クビにされた少年と魔法使いの少女
ノベリズムで掲載している作品ですが、よろしくお願いします。
魔王によって世界の危機が訪れようとしていた剣と魔法がメインの世界【アリステラ】。
人類は女神によって選ばれた勇者に、魔王討伐を頼んだ。
だが、選ばれた勇者はあまりにも性格が悪く、悪い評判ばかり聞くとある貴族の人間だった。
女神の代行として勇者を選んだセレティア王国の国王を始め、各国は頭を悩ませた。
しかし、流石にすぐには剥奪できるわけがなく、同じく女神のお告げで枷を勇者パーティーに取り付ける。
その枷の役割を担う羽目になった少年を強くする事で聖剣を手にする資格があるからだ。
しかし、選ばれた勇者は、それに納得がいかなかった。
そのため、勇者は後に自分自身が堕ちていくきっかけとなる、とある暴挙に出たのだ。
それは、セレティア王国の首都を兼ねたセレティア城下町の宿屋で起こった。
宿屋の部屋には、二人の男性が対面しており、そのうちの一人がある内容を聞いて顔を青くしていた。
「お前はもう、俺達のパーティには不要な存在だ」
「え……? グズマさん、それって……?」
「クビだよ! お前は弱くて戦力になりゃしねぇ! 俺達天才のパーティにお前は不要なんだよ!!」
セレティア王国から勇者として選定されたグズマから、クビ宣告をされたのは剣士の少年カトル。
カトルは、セレティア王国の国王によって勇者パーティーに組み込まれたが、勇者達からは凡人扱いされていた。
強くなるために必死になって自主トレをし、結果を出しても勇者にでっちあげ扱いをされ見向きもされなかったのだ。
その結果、このクビ宣告である。
「もうお前はクビなんだから、さっさとここから出ていけ!!」
「う、うわあぁぁぁっ!!」
呆然とするカトルにいら立ちを覚えたグズマが、カトルを突き飛ばした。
しかも、グズマがいる部屋は三階である。
開きっぱなしにしていた窓から落ちていくカトル。
「よっと……!」
それを受け止めたのは、紺色基調の魔法使い用の衣装に身を包んだ銀髪ロングヘアの少女だった。
「大丈夫? カトル君」
「え……? メルル……?」
メルルという少女が、窓から落ちて来たカトルを受け止めていた。
しかも、カトルがお姫様抱っこをされるという形で。
「窓から急に君が落ちて来たんだ。 何があったの?」
「それは……」
お姫様抱っこから解放させてもらったカトルは、先ほどのクビ宣告の事とその理由をメルルに話した。
それを聞いたメルルは、怒りの表情を隠さなくなった。
「へぇ、あいつそんな事を……。 ちょっと待っててね。 話を付けてくるから」
「あ、えっと……、メルル?」
「カトル君は、私が紹介する宿屋で待っててね。 これをフロントに渡してね」
そう言って、メルルは彼女が紹介する宿屋への地図と紹介状を渡たした。
そしてすぐに、グズマが泊ってる宿の中に入っていく。
カトルは有無を言わさず、メルルが示した宿屋へと直行する。
背後で、メルルの罵声と、グズマと他のメンバーの悲鳴を聞きながら……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「メルル様からの紹介状ですね。 では、こちらの部屋に」
指定された宿は、かなり豪華な作りの宿屋だった。
メルルの言う通りにフロントに紹介状を提示したら、すぐに部屋に案内され、そこでメルルが来るのを待っていた。
「とはいえ、勇者パーティをクビにされた事に変わりはないから……、これからどうしようかな」
カトルは勇者パーティをクビになった事で今後はどうしようかと悩んでいた。
「落ち着いたら村に戻ろう。 今じゃ誰もいない廃村だけど、これ以上苦しくなるよりはずっといい」
カトルの住んでいる『ロフ村』は、現在は廃村状態になっている。
だが、家とかは残されているので、そこで余生を過ごすのもいいかなと考え始めた。
そう考えていると、メルルが部屋に入ってきた。
「お待たせ。 報告もあって少し遅くなったよ。 少しは落ち着いたかな?」
「うん、落ち着いたけど……。 報告もしたというあたりからしてもしや?」
「私も勇者パーティーを脱退したよ。 カトル君を追放したことでもう、向こうにいる義理はないしね」
メルルはあの後、勇者グズマのパーティを脱退したと告げた。
カトルを追放したあのパーティにはメルル自身も居たくはなかったようだ。
「なんで……?」
カトルは信じられなかった。
何せ、グズマ率いる勇者パーティーはカトルを除いては天才と称される者の集まりだった。
魔法使いの天才である彼女が抜け出すなどありえないと思ったからだ。
「幾ら私が天才と呼ばれようともあいつらとは馬が合わなかったからね。 私の出身国の国王に相談して勇者パーティーの脱退を進言してくれたよ」
「そうだったのか」
「でも、私だけ抜けるわけにはいかなかったよ。 カトル君がいたからね。 天才に甘えて何もしないあいつらに隠れて素振りなどの自主トレをしていたのを見ていたからね」
「え……!?」
誰も見ていないであろう時間帯と場所でひそかに素振りをしていたカトル。
それをメルルに見られていたのを初めて知った。
「声を掛けてサポートをしてあげたかったけど、その度に運悪くあいつらに見つかってしまいそれができなかったよ。それに関しては本当にごめんなさい」
「い、いや、いいよ。 まさか見ていたなんて思わなかったし。 でも、あの時なぜ僕が窓から落ちてくるのがわかったんだ?」
「私が相談している最中に、グズマと付き添いの女二人が企んでるような感じがしたからね。 嫌な予感がしたので、宿屋付近で待っていたんだよ」
「な、なるほど……。 それで、僕が落ちて来た所をすんなり受け止められたんだ」
「その際は強化魔法を使ったけどね。 流石に魔法使いの私は素だと力がないからね……」
少し、申し訳なさそうに視線をそらしながらメルルはそう言った。
だが、こういった方面で行動力があるメルルに対し、内心でうやらましいと思ってしまった。
そんなカトルに構わず、メルルは話を続ける。
「で、今後のことだけど、私の出身国に来ない?」
「え、君の出身国に?」
メルルは、カトルに自分の生まれた国に来ないかという提案をしてきた。
カトルはその提案に驚いていたが、メルルは顔を赤らめながらこう言ってきた。
「勇者パーティにいる間も頑張ってきたでしょ? 私は、そんな頑張り屋さんなキミが好きになってしまったからね。 勇者パーティーに居る間はその想いを打ち明けられる雰囲気じゃなかったし……。 せっかくの機会だからね」
「メルル……」
告白に近いメルルの理由にお互い顔を赤らめる。
しかし、せっかくの提案なので故郷が廃村状態になり帰るところの無いカトルには断る理由はなかった。
「ありがとうメルル。 その提案受け入れるよ」
「うん、そうと決まれば早速行動……と言いたいけど、今日はゆっくり休んで明日からそこへ行こう」
「そうだね。 今日は色々あり過ぎたから、お言葉に甘えて休ませてもらうよ」
「うん、お料理ももうすぐ来るからしっかり食べてね」
「ははは……」
提案を受け入れたカトルは、メルルの進言により今日はこの宿で休むことにした。
その際、メルルがカトルに添い寝をしていたことはまた別の話である。
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