悪役とは
加藤先輩が死んでからもう一か月が経った。その間町では何の問題もなく、私は悲しみに暮れること以外にやることがなかった。いや、一つある。この前引き継いだ、ヒーロー-の定義にについて。あれはとっても納得のいく定義なのだけど、一つ不思議なことがあった。加藤先輩の言っていた、『世界を敵に回すかもしれない』という部分だ。世界を敵に回す…この言葉には、謎の説得力があった。何故かは分からない。けれども、これが本当のことだということだけはわかるのだ。そもそも、世界を敵に回すこと自体難しいのに…
「シャー芯余ってる?切れたから貸してくんない?」
「乙女の部屋にはノックして入ってきてくれる?馬鹿兄貴」
こいつは私の馬鹿兄貴。名前?忌々しくて語りたくもない。
「本当にかわいくねぇなぁ。そんなんだと彼氏できねぇぞ?」
「お前には関係ない。」
そういって私は扉を閉じた。ああいうのだったら、世界を敵に回すことなんて簡単だろう。けれどあいつはなぞにもてる。憎まれっ子は世にはかばるとはこういう時に使うことわざだと思う。そんなことを考えていたら、外から悲鳴が聞こえてきた。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!」
何事だろう。私は急いで戦闘服にフォルムチェンジして、声のするほうに行った。そこでは、人が死んでいた…女性だと思う。予測でしか判断できないほど、その体は人の原形をとどめていなかった。そうして立ちすくんでいるとき、一人の人がその死体を持ち去った。恰好的に、ヒーローだと思う。けれど、あんな奴はヒーローでない。あいつの服には、死体と同じ色の血がついていた。カンストのおかげで、五感もさえわったたのだ。しかし、彼が残していた形跡はゼロだった。かなりのやりてなのだろう。何もできない無力な自分が悔しい…ついこの間、スカイを約束したばかりなのに…涙は出なかったけど、泣きたいほど悔しくなった。
しかしあれから二日、私は彼の正体を知ることになる。なんとなく、ニュース番組をつけているときだった。ヒーローが人を救った。そんな、日常のニュースしか流れておらず、退屈した私はチャンネルを変えようとした。しかし、変えられなかった。救ったヒーローの中に、例の彼がいたから。顔は一瞬しか見えなかったけれど、確かに覚えている。あの顔だ…しかし、私を驚かせるのはこのニュースだけではなかった。あの最悪なヒーローは、スカイと同等に強い、ファイヤーと言う名のヒーローだったのだ。だっさい名前。あいつの得意な超能力闇なのよ。ちなみに想像しにくいだろうから説明するけど、闇は日が昇っていないときに強い超能力。なんていうか、暗殺者向きだね。超能力は、その人の心に反映する。彼の心はきっと闇に染まっているんだろう。ヒーローなんて肩書があほらしい。社会不適合者かと疑ってしまう。こんな時、スカイがいたらすぐわかったのに…だめだめ!もう私は、スカイには頼らないんだ!きちんと、定義を受け継いだんだから!あの人のことを知らないのにぼろくそいうのはあれだと思う。けれど、先輩から受け継いだヒーローの定義からしてあいつは、敵だ。けれど皮肉なことに、あいつは世界に人気なヒーローだ。加藤先輩の言っていた『世界を敵に回す』とは、こういうことなのだろうか…正直言って、怖い。けれど、決心なんてとっくについている。加藤先輩が死んだときから。あいつが、本当の悪なのかはわからない。加藤先輩と同じ境遇かもしれない。それでも、倒さなきゃなんだ。みんなが笑って暮らせる世界にするためには、犠牲が、つきものなんだ。私は、その害悪を取り除く係。一体、どっちが悪なんだよ…