潜入
カーリは意識が朦朧としていた。
何度も責め苦を受けていたが、居城を吐くことはなかった。
「あなた達人間のほうがよっぽど、悪魔じゃない・・・?」
「黙れ・・・!悪魔が人間に逆らうというのか!」
バシン!
鞭で背中を叩かれる。修正とはいえ、痛いものは痛い。
血だって出るし、泣きたくもなる。しかし、カーリは笑っていた。・・・これが人間。
「わたしが動けるようになったら途端に逃げ出す癖に、あなた達弱者は立場が変わると途端に残虐になるのね」
もう痛みにも慣れてきた。・・・終わることはないけれど。
「神官長、カーリを捕縛した冒険者が謁見に来ました」
「ふん・・・たかが冒険者ごときが邪魔をしに来たか・・・」
「・・・。」
「お前は用済みになれば処刑してやる。精々あがくがいい」
・・・期待している訳ではないけれど。
「ふうん・・・そう」
コバヤシが来てくれるような、そんな気がした。
「こんにちは。こちらは神の家・・・教会です。信仰する者の家です。あなたにも神のお恵みがあるよう」
「えっと・・・ああ。神は信じてるよ。」
どうにも胡散臭い。神官長は優しそうにみえるのだが何故か、疑ってしまう。
「その・・・前回の依頼で捕まえた悪魔なんだが・・・いまは何をしているんだ?」
「ああ。かの者はいま私たちの審判を受けています。何も心配することはありません」
審判・・・聞きなれない言葉だが、拷問はしていないようだ。
「ああ・・・それならいいのだが」
適当に言いくるめられている気もしなくもないが、そそくさと教会を返された。
ガタン、と教会の大扉を閉め。通りに出ると、
「・・・」
メイドに突然頭を下げられた。
「・・・!?」
急に視界が歪むと裏路地に転移させられた。これは・・・魔術!?
「ウェポンサモナー!」
武器を構える。こいつ、悪魔か。
距離を置こうとすると、手を掴まれた。
「お待ちください」
「・・・なんだ」
武器を持っているわけでもない。そもそも武装していないようだった。あえて攻撃しない証拠としているような・・・。
「あなたに、お願いがあります」
「悪魔が、人間にお願い・・・?一体なんだ」
「あなたを付けさせて頂きました。何故、あなたはこの教会に?」
「カーリ、と言ったか。少し処遇が気になっただけだ」
驚いたようにメイドはこちらを見る。・・・そんなに変なこと言ったか・・・?
「あなたは、悪魔が審判されていると聞いて心配になった。と・・・?」
「心配するほどではないが拷問と彼女は言っていたからな。もし本当にそうだったら少し可哀そうだと思っただけだ」
「彼らは彼女を拷問し、情報を吐いたら殺す予定です」
・・・!
さすがに、少し言葉をためらった。殺される・・・見た目は少女程だが確かに彼女は悪魔だ。それは当然の帰結であろうとは思う。
処刑されると、いうのか・・・。
「何故あなたを付けたのかは経歴を見たからです。魔物とパーティを組み。何人も人を殺し、人殺しと呼ばれたことも」
「別にそれは・・・」
「誤解、ですよね?それは私たち悪魔も同じことです」
言葉を先回りされた。誤解か、確かに悪魔全員が虐殺を楽しむ外道だとは限らない。
しかし・・・。
「今夜彼女の部屋の警備が一度だけ、手薄になります」
「・・・」
「助けてあげて欲しいのです。もちろん報酬はありません。ただ正体はバレません」
「・・・わかった。」
「おお・・・!いいのですか?あなたは悪魔に手を貸す、と?」
「まだ少女だ。殺すのを見過ごすのはためらわれる。それに・・・」
コバヤシは目を見て言った。
「あいつらは胡散臭い、神の名を語っているのにどうにも、な」
コバヤシは手を差し出す。
「助けよう、ただし彼女にもう二度と俺に近寄らせるな」