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【エブリスタ143万PV突破】政略奪結婚  作者: 有栖賀馬頭 (TL名義は朱里雀)
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3-6


 結局拝観料も払ってもらってしまい、神社の中をキョロキョロと辺りを見渡しながら階段を登ると、オレンジ色のお堂ばかりある中に、よくある古い家と同じ瓦と白い壁の大きなお堂が出てきた。


「あれは何ですかね?」

 人が途切れずに集まっており、麗は気になって首を動かす。


「胎内めぐりだって。暗闇の中を歩くらしい。麗ちゃん、暗いところは大丈夫?」

 明彦が看板を見ながら答えてくれた。

「はい。結構好きです」


 中学まで実母と二人で住んでいたアパートは狭く、暗かった。

 だから、本当は、今住まわせて貰っている佐橋の家は広くてあまり落ち着かない。


「じゃあ行ってみようか」

 またしても明彦がお金を払ってくれ、お寺の方から説明を受けた。

 曰く、縄を伝って歩かなければならず、中では話すことも、声をあげることも禁止らしい。

 そして、中には大きな石があるのでそれに願い事をするそうだ。

「本当に暗そうですね」

 入り口からも暗闇が漏れていて、麗は驚いた。

 いくら暗くても、足元に明かりくらいあるだろうと思い込んでいたためだ。

「俺が先に行くから怖くなったら掴んでいいよ」

「多分、大丈夫です。頑張ります!」


 明彦に続き、麗は中に入った。

 急な坂になっていて転けそうで怖い。

 下に着くと、視界が真っ暗になった。

 夜に家の明かりを全て消してもこうはならない。星の光があるからだ。

 カーテンを閉め切り、明かりを消して、更に瞼を両手で強く抑えなければ、こんな闇には出会えないだろう。

 大きな数珠を伝って歩いているが、自分が今、何処にいるのか。明彦が本当に前にいるのかもわからず、麗は片手をさ迷わせながら探した。

 何も見えず、時がゆっくり進んでいるようでいて、早い気もする。

 はっきりした恐怖ではないが、じわじわと恐ろしくなっていく。


 手が、人らしきものに当たった。


 撫でると柔らかいので、やはり明彦である。

 麗は明彦の服を引っ張るのは気が引けたが、折角見つけた先輩から離れる勇気もなく、そのまま手を当て続ける。

 すると明彦に手を優しく捕まれ、筋肉のついた先輩の腕らしきところに導かれ、そこを掴ませてもらう。 

 麗は、これで一安心、と息を吐いた。


(いや、ちょっと待て、さっきまで触ってたのって須藤先輩のお尻じゃないだろうか?)

 麗は己がとんでもない行為をしでかした事に気付き、血の気が引いた。


(どうしよう、撫でちゃった! 痴女だ、犯罪だ、逮捕だ!)


 穴があったら入りたかったが、もう入っていた。

 混乱しながら歩いていると、一筋の光が見えた。

 大きな石が照らし出されていて、それはそれは幻想的だ。


 麗は、ふと、心が洗われる気がした。

 明彦は優しいから指摘してこない筈だ。そうだ、このまま気づかなかった事にしよう。


 私が触ったのは背中、私が触ったのは背中、私が触ったのは背中。

 心の中で唱え終わった後、明彦に続いて麗も石を撫でた。

 そして、姉の幸福を願って拝み、何事も無かったかのように出口まで明彦の腕を掴ませてもらったのだった。






 胎内めぐりから帰還いや、出生し、外に出ると、日の光が目に刺さった。


 麗が目がー、目がー!と、断末魔の叫びを心の中で上げていると、ぼやけた目に映る明彦も同じだったようで、目を隠すように手を上にかざし、日の光を浴びながら固まっていた。

 多分、ドラキュラが太陽に当たって死ぬときと同じポーズである。


「眩しいね。麗ちゃんは大丈夫?」

「何とか目が慣れてきました。先輩はいかがですか?」

 麗はそっと明彦の腕から自分の手を離した。

「まだちょっとチカチカするけど、だいぶ回復してきたかな」

 明彦はやはりお尻を触ったことを咎めるつもりはないようだ。

 良かった、女子高生が知人男性のお尻を触って逮捕というニュースにはならなさそうだ。


 それにしても、明彦は足が長いのだ。しかも背も高いから、麗が腰だと思っていた位置にお尻があったのだ。

 だから、麗としてはうら若き女子高生が男子大学生のお尻を触ってしまった責任の半分は明彦にあると思いたいところである。


「何をお願いしたの?」

「姉が変な人に絡まれずに、幸福に生きていけますようにと願いました。先輩はどんな願い事にしはったんですか?」

 麗は明彦とともにゆっくりと歩き出した。

「健康と長寿かな、ありきたりだけど」

「それが一番ですよ。老齢で死ぬギリギリまでは健康で、ある日ポックリ逝くのが幸せやと思います。姉さんにはそんな人生を歩んでほしいです」

 若くして苦しんだ母の闘病に付き合っていた麗は心からそう思っていた。

「達観してるね。……麗ちゃん自身は?」


 明彦の言葉に麗は、はたと、余計なことを言っていたことに気づいた。

 しかも、敬語で話すよう気を付けていたつもりなのに、口調がだいぶ砕けてしまっている。


「勿論、私もです。あ! 須藤先輩、あれが飛び降りるところですよね!?」

 人の流れに沿って長い回廊を歩いていると、テレビでよく見る舞台が見えてきて、麗は指を指した。


「意外と生存率は高いらしいけど、紐なしバンジージャンプになるから、飛び降りたら駄目だからね」





 

 「須藤先輩、ここ、神社ですよね?」

 寺の境内に表れた小さな神社に麗は驚いた。

「そうみたいだね。縁結びの神様を祀っているんだって。ここにある恋占いの石から向こうにある石まで目を瞑って好きな人を思い浮かべながら辿り着けたら恋が叶うって書いてあるよ」

 明彦が由緒が書かれた掲示板を見て答えてくれた。


 石畳の中に埋め込まれるようにして鎮座している石はしめ縄がされ、恋占いの石と書かれた看板が添えてある。


「麗ちゃん、やってみる?」

 麗はもう一つの石を見てこの距離なら目を瞑っていてもゴールできると思った。

「楽しそうなのでやってみたい気持ちはあるんですが、恋をしたことがないので、意味がないかな、と」

 好きな人もいないのに辿り着かれても、石も縁を結ぶ先がなくて困るだろう。


「やりたいなら、縁の先取りだと思ってやってみたら?」

「縁の先取り?」

 麗は首を傾げた。


「将来、好きな人が出来た時に上手くいきますようにって願いながらやるような感じかな。俺が勝手に言ったことだから、神様も困るかもしれないけれど、怒りはしないんじゃないかな」

 明彦の提案に麗は飛び付いた。

「それいいですね!」

 麗は姉以上に好きになる人などできる気がしないが、折角ここまで来たのだから、やってみたかった。

「じゃあ、横に付いているから頑張って」

「はい!」


 麗はギュっと目を瞑り、好きな人が出来たらよろしくお願いしますと、願いながら歩き出した。

 両手を軽く上げて、ゆっくりと、慎重に、歩く。

「半歩右に行って」

 明彦の言葉に麗は驚いた。まだ五歩くらいしか歩いていないのにもうずれてしまったらしい。

 麗は言われた通り半歩右に進み、少しだけ右に進むよう意識して歩いてみた。

「今度は一歩左」

 意識しすぎてしまったらしい。麗は左に進み、再び歩きだした。


「そのまま真っ直ぐだよ、もう少し……危ないっ!」

 急に腕を引かれ、麗は思わず目を開けた。

 明彦の胸にしなだれかかってしまっている。

 何事かと明彦の顔を見ると、険しい表情で遠くを見ていた。

 明彦が睨んでいる方向を見ると、迷惑そうに避ける参拝客の中心で、走っている人の背中が見えた。 

 それで、バスか電車か新幹線かはわからないが何かに遅れそうになり、焦って走っている人とぶつかりそうになったところを助けてもらったのだと理解した。


「あっ、ごめんね、麗ちゃん」

 パッと明彦の手が離れ、麗も自力で立った。

「いえ、助けていただいたようで、ありがとうございます」

「もう一回やり直す?」

 明彦はそう言ってくれたが、恋占いの石には次の恋する乙女が挑戦し始めていたので、麗は首を振った。

「ありがとうございます、でも、好きな人ができてからまたチャレンジします。おみくじもあるんで、そっちをやってみますね」


 男の人に抱きしめられたことなど初めてで、なんだか気恥ずかしく、早口になっている自覚があった。

 麗は今度こそ財布を出し、自分のお金でおみくじを引いた。


「いいね、俺もやろう」

 明彦もおみくじを引いたので、恋人がいるなら無意味ではないかと思ったが、優しいから麗に付き合ってくれたのだと思い直す。

 麗は少しだけ緊張しながら、ピリッと糊を外し、おみくじを開いた。


「あ!吉です! 『恋愛、近親者から素晴らしい人を紹介されたり職場で思わぬ恋人を見つけ出したり、とにかく恋の花開く嬉しい時期である。』って、ほんまかいなー。姉さんがそんなんしてくれるわけないわ。それに、学校でもほとんど男子とは話したことないのに」


 麗は思わず、おみくじにツッコミを入れた。

 麗が唯一近親者だと思っている姉は麗が恋人を作るなど、まだまだ早いと言っているので、紹介はしてくれないだろう。


「じゃあ、まずはクラスメイトの男の子と話してみないとね。麗ちゃんは麗音の幸せばかり考えているけど、自分の幸せも探さないと」

 明彦の言葉に麗は困惑した。


「幸せですよ? 私。姉さんの幸せが私の幸せです」

 それは麗にとって当然の事だった。姉が幸せだと、麗の心も幸福になるし、姉が傷つけられると、麗の心も傷つく。


「麗音にとっても、麗ちゃんの幸せが麗音の幸せなんじゃないかな。麗ちゃんは少しだけでもいいから自分の幸せを考えて、周りを見てみるといいと思うよ」

 明彦の言葉は優しいはずなのに、麗はどこか厳しく感じてしまった。

「……はい」

「ごめん、踏み込んだ事言っちゃったね」

 麗は困った顔をしている明彦を見て、頭を下げた。

「アドバイスありがとうございます。私が姉一辺倒なのは事実ですから。でも、そうですよね、姉にとっても愛が重いでしょうし。ちょっと頑張ってみます」

「いい子だね。じゃあ、今度は俺の番」

 明彦がおみくじを開いた。


「凶だね」

「……凶、ですね」

 麗はまじまじとおみくじを見てしまった。凶って本当にあったんだ。この目で見たのは初めてである。


「愛情におぼれすぎる傾向がある。このままではダメ。理性を生かして進むこと、だって。うーん、そんなことないと思うんだけどね」

「む、結んで帰りましょう!」


 麗は苦笑する明彦より危機感を持って、会ったことのない恋人との未来のために、そこまでする?と言う明彦におみくじ結ぶべきだと強固に主張したのだった。


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