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・嬉しいお誘い

 冬場何かと慌ただしかった騎士団も、春が終わる頃になってようやく平穏を取り戻し、テルセロは休みの日にシンディの実家である生地屋を訪れていた。

 フィフィーリアから連絡が来たのは数日前なので、シンディの所にも連絡は届いているだろうと思ったのだ。突撃されるよりも自分から行く方が精神的に楽なので、とりあえず顔を出しにきたのだ。


「あ、テルセロ!」

「よぉ。フィーリアから連絡来たか?」

「来た!!!」


 元気のいいシンディに若干気圧されつつ、テルセロは店の中に入る。

 幸い客はいない時だったようで、シンディの声が聞こえたのか店の奥からシンディの兄であるクリフが現れて奥へ入るように誘導してきた。

 それに従って店から居住スペースに移動し、リビングで出された茶を受け取る。


「ついに直し終わるんだってね!」

「マジで家丸ごと直すとはな……」


 受け取った連絡に差異はあれど、内容は大きく変わらないのだろう、ということを確かめてから、テルセロは本題を切り出した。

 つまりは、フィフィーリアの家に遊びに行く日程について、である。


「ガルラチまで馬車で順調に進んで六日、町に一泊するとして、そこからはフィーリアが迎えにくるらしい」

「キヒカが背負って飛んでくれるらしいよ。テルセロは乗る?飛ぶ?」

「俺は飛べねぇし、フィーリアの速度についていけるわけがねぇんだよ……」

「それはそうかも」


 ガルラチ、とはフィフィーリアがいつも買い物に行っている最寄りの町、アデラの出身地の名前だ。

 フィフィーリアはいつも日帰りで移動しているらしいが、そもそも本気で飛べば馬車が六日かかる道のりを数時間で飛んで来れる魔法使いを基準には出来ない。

 自分がとんでもない機動力の持ち主であるという自覚がフィフィーリアには無いので、あまり理解はしていないだろうが、普通飛べたとしてもそこまでの速度は出せないし、出せたとしても数時間飛びっぱなしで移動できるわけはないのだ。


 フィフィーリアの自覚の薄さというか、自己評価の低さはどうしたものかというのは、学生時代から時々話題に上がる問題点なのだが、今なお改善は出来ていない。

 と、いうよりも、今のあの状態ですらシンディとアデラがかなり改善させた方なので、元の状態が悪すぎた結果なのかもしれない。

 なんてことを考えてため息を吐いてから、テルセロは脳内で休みの予定を組み立てる。


「王都特別区内の移動って言っても、ちょっとは不安もあるよねぇ」

「だから俺も行くんだろ」

「休み取れるの?往復だけでも十四日くらいはかかるでしょ?」

「冬の間に休めなかった分、順番にひと月くらい纏めて休めるようになるらしい」

「あぁ、王宮魔術師のアレ、そんなところにまで影響あったんだ」


 納得したように言うシンディに頷いて、もう一つため息を吐く。

 冬の事件で問題が表面化した王宮魔術師の労働環境については、まだまだ波紋があるのだ。

 纏まった休みどころか丸一日の休日すらなかった魔術師たちが、突然減った仕事量にむしろ不安を示したことで、問題の根深さが浮き彫りになって上は頭を抱えているらしい。


 同時にそれまで魔術師に丸投げしていた仕事が戻って来た結果てんてこ舞いな所もあるらしく、そのあたりに目を光らせる必要があったりと、完全に解決した、とは言い切れない状態なのだ。

 騎士団内でも一部の隊がそういった仕事の丸投げをしていた、と発覚して除隊やら移動やらがあり、しばらくはバタバタとしていた。


「テルセロの所の隊長さんは真面目だし、大丈夫そうだけど周りがバタバタしてたら忙しくもなるよねぇ」

「なんで知ってんだよ」

「騎士団の隊長格は誰でも調べたらすぐ分かるでしょ」

「性格まで調べられるのは普通じゃねぇよ……」


 何故か知っているらしいシンディの言う通り、テルセロの所属している隊の隊長はドのつく真面目な性格であり、融通の利かない所もあるがこういった事件の時はそもそも一切の関与が無いので周囲に左右されずいつも通り仕事をすればいい、という状況を作り出せる人でもあった。

 融通は利かないが規則内の行動であれば特に何か言われることも無いので、テルセロとしてはこの人が自分の上司で良かった、と思う事の方が多い相手だ。


「……なるほど、それまで取れなかった休みを取る時期になってるから、むしろ休めって感じなの?」

「今の一瞬で何を理解したんだお前は」

「違う?」

「違くはない……そうだよ、休みの希望を出せって言われてんだよ」


 なにやら理解したらしいシンディが得意げに胸を張るので、テルセロはそろそろ回数を数えるのをやめつつため息を零した。

 まぁなんであれ、纏まった休みはとれるので、その間にフィフィーリアの所に遊びにいこう、という話なのだ。


 そこまで離れているわけでもない場所だが、シンディは魔物などに襲われれば自衛も難しい一般人なので、テルセロが一緒の方がフィフィーリアも安心だろう、という思考もある。

 ……一定範囲内、自分の身内と判断した人間に対してお守りを持たせる習性のあるフィフィーリアはシンディにも当然高性能のお守りを持たせているので、一人でも心配はないだろうが、まぁそこは言ったら負けだ。テルセロも誘われているので、どちらにしろ一緒に行くことにはなるのだから。

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