回転魔道具
朝から飛んで町に向かい、いい感じの大きさの樽を探す。
まずは樽だ。何よりも、樽が必要だ。というわけでウロウロしていたら大工さんと会い、何を探しに来たのかと聞かれたので樽を欲している経緯を説明した。
そんなのが作れるのか、と興味を持たれたので、うまくいったら報告すると約束して、ついでに樽屋さんまで案内してもらった。
「樽、でっかめがいいよね」
「ホー」
練っても練っても終わらないセコト練りのためなので、そこそこの大きさがある樽がいい。小さいと、やってもやっても終わらないので。
それに、中身を満杯に出来るわけではないから、一度に作れる量は樽の容量の半分以下だと思うのだ。
それならやっぱり、でっかい樽がいいだろう。
というわけでそこそこ大きな、私の腰くらいまで高さがある樽を一つ購入した。
後はこの樽の大きさに合わせて、支えを作るだけである。なので資材屋さんに行って、材料になる木材を買って来よう。
樽を浮かせて歩き始めたら、キヒカが浮かせた樽の上に乗りに行った。なので揺れないように固定して、平らな面が上を向くようにしておく。
ご機嫌なキヒカを眺めつつ資材屋さんまで行って、ちょうどよさそうな木材を探す。
支えにする太めの木材と、樽の形に合わせて曲げて、動きを邪魔しないように固定する木材と、樽の中に入れて中身が混ざるようにする木材。
それらを探して、見つけたものから浮かせていく。
なんだかんだしょっちゅう木材を買っているからか、店員さんとも顔見知りになっていて木材を浮かせて運んでいることにも驚かれなくなってしまった。
驚いてほしいわけではないけれど、随分馴染んだなぁとちょっと感動のような、何とも言えない感情がある。
そんなことを考えながら、資材屋さんを出た後はちょっと食料を買って、早めに帰路についた。
そして移動で疲れたので早めに就寝して、翌朝早くから活動を開始する。
まずは畑の水やりをしてきて、花壇にも水をやって、朝ご飯を食べたら道具作り開始だ。
「まずは木を曲げるところからだね」
「ホー」
樽を回転させるので、その回転を邪魔しないように木を曲げていかないといけない。
木を曲げるのは何回か異なる手段でやったことがあるのだけれど、今回は過熱して圧力をかけて曲げる方法にする。
本当はしっかり水を染み込ませた方がいいのだけれど、今回は一晩程度しか浸けていない。
まずは空中で水の塊を作り、それを過熱する。魔法でやるので簡単だけれど、近いと熱いのでちょっと離して作業している。
水の過熱が終わったら、そこに木材を入れて、魔法で圧をかけていく。
今回は綺麗な半円になるように、片側から円形に空気を押して行って、その圧で曲げる。
割ってしまわないようにじわじわ押して、いい感じに曲がったら熱湯から引き上げて冷ます。
そしてそのまま固まるように固定しながら乾かしていく。
使った熱湯は冷まして霧散させ、魔法で風を起こしてその中でぐるぐる回して乾燥させ、出来上がった木材を回収した。
「お、綺麗に曲がってる」
「ホー」
樽に合わせてみたところいい感じだったし、割れたところも見当たらない。
これでよさそうなので、あと二枚同じパーツを作って、合計三枚の半円の木材を完成させた。
「よしよし、いい感じ」
「ホー」
完成したパーツたちを組み合わせるために、下の支えを作っていく。
足の部分と、樽を斜めにして支える部分を作る。幅を図って木材同士を固定していき、一枚目の半円木材を下の方に、斜めに固定する。
これで樽の斜めり具合が決まるので、いい感じになるように慎重に。
いい角度で固定出来たら、樽が落ちないようにそのさらに下に板を渡して固定し、あとは一定間隔で半円木材を固定。そこまで出来たら樽を乗っけて、ちゃんと動くかを確かめた。
ちゃんと引っ掛かりなく動いてくれたので、これで本固定だ。動かないようにここまで組み上げたものを全部固定して、続いては中身を混ぜる棒を固定するための部分に取り掛かった。
棒は、ちょっと加工して樽の形に合わせておいた。これでしっかり混ぜてくれる……はず。
樽の回転の邪魔にならないように形は加工済みなので、あとはこれを固定したり外したり出来るように、支え側を作るだけだ。
外せないと、セコトを流し込むときの邪魔になる。でもしっかり固定しないと、セコトを混ぜられない。
というわけで。固定用の囲いを作って、囲いをずらして上が開くようにした。
ずらす方向と樽が回る方向は別なので、これで勝手に外れることはない……と、思う。
これで組み立ては終わったので、あとはやってみるだけなのだ。
というわけで樽の底に魔方陣を張り付ける。彫り込もうかとも思ったのだけれど、劣化した時に樽ごと交換は大変なので、とりあえず貼り付けにした。
もし張り付けで問題があったら、その時は彫り込みにしよう。
なんて考えつつ、用意しておいた魔方陣を樽に張り付け、支えに樽をセット。
樽の中にセコトの材料を入れて、混ぜ棒をセットして、樽の魔方陣に魔力を込める。
すると、樽がガタゴト音を立てながら動き始め、中身が混ざり始めた。
まだ始めたばかりだけれど、とりあえず問題なく動いている。これは、うまくいったかもしれない。
「やった」
「ホホー」
思わず両手を上に付き上げて喜びを表し、飛んできたキヒカを抱きしめてちょっと揺らす。
迷惑そうにされたので、謝って手を離した。そうしたらキヒカは肩に乗ってきたので、一緒に樽の中身がかき混ぜられていく様を眺める。
そして、最終的にふちのあたりを自力で混ぜる必要はあったけれど、大部分は放っておけばセコトを混ぜてくれる魔道具が完成したのだった。