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第9話 同好会

「モンブラン、もう1個頼もうと思うけど...」


当然、千田も自分の話でも始めるのだろうと、僕は思っていたのだけど、そんなことはなかった。そうして、僕はひとりで花道珊瑚の前に座っていたのだ。


「千田くん、遅刻だね」

千田は遅刻している、のではなく、後から連絡が来ることになっている。急用ができた、とか何とか言って。花道を警戒させず、それとなく人となりを知ること、そして連絡先を入手すること。それが比良川の要求だ。カフェでのんびりしにきた訳ではないし、花道と一緒にいるのも怖かった。だから、僕は追加のモンブランは当然断ることにした。


「そういえば、名前教えてもらってもいい?僕は翠夜」

「私は花道、16歳、女子高生、あとは色々。今日ってお仕事の話?」


「花道さんのしてる事に単純に興味があって。どんな風にするのかなぁとか」

「あぁ、そっち系の人。目が死んでるっていうか、輝きが足りないっていうか。本当に生きてる?」

「まあそれなりに」


こういう時はむしろ警戒されないから、自分のぼんやりとした目つきに感謝した。花道としばらく話をしても、どこにでも居そうなギャルっぽい女の子、という印象しか持たない。むしろ少し幼いというか、その一方で優しい雰囲気のある不思議な人間だった。


「これは聞いて良いのか分からないんだけど、その、自殺の手助けをしているって聞いたんだ」

「正確にはちょっと違うけどね。それにその言い方、月に1回やってますよ、とかそんな感じでもないんだけどなぁ。今回が2回目。前って言っても随分前の話なんだよ?」

「その、別に言いふらそうとか、そういうことじゃなくて。本当に、ただ興味があるから聞きたいんだけど、はじめては中学生、とかそれぐらいの時ってこと?」

「まぁね。中学2年生、かな。まだ14になってないくらい。あんまりこういう話するなって言われてるんだけどね」


「言われてる...?」

「そう。ちょっとした知り合い。名前も教えてくれないけど、同好会、っていえば良いのかな。そういう人達にね」

「同好会?」

「うん。私、部活とか入ってないし」


同好会。自殺鑑賞同好会、ということだろうか。少し頭が追いつかない部分があったけれど。それにあの動画の時、この女の子はまだ13だったという事になる。


「13で、その同好会、のようなものに入った、ってこと?」

「別に、本当に同好会がある訳じゃないけど」

「うん」

「それに、あの時撮った動画を最近、たまたま見せたら誘われたってだけで。もしかしたら千田くんもかな、とか思って見せたけど違うっぽいね」


花道は少し残念そうに言った。同じ趣味の仲間かなと思って誘ったら違った、なんて事は良くある話だろうけど。そんな良くある話の落胆、みたいな。花道にとってはそんな軽い話なんだろうか。


「まぁ別にいっか。私、何も悪いことしてないし。誰に言ったってさ。ね、モンブラン、もう1個食べていい?さっき奢ってくれるって言ったよね。もう1個食べても奢ってくれるよね?ほらアイスとか一緒に食べよ?」

「食べたいだけ食べたら良いよ。なかなか聞ける話じゃないしさ」


そんな風に、少し格好つけて言った。何か素のままの自分でそんな事を許容するのは、変に罪悪感を感じてしまうような気がして。それならせめて、女子高生に奢って格好つけてる男、みたいなその程度の馬鹿のふりをした方が。そんな風に、年を重ねるごとに色々と自分を騙す技術だけが上手くなった気がした。そして本心の自分だけは、いつも安全で、透明な壁の中。


「やった。じゃアイスも頼むね」

「ああ。別に問題ない」


「それで、同好会、ってのはどういう集まりなの?」

「そうだねぇ、Talkerのただのグループだよ。私を入れて6人。小さいグループトークの部屋。最近誘われて入ったばかりだから、実はあんまり詳しく知らないんだけどね」

「その誘ってくれた人が、リーダー、みたいな感じなの?」

「うーん。別にリーダーとかは無いかな、多分」


ますます複雑だ。今日は連絡先を聞くだけのはずだったけど、深入りしてしまったものは聞かないと逆に不自然だ。そう思って僕はあまりずけずけと聞かないように、少しづつ話を聞いていった。


まとめると、こうだ。

そのグループ、同好会に花道が入ったのは今から数か月前。


とりあえずその同好会では、大した話はしないらしい。それでも集まっている人達は、何やら自殺しようと考えている人間とか、その自殺方法に関心があるらしい。それも、救いたいとか、興味本位とかそういうことではないという。それでも何か思うところがあって、そういう人間の情報を共有しているんだと花道は語った。


「千田くんの話もそこから聞いたんだよね」


僕は、これでも人間の醜さというか、弱さのようなものを体験して理解できている方だと思っていたけれど、彼らがどういう意図を持ってそんな同好会を作っているのか分からなかった。


きっとこの違和感のある濁った空気を、花道はあまり敏感には感じていない。モンブランばかりを口にする花道は、甘さで何度も刺激しないと、生きていられないのかもしれない。そんな憶測をしても、何も意味はない。


僕は、届けられたアイスをそっと口に入れた。その吐きそうなくらい甘ったるいストロベリーアイスクリームの匂いが、妙に生臭く感じた。

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