準備の時間
今日は町に買い物に来ていて、いつも通り最初にルルさんのところに行って作成したお守りを買い取ってもらってから自分の買い物を開始した。
買いたいものは色々あるのだけれど、まずは荷物が増える前に探し物からだ。
と、いうわけで、いつも通り肩に乗ったキヒカと話しながら、冬前に壺を買ったお店に向かう。あの時は暖房用だったけれど、今回は冷蔵庫用。目的が真逆だ。
「季節の移ろいを感じる」
「ホー」
小さく呟きながらお店に向かい、並んでいる壺を眺める。
大きな水瓶から手乗りサイズの可愛い陶器まで、幅広く色んなものが並んでいる。ついつい目移りしてしまうけれど、今回の目的は大きめの物なので、小さなものはちらっと見るだけにしておく。
そうしてお店の中をのんびり進んで何かいい物がないかな、と考えていたら、一つ、ひと際目を引いたものがあった。
近付いて、それをよく見る。
四角い、白磁の入れ物。大きさはそこそこ大きく、中を仕切ることも出来るだろう。今回の目的にはぴったりだ。蓋がついているところも、とても良い。
白一色なのも綺麗で良い。これは単に好みの話だが、私はこういう飾り気のないものも好きだ。
と、いうわけで、一つ目の目的だった器は、これにすることにした。
会計してもらって割れないように包んだら魔法で浮かせて、ぶつけないように運んでいく。
次に向かうのは、畑の道具をあれこれかったあのお店だ。ヒロゾ芋の種芋を買うのである。ついでに、これからの時期に育つものについても聞いてみようと思っている。
「お、荒れ地開墾魔法使いさん」
「こんにちは」
「ホー」
もう流石にお店に入るのをためらって外に突撃されることもなくなり、入ってすぐに声をかけられても驚かずに返事が出来るようになった。
なぜかこのお店の店長さんだけはずっとびっくりしていたので、慣れることが出来て一安心だ。
なんでだろうなぁと原因を考えてみたのだけれど、もしかしたらこの人は気配が薄いのかもしれない。場にとんでもなく馴染んでいるから、急に来るとびっくりする……の、かもしれない。
「今日は何を探してるの?」
「ヒロゾ芋の種芋を……」
「あぁ、時期だもんねぇ。当然あるよ~」
「あと、ほかに何か育てやすい野菜ってないですかね」
「この時期からだと……あ、いい苗があるよ」
奥の方からごそごそと出てきたのは、まずヒロゾ芋の種芋。これは分かる、見たことがあるので。
そしてそれとは別に、小分けにされた苗が三つほど出てきた。これは分からない。苗だけで何か分かるほど私は畑に詳しくないので。
「ヤカーリーの苗。ヤカーリーって分かる?」
「……えっと、確か、甘いやつですよね」
「そうそう。料理に入れても美味しいけど、よく見るやつはお菓子になってるやつかな。これから植えたら、秋から冬まで収穫出来るよ」
「冬まで……長いですね」
「うん。冬に枯れたら、そのまんま春まで放置して肥やしにするといい……引っこ抜いて放置でもいい」
「なるほど」
なんであれ、いい感じの植物らしい。
育つと実が生るらしく、強めの植物だから取っても取っても実が出来るんだそうだ。
説明を聞いて、メモを取ってヤカーリーの苗も買う。
「まだ夏だから気が早いかもしれないけどさ、来年の春には畑広げてみたら?楽しいでしょ」
「そうですね、思ったより良く育ってくれますし……」
もっと難しいかと思っていたのだけれど、自分が食べる分を作るだけならちょっとくらい変形しても味に変わりはないし、思っていたよりは難しくなかった。
なので、店長さんのおすすめ通り、来年はもうちょっと規模を拡大してみる予定だ。
とはいえそれはまだまだ先の予定。今は今の畑の手入れについて考えないといけない。
そんなわけで種芋と苗を買ってお店を後にして、次は資材屋さんへと向かう。
ふわふわ浮いている荷物が増えてきたからか、徐々に人の目がこちらに向くようになってきた。それにも慣れてしまったので特に気にはしないけれど、帰る頃には比較にならないくらいの視線が向けられていることだろう。
なにせ、今日も今日とて大荷物になる予定である。
なんて考えながら資材屋さんに入って、買うべきものを考えながら奥の方へ進んでいく。
まず何よりも優先して買わないといけないのは、でっかくて頑丈な石である。
形はどんなのでもいいが、でっかくないといけない。
「ほかにも封印はするけど……分からなきゃ意味ないもんね」
「ホー」
廃村を更地にするのには、そんなに手間も時間もかからない。けれど壊した後、封印する前にどこかに逃げられてしまうと面倒なので、早めに封印の準備をしたいのだ。
廃村更地化計画は、封印の準備が出来るまでいったん中断である。
というわけで封印したことを記して、ちゃんと説明を彫り込める石が欲しいのだ。
「ホー」
「お、本当だ」
多分あるだろう、と探しに来たのだけれど、結果から言うとあった。
でっかめで、しっかり切り出された石材が積まれている一角。そこにあったひと際大きなものを浮かせる。
ここまでしっかり四角かったら人工物だと分かりやすいし、大きいし、ちょうどいい。
「よし、じゃあ他の物も探そう」
「ホー」
浮かせた石材をぶつけないように注意しながら、他の必要なものも探しに行く。
この時点で結構驚いたような視線が向けられている。人にも物にもぶつけたりはしないので、どうか安心してほしい。