廃村を更地に
シンディとテルセロが帰ってから一夜明けて、案の定何をするべきか分からなくなってしまったので、とりあえずやるべきことを考えてみることにした。
折り畳みのベッドをテーブル、椅子をどんどん畳んでいって、寝室の隣の部屋に運び込む。
そんな作業をしながら、キヒカとやることを話し合った。
「まず、畑の植え替えかな」
「ホー。ホホー」
「うん、ロピュはもう終わりだから、そこにヒロゾ芋を植えよう」
「ホー」
折り畳みベッドと一緒にお客さん用の布団も片付けようと思ったのだけれど、これは一回洗ってからにしようかな。
普段は二日か三日に一回くらい、お風呂場で服とかを洗っているのだけれど……布団はでっかいし、外で洗った方がいいかもしれない。でっかい魔法で作業すれば、まぁ洗えるだろう。
「あとは、廃村を更地に」
「ホー」
「封印も、作らないとね」
「ホーホ」
二人が遊びに来た結果、新たに出来たやることもしっかりやっておかないといけない。
あれから詳しく調べてくれたテルセロ曰く、人を呼び込むちょっとした誘惑の魔力も漂っていたらしい。私がここに住み着いたのも、それにちょっとくらい影響を受けた結果なのだろうか。
まぁ、なんであれ、害があるのは確かだ。魔力奪われるのも嫌だし、それで強めの魔物が発生するのも嫌だ。
現状私は影響を受けていないとはいえ、悪いものだと分かった以上気分のいいものではない。
ので、しっかり更地にして封印を施しておいた方がいいだろう。
ついでに、封印した理由と範囲を記しておけば、私がいなくなった後でも危険性は伝わるはずである。何で施されたのか分からない封印は後々面倒ごとになる、と私は知っているのだ。
「ホー」
「そうだね、お守りも作って持って行かないと……他は、何かあるっけ」
「ホー……ホホーホーホー」
「そっか、確かに。夏だもんね……」
「ホー」
夏が始まった、ということは、食材の腐敗が心配な時期になってきた、ということである。
魔石に氷の魔法を刻めば、食材を冷やして置けることは知っている。使っていたし、作っていたので。
問題は、入れ物か。寝室の暖房を作った時もそうだったけれど、魔石自体はどうにでも出来るけど、入れ物はしっかりしたものを外部から買ってきたいのだ。
「うーん……長く使うだろうし、気に入ったものを探してみようか」
「ホー」
あの町は、綺麗なものがいっぱいある。きっと気にいるものも見つかるだろう。
寝室の暖房にしているあの器も、町で見つけて一目で気に入って買ってきたものだし。あれを買ったお店に行ってみようか、なんて考えながら、すべての折り畳み家具を折り畳んで運び終わった。
家具の上には埃と虫除けの魔方陣を刺しゅうしておいた布をかけておく。これでよし。
「よし、廃村に行ってみよう」
「ホー」
キヒカと二人暮らしの家に戻った家の中を見渡して、杖を持って外に出た。
肩に乗ってきたキヒカを一度撫でてから、森の中を突っ切って廃村の方へ向かう。
どうせ近いうちに更地にするのだから、今から始めてしまっても誤差の範囲だろう。
「……うん、始めようか」
「ホー!」
杖を両手で持ってふわりと地面から足を離す。
それと同時に飛び立ったキヒカを見送って、手近な建物に杖を向けた。
……がれきやなんかが家に飛びそうになったらキヒカが抑えてくれるはずなので、あまり威力を落とさなくても大丈夫だろう。森もあるし、そんなに飛ばないはずだ。
「攻撃 一段 発射」
杖の先から飛んで行った魔法が、杖を向けた先の廃屋数件を巻き込んで爆ぜる。
とんでもない音がして、結構な暴風が吹き荒れた。……うん、ちょっとくらいは、威力を落とした方がよかったかもしれない。
杖を向けた先はちょっと地面がえぐれたし、建物は跡形もない。木材は回収して薪にでもしようかと思っていたけれど、木材も残らなかった。
「キヒカ、大丈夫?」
「ホー」
「よかった、ごめんね」
「ホホー」
「うん、次からは威力を落とすよ」
キヒカにも呆れられてしまった。怪我などは一切ないようだ。流石キヒカである。
ともあれ、これでちょっとだけあたりが更地になった。今のは流石にやり過ぎだったけれど、ちょっと威力を抑えても数軒の廃屋を消し飛ばすくらいは出来るだろう。
家を直すのに比べたら、圧倒的に早くて楽な仕事である。
「もう一回吹き飛ばして、今日は戻ろう。封印のなにかも作らないといけないし」
「ホー」
再び肩から飛び立ったキヒカを見送って、杖を構えなおす。
ふわりと浮いて、身体の向きを変える。先ほど更地にしたところから、少し左に身体の向きを調整して、狙いを定めた。
「攻撃 減少 分割 四段 発射」
威力を下げて、四つに分けて。一つ放つ度に向きをちょっと調整して、先ほどよりも広範囲へと魔法を当てていく。
……うん、これなら爆風も起こらないし、周りへの被害も地面の抉れもない。
威力は十分で、ここに廃屋があったとは分からないくらいに更地になっているから、これでよさそうだ。
「ホー」
「うん、帰って封印の準備をしよう」
「ホホー」
地面にしっかり足をつけてあたりを見渡していたらキヒカが降りてきたので、一緒に家に戻る。
封印は頑丈な方がいいだろうし、何に刻むかも考えておいた方がいいだろう。