ベルセリア王国へ その2~メルルのピンチ~
最初の休憩の場所から離れておよそ1時間半が経過した。
ここまでは何事もなく、順調に馬車を走らせている。
基本的に街道を走っているのでそこまでアクシデントはないと思われるが、先ほどの盗賊の件もあり油断はならない。
なので、カトルはより警戒を強めながら馬車の車窓を見ていた。
「しかし、こうして車窓を見る余裕もあの勇者パーティに居た頃はなかったな…」
「そうだね……。 グズマがカトル君に雑用をさせて自分たちは楽してたからね。 私も手伝おうとしたけど……無理やり止められたしね」
(メルル……?)
カトルと他愛のない会話をしているメルルだが、様子がおかしい。
彼女の仕草がどうも落ち着きがない感じになっている。
「メルル、大丈夫か?」
「あ、あはは……、大丈夫だよ」
「そうか? ならいいけど……」
カトルがメルルを気遣うが、彼女は大丈夫と返した。
それでもカトルは彼女が心配でたまらないようだが……。
(うぅ、コップ一杯だからって油断した……。 飲むんじゃなかったよ……)
メルルが心の中で後悔をしながら、落ち着きのない仕草をし続けた。
そんな彼女をよそに馬車は走り続ける。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それからさらに20分が経過した。
この時間帯も何事もなく馬車を走らせることが出来ていた。
しかし、一人だけ状況が違っていた。
「うぅ……」
「メルル?」
やや困った表情をしながら、メルルが今までよりさらに落ち着きのない仕草をしていた。
スカートの裾をギュっと握りしめつつ、何かを必死に耐えているかのようだった。
「メルル、どうしたんだ? 本当に大丈夫か?」
カトルは心配なのか、メルルに声を掛ける。
すると、メルルは観念したかのように顔をカトルの耳元に近づき、こう囁いた。
「ごめん……、実はトイレ……」
「え……!?」
メルルがトイレを我慢していたことにカトルは驚きを隠せなかった。
順調ならあと20分には二つ目の休憩の場所にたどり着くのだが、彼女がそこまで耐えられるかが問題だ。
「大丈夫なのか?」
「順調に馬車が走ればなんとか……、でもアクシデントがあると厳しいかも……」
「さっき飲んだジュースが原因か?」
「多分、コップ一杯だからって高をくくって飲んじゃったから……。 もしかしたら、あのジュースは……」
(何事もなく着いてくれよ……)
カトルはメルルがトイレのピンチに陥っている中で、何事もなく無事に着けるように願っていた。
だが、そんなことはある存在が許してくれなかった。
突然の急ブレーキ。
「うわっ!!」
「きゃあっ!!」
ガタンと言う音と共に激しく揺れた。
「は、うぅ……!」
「くっ、何が…!」
メルルはさっきの揺れのショックで余計にトイレのピンチになったようだ。
カトルが外の様子を見る。
すると、そこには魔物が待ち構えていた。
「ゴブリン……! 待ち構えていたのか!!」
「そ、そんな……、何でこんな時に……!?」
ゴブリンと言う魔物が待ち構えていた。
ゴブリン自体は弱いのだが、今の状況では足止めの時間次第でメルルが危ない。
トイレを我慢しているメルルからしたら絶望の状況だ。
(数は6体か……。 なんとかやるしかない)
カトルは意を決して剣を手に取る。
そして、必死でトイレを我慢しているメルルに向けてこう言った。
「僕がゴブリンを早く仕留めてくる! メルルはなんとか耐えてくれ!」
「わ、私も馬車の中からやるよ……」
「大丈夫なのか!?」
「初級魔法なら詠唱の必要がないから、トイレを我慢しながらでもやれる……」
「でも、無理はしないでよ!」
「う、うん……」
そう伝えたカトルが速攻で飛びだし、ゴブリンに斬りかかった。
メルルを守るためにゴブリンに剣を振るい、次々と斬り倒していく。
「アイス!!」
メルルもトイレを我慢しながら、初級魔法のアイスでゴブリンの頭を撃ち抜いていく。
アイスの魔法は、中ぐらいのつららを敵に向けて放つ魔法。
メルルの魔力なら、これでゴブリンは葬れる。
彼女の支援で、無事速攻でゴブリンを倒したカトル。
その後、すぐさま御者の人に頼みにいく。
「すみません、先の休憩の場所まで飛ばせますか!?」
「お嬢ちゃんがピンチなんだな? 大丈夫だ。 二度も助けてもらったし、なんとか飛ばすよ」
「ありがとうございます」
カトルはお礼を伝えてすぐに馬車に乗り込む。
メルルは壁に寄り、尻餅をついた状態で必死に耐えていた。
「ハイヨー!!」
御者の人が掛け声を上げた瞬間、馬車はスピードを上げて走り出した。
スピードが出ているので、馬車内はそこそこ揺れる。
「メルル、耐えれるか!?」
「う、うぅ……! 振動が身体に響いて……、だ、だめ……、も、漏れる……!」
当のメルルは、必死で前を押さえて我慢していた。
だが、振動による刺激のせいか、段々と我慢ができなくなってきているようだ。
「も、もう……限界……!」
「メルル……!」
スカートが乱れてるにも構わず、身体を震わせながら必死に耐える。
限界に近くなった状況になったところで、馬車は止まった。
「休憩の場所に着いたぞー!」
「や、やっと……?」
御者の人が声を掛けてくれた。
どうやら休憩所に着いたようだ。
メルルも必死で我慢しながら着いたことに安堵する。
カトルが馬車のドアを開けると、目の前にトイレがあった。
「トイレー!! 漏れるーー!!」
メルルは一目散に馬車から降りて、前を押さえたままトイレへ向かった。
男女別の公衆トイレなので、間違う心配はないだろうが…。
カトルはひとまず様子を見続けた。
暫くして、メルルがトイレから出て来た。
「はぁ……」
「メルル……?」
「あ、カトル君。 大丈夫、間に合ったから」
「そうか……」
メルルが無事にトイレに間に合った事でカトルはホッとしたようだ。
カトルもトイレに行き、用を足して戻ってきた。
「今度から水分調整には気を付けるよ。 あのジュース、利尿作用があったみたいだし……」
「そうだよ。 今度は焦らさないでくれよ」
「うん、ちゃんとトイレに行きたい時は伝えるよ。 カトル君に気遣わせてしまったしね。 さぁ、早く乗ろう」
トイレのピンチを脱したメルルは、元気を取り戻してカトルの腕を組んだまま馬車に乗った。
そして、馬車は第二の休憩の場所から離れていった。
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