遺跡、崩落
______この世界に来て、どのくらい経ったろうか。
冒険者として戦ってきて何度か命の危機になったこともある。
別に勇者とか言われたいわけではない、
何のために戦うのか。
ヘブンズギルを・・・この魔剣を手に入れてから考えることが増えたのは事実だ。
「コバヤシ!わたしも・・・!」
「行くぞ!スラ子!」
親衛隊とやらがニイナ達の足止めをしている以上援護は期待できない。
振り向いて確認する余裕もない。
全速で前に出るしかなかった。相手は中~遠距離を得意とする武器だ。
「来い・・・!魔剣使い!」
「おおおお!」
フルンディングを構え、こちらに突きを放つ。
・・・!
すんでのところで槍を回避し、
「溶かしつくせ・・・!ディザーヴウ!!」
硫酸の塊をコバヤシは放った。
「ふん・・・!そんなもの・・・・!」
ゼパルは盾で硫酸の塊を防ぐ。
しかし、それは視界を奪うために放った攻撃だった。
盾で一瞬、ゼパルの視界がなくなる。コバヤシはその瞬間を見逃さない。
その盾は大きく強力な守りとなるが、どうしても守るとき死角が出来るのが欠点だ。
「食らえ・・・!」
ゼパルの死角をつき、懐に入る。
「・・・クッ・・・!」
盾に隠れ正面、左手側からゼパルがこちらを視認する前に魔剣による一撃をコバヤシは放ったが、角度が悪く急所には当たらない。
たまらずゼパルが後ろにバックステップし、距離を置いた。
「連なる水の槍よ・・・!放て・・・!」
スラ子がアクア・スピアをその隙に放った。
・・・良いタイミングだ・・・!
連続で放たれた水の槍をゼパルは盾で防ぐ。
「これは不利か・・・!」
コバヤシとスラ子の連携で壁際まで追いつめられ、ゼパルは思わずつぶやいた。
(人間の冒険者ごときに・・・!いや・・・?あの魔術師は魔物の気配がするな)
「ゼパル様、ここは一旦引きましょう。遺跡を崩落させ脱出すれば、何人かは殺せるかもしれません」
近くにいたダークエルフの一人が、ゼパルに助言する。既に場はゼパル側が不利なのは明らかだ。それにこの遺跡に来た目的は既にこちらは果たしている。
「うむ・・・。そうだな、先の大戦に備えているのもある、これ以上の消耗は避けるべきか」
「逃げるのか・・・?」
コバヤシがそうゼパルに問いかけると、
「ふん。ここでなくてもお前との闘いは終わらせることは出来る・・・それにそう遠い話でもない。1つ教えてやろう。これより1年以内に大戦が起こる、シャイターン様の軍門に下ることを楽しみにするがいい」
ゼパルの手元から武器が消える。
「命令だ。皆、シャイターン様の城に帰還せよ」
「ハッ!」
遺跡の支柱を破壊したのか、遺跡の崩落が始まる。
「コバヤシ・・・やばっ!逃げよう!」
「くそっ・・・!」
巻き込まれれば死ぬ・・・!既にあれ程いたダークエルフの連中は脱出用の術式があったのか姿がない。
「スラ子!ほら!」
「えっ・・・!?」
「背中に乗れ!・・・お前は走るのが遅いだろ!」
「わ、わかった!」
身体強化の魔術で走れば間に合う・・・!そこまで広い遺跡ではなかったはずだ・・!
「ここまで来てあいつら逃げやがって・・・!おい、コバヤシ!死ぬなよ・・・!」
魔術師はエリス以外、帰還の術式で脱出したようだ。既に術式を使ってしまったエリスだけは抵抗はしているが、カインに担がれている。
「最悪です・・・。またこのシュチュエーションですか・・・」
「文句は言うなよ・・・!まったく魔術師はこういうときはホントに面倒だな・・・!」
「行くよ!エリスは文句言わない!コバヤシは大丈夫なの?」
アリスの心配は嬉しいが、俺は身体強化の魔術がある。問題ない。
「大丈夫だ、そこら辺の魔術師に比べたら筋力が高いんでね」
「ハア・・・ハア・・・」
俺たちは何とか遺跡を脱出した時、遺跡はすっかり崩壊していた。・・・あぶなかった。
「あいつ・・・生きてたな」
「ああ」
カインは独り言の用に呟く。
またゼパルは襲撃するのだろうか。・・・俺を狙って、今お世話になっているギルガメッシュの城下町も・・・。
「コバヤシ、また一人で行く気か・・・!」
「そんなことは・・・ない」
カインは俺を叱るように言った。
「お前に何の因果があるかは分からないが、たまには俺たちも頼れ!俺たちも冒険者だろうが・・・!」
「済まない・・・ありがとう」
馬車がもうすぐ来る。先に脱出した魔術師達と人数確認をするとお互いに苦労をねぎらった。