキヒカが陣取っていてくれるらしいので、私は早めに廃村の更地化を完了させて封印を始めることにした。
魔法を練る速度を上げて、どんどん廃屋を壊していく。
久々に魔法の連打をやっているけれど、特に魔力量とかは減っていなさそうで安心した。日常使い以外の魔法は、あまり使わない生活をしていたから、少しだけ不安だったのだ。
そんなことを考えながら、魔法を放つ。四分割がちょうどいいからずっと四分割でやっているけれど、威力を落とさずに九分割くらいにして放った方が早いだろうか。
と、ちょっとやり方を変えてみたりしながら、廃村を更地に変える。
作業はサクサク進んだので、まだ夕方前だけれど、残りの家は一軒だけになっていた。
「ホー」
「うん。お願いね」
残り一軒になった家を壊す前に、井戸の周りの地面に溝を掘っておく。
ある程度の深さの溝が出来たら、いよいよ最後の一軒の廃屋を壊し、井戸に杖を向けた。
「呪文 変化 拘束 強化 継続」
魔法が当たって、井戸が音を立てて崩れていく。
石積みの井戸のはずなのに、何かが折れるようなバキバキという音が響いている。
井戸の形が崩れたところでキヒカが上から、一つ目の石を井戸の中に落とし、その後井戸の周りに掘っておいた溝に残りの石を配置する。
それが終わってから、掘っていた溝を埋めなおし、井戸も埋めて更地にした。
更地化が終わった井戸の上にはメイン封印になるでっかい石材を、半分くらい埋まった状態で設置しておく。
これで封印はおしまい、あとは異常がないか、時々確認する感じでいいだろう。
「大丈夫かな?」
「ホー。ホホー」
「よし、じゃあ帰ろう」
「ホー」
キヒカも異常は感じないらしいので、封印は出来ているだろう。
ということで、家に戻ることにした。やるべきことの一つ目が終わって、ちょっとすっきりしたので今日はよく寝られそうだ。