外壁の直し方
町に行こうと思っていた日が結構な雨で、二日後雨が止んでから町に向けて出発した。
出発前に畑も一応確認して、大きく崩れていないことは確かめてある。
なので心配事も無く、心置きなく町に行ける。ということで空を飛び、飛んでいても寒く無くなって来たなぁとのんびり考える。
「春だねぇ」
「ホー」
キヒカとものんびり会話をして、町の外で地面に降りる。
降りる場所もすっかり固定化されていて、降りてキヒカを肩に止めたら門番さんに会釈、という流れも確立されつつある。
今日もしっかり門番さんに会釈をして門を潜り、そのまま大工さんの所へと向かった。
「こんにちは」
「あらフィフィーリア、いらっしゃい」
「おう嬢ちゃん。外壁の件か?」
「はい。屋根直し終わったので」
「おぉ、終わったのか」
招かれるまま椅子に座って、出されたお茶にお礼を言って手を付ける。
暖かくなってきたとはいえ、まだまだ暖かいお茶が嬉しい季節だ。ほへ、と息を吐きつつ背筋を伸ばして正面に腰かけた大工さんに向き直った。
ちゃんとメモも引っ張り出して、聞く姿勢はバッチリだ。
「外壁は、まず今の外壁の汚れをある程度落とす所からだな」
「汚れ……水拭きとかですか?」
「一応専用の洗剤もあるぞ。まぁ、洗剤使うならその分しっかり水で流さないといけなくなるが」
「なるほど」
どうせならしっかりやった方が良さそうだ。何せ元空き家なので。どれだけ汚れが溜まっているかは私でも把握出来ていない。
何も無くたって外壁なら汚れているだろうし、やって損はないだろう。
「壁を洗ってしっかり乾いたら、その上に下地材を塗る」
「塗料の下地ですか?」
「おう。元の壁の補強と、上から新しく塗る壁材との接着材だな」
「なるほど」
これも専用の物があるらしい。やっぱりよく必要になる物は専用の物が必要になるんだろう。
そしてこれも、塗った後しっかり乾燥させる必要があるそうだ。
塗り残しとムラの防止に二度塗りした方が良いらしく、一度目がしっかり乾いてから二度目を塗るらしい。なるほど、これは冬には出来ない訳だ。
「最後に壁を塗るんだが、これは塗料ってよりもセコトに近い感じでな。塗る時に厚さが出るから均しながら塗っていく感じだな」
「なるほど」
「一気に作ると塗る前に固まるかもしれねぇから、少しずつ作って塗る方が良いぞ」
「分かりました」
結構粘度が強くて、最初は塗るのに慣れてなくて大変だったりもするらしいので、本当に少しずつ作って塗っていくのが良いのだろう。
材料は資材屋さんにあって、大工さんが案内してくれるらしいので、その前にもう一つ聞きたかったことを聞いておく。
「パンを焼く窯って作れますかね……?」
「石窯か?まぁ、作れるだろうが……作りたいのか」
「パンを焼きたくて……」
作れるなら、ついでに屋外の作業場になるような場所もまとめて作りたいのだ、というと、大工さんは少し考えてから作り方を教えてくれた。
とりあえず石窯から、と棚から本を取り出して、開いて見せてくれたのは石窯の作り方……だろうものだった。素人には、多分そうだろうくらいにしか分からない。
「俺も石窯は専門じゃねぇからなぁ……場所はあるんだろ?」
「いくらでも」
「でかい方が熱の保持が出来る分、パンは焼きやすかったはずだ。嬢ちゃん、レンガでドームって作れるか?」
「小さいのなら作ったことあります」
「あんのか……」
「ホー」
あれは王宮魔術師時代、何故かやらされた魔法が一切関係ない道具の修理に、レンガのドームが必要だったのだ。
そのせいで何故だかレンガのドームを作れるようになった。レンガじゃなくても、四角い物を組み合わせてドームを作るのが上手になった。
あれが役に立つのなら、是非ともやった方が良いかもしれない。嫌な記憶を楽しい思い出に上書きしよう。そして美味しいパンを焼くのだ。
なんて、私が気合を入れている間に、大工さんはキヒカと頷き合っていた。
なんだろうか、私を抜かして何か分かり合っている感じだ。
「パンを焼くなら窯を閉められるようにしないといけないね」
「窯を……?」
「そう。扉を付けるなり、塞ぐ用の鉄板を用意するなりして入り口を塞いで余熱で焼くんだよ」
レイラさんがお茶のおかわりを淹れつつパンの焼き方を教えてくれた。
蓋を閉めないで焼くものもあるらしいので、鉄板で封鎖する感じの方がいいだろうか。
石窯作りは中々大変そうだけれど、作れば絶対に美味しい物が食べられるので、どうにか頑張りたいところだ。
……でも、その前にまずは家の外壁を直すことを考えないと。
石窯作りはその後、外の作業用の空間を作って、しっかり腰を据えて作るのだ。
多分夏の作業になるんだろうなぁ、なんて思いつつ、石窯の仕組みを説明してもらった後に資材屋さんに行くことになった。
外壁は色も選べるらしいので、屋根と合う色を選ばないといけない。
同じ色だとちょっと微妙な気もするし、何色がいいだろうか。
白なら大体の色には合うと思うけれど、外壁だし汚れてしまう気もする。これは中々悩みどころだ。