女神の憂鬱(番外編)
______やめた方がいいのではなくて?
かつて彼に私が言った言葉だ。
彼は人間と恋におち、私にそれを報告した。
「お願いします。イシュタル様、俺は・・・」
「・・・本気なのね?」
「はい」
人間は基本的に天界には来ることは少ない。
天使もあまり人間には好意的ではなく、むしろ嫌っている者もいる。
「・・・わかったわ。許可しましょう」
「ありがとうございます・・・!」
功績もあるし、断るのも難しいのだが、許可をしたのは私だ。・・・そのあと何があったとしても。
「あら?スラ子じゃない?」
「わわ!イシュタル様だ・・・!」
人が賑わう市場を暇つぶしに歩いていると、見知った顔を見かけたので声をかけてみた。
今日は彼女一人だろうか。
大量のリンゴを持っているのを見たところ買い物帰りだろう。
「今日はコバヤシはいないの?」
「うん!依頼で勇者パーティでドラゴンを倒すんだって!」
「なるほどね」
こちらの世界に彼が転移して1年とちょっと、かなりの成長だと私は思う。
「・・・大丈夫かな・・・」
「心配かしら?」
「うん・・・。わたし色んな戦いを経験したけど、ドラゴンは見たこともないんだ。それに・・・危険だって・・・」
スラ子は心配そうな顔でこちらを見る。
「安心しなさい。勇者がついていれば何とかなるわ」
「・・・ありがとう!ねね!リンゴいる?」
彼女は笑顔で私にリンゴを手渡す。ホントにいい子だと思う。
・・・これは断れないわね。
「受け取っておくわね。ありがとう」
彼女は私に会釈すると、宿屋に帰っていった。
さて、
「ギルに会いに行こうかしら。もとはといえばあいつのせいでコバヤシにヘブンズギルについて話す機会がなくなったし・・・。伝えておくように釘を刺しておかなきゃ」
市場を抜けイシュタルはかの王の玉座を向けて歩いて行った。
「ほう、誰かと思えばイシュタルではないか。何か用でもあるのか?」
「ええ。コバヤシに伝えてほしいことがあるのよ」
彼は興味ぶかそうに私をみる。・・・まあこうやって話すのも久しぶりなのもあるけれど・・・。
「彼の持つ武器、ヘブンズギルの因縁となるシャイターンのことよ」
「ほうほう。貴様が話すということはかなり重要ということか、では伝えておこう」
私は神妙な面持ちで話した。
ヘブンズギルの所有者だった天使の友人がいたという事、そして殺されそうになったときシャイターンの部下がその天使を殺してしまったこと。
「わかった。長い内容だが、まあ依頼が終わったあとにでも話しておこう。・・・ところで」
「なによ」
「貴様はシャイターンを殺すのは本意ではないように思える。違うか?」
ため息をついて、私はギルガメッシュを見る。
「私も甘いのよ。女神という立場もあるというのにね」
私は皮肉を言うと、ギルガメッシュは笑った。
・・・シャイターン、あなたはいま何がしたいのかしら。生きる目的を失うのは何より辛いことよ。