無時
三題噺もどき―ごひゃくじゅういち。
賑やかな声が遠くに聞こえる。
気がするだけで、音源はすぐそこにあるんだが。
テレビをつけているだけだもの。そりゃそうだ。
ただ、音量を聞こえるギリギリまで下げて、更に少し離れたところに自分がいるから、そう聞こえるような感覚になるんだろう。
「……」
ソファに寝転がって、視線は天井。
何のためにテレビをつけているんだか……。見るためではないのは確かだ。
テレビテレビと言っているが、何かの番組を見ているわけではなく。
今や当たり前になった動画サイトで、ゲーム実況というやつを見ているのだ。
「……」
だから見ているのではなく、流しているだけなのだが。
それだけでも十分、楽し気な雰囲気とかどういう状況とかわかる。
これは個人的な感覚なのだが、ゲーム実況をしている人ってそれなりに、声がいいと言うかはっきりしているので、聞いているだけでも十分に伝わってくるような気がする。
そりゃもちろん、視覚からの情報も一緒にあった方がいいが、聴覚からでも満足感はある。
「……」
それに、好きなものは何度でもリピートするタイプの人間なので、画面を見ずとも状況はなんとなくわかる。それぐらい、見慣れた聞きなれたゲーム実況の動画を流している。
以前は、普通に見れていたんだがなぁ。
「……」
いつからだったかは分からないが。
こう、いつの間にか、画面から流れてくる光とか色とかがものすごくうるさく感じるようになってしまって。
酷い時は頭痛がしたり、吐き気まで行くこともあったりしたものだから……じっとは見て居られないのだ。
体調がいいときは、ぼうっとしてぐらいなら見て居られるんだけど。今日は難しかった。
「……」
まぁ、乗り物酔いとかもしやすい方だし、きっと画面酔いをしてしまっているだけなんだろうけど。自分でするにしても、オープンワールド……であっているのか分からないが、RPGと総称されるものは、画面酔いが激しくて操作していられない。あと単純に操作慣れしていないのもあるんだろうが、操作しているキャラがどこにいて、どこへ行くべきか分からなくなる。ので、そういう系のゲームはたいてい初手で躓くのでやめた。
「……」
まぁ、そもそも最近はゲーム自体をやる気力がなくなりつつあるので、携帯はかなり離れたところに置かれていたりする。
元気があれば、リズムゲームとかは好きでよくやるし、コマンドを選択するだけのタイプで学生のころ進められたやつは今でもやっている。
各ゲームイベントとかもやっているから、その辺も進めたいところではあるけど、今日は出来そうにない。
「……」
テレビからは叫び声が聞こえる。
今流れているのはホラーゲームの実況だ。色々見るが、やはりホラーゲームの実況を見ているのが多いかな。だから、自動で再生されるものも、自然そちらに寄る。
「……」
遠くにその声を聞きながら、意識はぼうっとしたまま。
今日も何をすることもなく、こうして一日が過ぎている。
ただ起きて、食べて、ぼうっとして。
……時間を無駄にしているような気分にはなるから、何かはしないと、と思うが、何をしたらいいのか分からない。いや、次を探せばいいんだけど。
……今月末にまたあそこに行くと考えると、その気も失せる。
「……、」
突然。
ゲーム実況の声に混じって、突然子供の声が聞こえた。
リビングの窓を開けていたから、外からの声だろう。
この辺りは、都会とは比べ物にはならないが、それなりの住宅街ではある。
近くに小学校があることもあってか、子連れの家族がそれなりに多く住んでいる。だからというわけでもないが、子供の声はそれなりに聞こえる。元気な子供が多いなこの辺は。
「……」
まぁ、そうでなくとも、隣と、道路を挟んだ向かいには子供がいるからよく聞こえるんだけど。一度越してきたときに挨拶に来てくれたが、男の子ばかりで大変そうだなという印象だった。隣の空き地でよく虫取りをしている姿も見る。
今は、かくれんぼでもしているのか、もういいかいと言う声が聞こえてきた。
返事は残念ながら聞こえなかったけど。
「……」
ひとりかくれんぼでもしているんだろうか。
……ま、そんな訳はないか。確かに今時いろんな情報が手に入るし、この時期はそういう類のものはさらに手に入りやすそうだが、この時間にするものではないし。
きっと返事の声が小さかっただけだろう。それか離れたところに隠れでもしているか。
「……」
あーということはそろそろ妹が返ってくる時間かなぁ。
部屋に戻るか、風呂に入っておくか。
今日も何もせずに、終わってしまったなぁ。
お題:かくれんぼ・都会・色