穴を開ける
家の外壁を直し始め、とりあえず一度目の下地塗料塗りが終わった。
そしてそれが完全に乾いたので、いよいよ壁に穴を開けてキヒカの出入り口を作っていくことにした。
穴を開ける位置はキヒカとも話し合って、家の中と外をしっかり確認して問題のない位置を見極めた。印は既につけてあるので、後は穴を開けるだけである。
あらかじめ作ってある枠の大きさに合うように、ずれが無いように何度も確認して慎重に壁を壊していく。
壁に穴を開ける以上、基本的に失敗は許されない。ある程度なら修復も可能だろうけれど、それでも大きすぎる失敗は今後家の中にずっと隙間風が入り込み続けるという結果をもたらすことになるのだ。
そんなわけで、慎重に。時間をかけても問題はないので、丁寧に丁寧に作業を進めて行く。
まずは一撃。中央になるところにトンカチを一振り。
そこそこ力を入れて叩いたので、壁には円形の小さなくぼみが出来た。内壁には届かなかったようなので、もう一撃。
これで内壁の方までトンカチが届いて、外から部屋の中が見えるようになった。
窓を飛び越えて家の中に入り、中からも一撃。
しっかり丸い穴が開いて、見晴らしがよくなる。あとはその穴を中心に周りを広げて行き、ある程度広がったところでトンカチからのこぎりに持ち替えた。
中と外を行ったり来たりしながら、印をつけておいた縁の枠の大きさに合うように壁を切り外していく。
ちょっとでも不安を感じたら手を止めて、行き過ぎないように注意して作業する。
壊しすぎたら直すのは大変なのだ。壊すのより直すののほうが大変なのだ。
そうしてじっくり時間をかけて壁に穴を開けて、気付いたら日が暮れて来ていたので一旦木の板で仮に塞いで続きの作業は明日やることにした。
急いでやると良いことは無いのだ。日が暮れてくると明かりも足りなくて危ないし、作業に支障も出てくる。
「明日は出入り口を完成させて、出来れば壁の下地二回目始めたいね」
「ホー」
夕食を食べながらそんなことを話し合って、その後はお風呂に入ってさっさと寝た。
明日も作業が盛り沢山なので、夜更かしなんてしている暇はないのだ。
この家に来てから、私はいつだって早寝である。早起きかどうかは、日による。眠い日は遠慮なく寝ているので。
そして翌朝。寝起きでぼんやりしながら今日の予定を考えて、顔を洗って身支度を整えたら一回キッチンによってとりあえず水を飲み、朝ごはんを食べて畑に水をやりに行って、花壇にも水をやって、雑草取らなきゃなぁと考えながら家に戻って来た。
雑草をむしる必要もあるけれど、今はとりあえずキヒカの出入り口を完成させるのが先だ。
その後、今日の午後とか夕方あたりに手が空いたら、一旦草むしりに行くべきかもしれない。
雑草はあらゆる意味で敵だって本に書いてあったし。
塗料の二度塗りは明日からでも問題はないから、やっぱり今日はキヒカの出入り口を完成させたら草むしりにいこう。
「まずは、扉の完成だね」
「ホー」
昨日の作業の進捗を確認して、枠組みからで大丈夫そうだ、と一人頷いた。
そんなわけで、昨日しっかり開けておいた四角い穴に作っておいた枠をはめていく。
ギチギチになるように作ったから当然なのだけれど、中々はまらなくてこれだけで結構な時間が掛かった。
どうにかこうにかあちこち叩いて、途中でトンカチを持ってきて、ようやく枠がキッチリはまった。
あまりのギチギチ具合に、釘とかは必要なかった。一応用意してたんだけど、最早釘を打つ隙間すらない。この安定感なら、このままで大丈夫だろう。
キヒカも大丈夫そうだと言っているし、このまま作業を進めよう。
この後は上から吊るす感じで扉を付けるのだけれど、これも隙間がなるべく出来ないように作ったから大きさがギリギリで、隙間で作業をしないといけないので中々に大変だ。
腕がねじれそうになりながらどうにかこうにか頑張って、金具を固定することに成功した。
どうにかなった……と腕をさすっている間にキヒカが扉の動きを確認してくれたので、そのまま家の中に戻って合流した。
「問題なかった?」
「ホー。ホホーホーホ」
「なら大丈夫だね。じゃ、お昼ご飯にしよう」
「ホー」
扉の稼働もそれぞれに掘った魔法陣の効果発揮も問題なかったらしいので、これで安心して壁の修理と畑に集中できる。
ちなみに、作業に夢中になっていた結果お昼ご飯を食べ損ねかけているので、いつもより大分遅いお昼ご飯になった。
まぁ、この後の予定が詰まっているわけでもないし、ちょっと時間が遅くなっても問題はないのだ。
そんなわけでお昼ご飯を食べて、この後は畑の草むしりに行くことにした。
帽子を被って、靴を履き替えて、杖を持って畑に向かう。
キヒカも肩に乗ってついてきたけれど、ちょっと眠そうなのでベンチの上でお昼寝でもするんだろう。
実際ベンチに下ろしても抵抗しなかったので、このままお昼寝するらしい。キヒカの横に杖を置いたら、私は畑にしゃがんで雑草を抜く。
根っこからしっかり抜いて畑の外に投げていき、これが結構楽しくて夕方になるまで夢中で作業を続けていた。