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ウェポンサモナーとスラ子の冒険  作者: どれいく
コバヤシと言う冒険者~1章
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賢者の策謀

夢をみた。何度も誰かを殺す夢。

「わたしを手にした者は、願いを叶えられ破滅してきた」

謎の声は続ける。

「お前の願いは叶えられる。果たしてお前はどんな最後を迎えるのか・・・楽しみだな」

どこか悲しんでいるような、期待しているようなそんな声だった。

俺はこの世界に来るまで夢も希望もなかった。だからいますぐ願いだなんて言われても実感がない。

_____どのくらい夢を見ていたのか、

「頭痛いな・・・」

なんだか最近変な夢を見る。

あの魔剣・・・ヘブンズギルを読み取ってからだ。しかも、

検索開始、魔剣ヘブンズギル。

「ウェポンサモナー・・・痛っ」

バチィン!

見たこともない反応だ。武器召喚を拒絶されるような・・・。

武器のイメージはもう固められているはず。

それどころか他の武器も召喚できなくなっていた。このままでは冒険ギルドの依頼にも影響がでるだろう。

ガチャッ。

「やあやあどうかな?僕の屋敷の住み心地は」

「落ち着かない」

コバヤシはいまは使われていない使用人の部屋で寝泊まりしていた。しかし広い。

拠点にしている宿は8畳くらいの広さだ。ここは二倍の16畳くらい。

「マリーン、相談があるんだが」

「僕に相談なんて珍しいね!なにかな?」

「じつは魔剣が召喚できない、というか武器召喚自体が使えないんだ」

「うーん。もしイメージも固められているならそれは魔剣自体に理由があるかもしれないね」

魔剣、ヘブンズギルは願いを叶え、破滅させてその魂を喰らうという。呪われた剣だ。

他にどんなデメリットがあるかも分からない。

「仕方ない。僕の杖の1つを貸してあげよう。高いからそれなりに気を付けるんだよ」

今日はラートルフ家に招待されている。手紙を送ってきたのはキルトだ。最近は態度が大分軟化したと思う。

「そういえば、作戦はうまくいってる感じだね。友人にはなれそうかい?」

「友人になれるかはわからないが、態度は大分軟化したな」

コバヤシとしては意外ではあった。最近は簡単な依頼を頼んでくるくらいの仲くらいにはなっている。そういえば・・・この前会った時は何か様子が変だったな。

(もし、自分の両親が手段を問わず、そのせいで間違いを犯しているのを知ったら君ならどうする?)

彼の独り言のような言葉を思い出す・・・キルトは悩んでいるのかもしれない。







マリーンの工房に着くと杖を渡された。杖は(ワンド)とも呼ばれている。意思、という意味だ。

杖は個人によって違うがマリーンの家系は代々オルダーの木を使って作っている。

杖は基本的に魔術師自身で作成する。(ウィッチクラフト)と呼ばれる、何時間もかかる魔術的な作業だ。

「すまない、マリーン。1本作るだけでも大変だろう、貸してくれてありがとう」

「うわっ・・・!コバヤシ君どうしたんだい。気持ち悪いな!」

「くっ・・・」

ひどい反応だ。これだからこいつは気に入らない。

「さて、では・・・そろそろ彼の悩みを解消させてあげよう!キルト君をあの性根が悪いライス卿から解放してあげなければ、あまりにかわいそうだ」








ラートルフ家に行くとメイドが門越しに招待状を要求してくる。中身を確認すると、あっさり中に入れてくれた。

「マリーン様とコバヤシ様どうぞ。こちらへ」

「どうもどうも!」

ラートルフ家の暗い廊下を進み、階段を上がる。何度来ても慣れない。侵入者を防ぐ結界に、人の気配が感じられないほどに不気味に静まり返った部屋。

「ライス殿はいるかな?」

「ラートルフ様は出かけております」

このタイミングでキルトが招待してきたということは何か理由があるのだろう。

_____何もなければいいが。嫌な予感がした。







コンコンコン。

「招待ありがとう!マリーンおじさんだよ」

「・・・来てくれてありがとうございます。マリーンさん」

「どうも!何か浮かない顔をしているね」

キルトが少しいつもと雰囲気が違う。何かを覚悟したような顔をしている。

「マリーンさんに渡したいものがあります。ラートルフ家の重要書類です」

ふむ・・・とマリーンは渡された書類に目を通す。これは・・・!

紛れもない不正の証拠だった。これまでに犯した買収、暗殺、謀略。これでマリーンの持つ不正の情報の正当性が明らかになる。あとはキルトがこの不正に関わっていないのも証明できる。

「マリーン、俺を潜入させたのはこの為か」

「そうだね。今まで僕が持っていた証拠だけだとキルト君がこの不正に関わっていないことが証明できなくてラートルフ家事態が潰れてしまう」

それは可哀そうだし、ラートルフ家の魔術を絶やすのはもったいないからね。とマリーンは笑う。

「・・・!」

「キルト、我が息子よ」

突然、書類が崩れるように朽ち果て、黒く変色していく。頭に響くような声。これは・・・ラートルフの当主の声か。

「父上・・・気づいていらっしゃったのですね」

こうなるのを知っていたかのようにキルトは悲しそうな顔をした。

「長く継承されてきたラートルフ家の歴史に傷をつけるつもりか。キルトよ」

「父上・・・」

思わず言葉に詰まる。不正を明らかにすれば確かにラートルフ家の歴史に傷がつくかもしれない。

しかしこのまま隠し続けるのはキルトは嫌だったはずだ。

「ライス殿、マリーン家としてラートルフ家の歴史に傷をつけるのは本望ではない。しかしキルト君はそれも覚悟で私たちを招待したはず」

「その覚悟を恐怖で押さえつけるのは良いとは言えないね」

珍しくマリーンがまじめな口調で怒気を込める。

「まあ、よい。どちらにしろお前たちはここで死ぬ。玄関からはもう出れぬよ」

おそらくいま俺たちは侵入者扱いだ。窓を割って外に出れば・・・魔獣の餌になるだけか。

となると出口は1つ、厳重に結界が張られた正面玄関だけだ。







「廊下には何もないのか・・・?」

そこら中に仕掛けがあると思ったが出れない、というだけで下の階へ向かう3人に発動するような魔術の仕掛けはとくになかった。一応正面玄関にも行ってみたが、無駄だった。

「ディスペルも効かないか。これはライス殿本人に聞かないとわからないなあ」

「マリーンさん。父上は地下にいます。そこが父上の工房です」

「性格だねえ・・・僕は陰気な工房は嫌いなんだ」

マリーンは相変わらず軽い。まるでこうなることが分かっていたような。

「キルト君の話は聞いていたからね。準備はしてきたよ」

一階まで階段を下りていくと食事をするような、8畳ほどの長いテーブルのある部屋に入る。銀の皿が並び、ろうそくが置かれ暖炉には黒いヤギの頭のはく製が飾られている。

魔術師の名家、というイメージそのままの食事風景が浮かぶ配置だ。

キルトは暖炉の中に手を入れるとゴッ、と何かを動かしすぐにその場を離れる。

すると床の一部が動き地下への石の階段が姿を現した。

「この下が父上の工房です。屋敷の中とは違って空間を魔術で広げてあり、かなり広いです。魔術師も何人かいるはずです」

マリーンは杖を取り出し、詠唱する。

「術式展開。沈黙せよ、サイレス」

魔法陣が展開される。そしてカン!と床を杖で叩く。

するとまるで拡散されるように魔力が空間に広がっていく。

「どのくらい空間があるかは分からないけどこれで大分敵も困るはずだよ」

かなりの広範囲の沈黙魔法サイレスだ。きちんと魔術を使うマリーンを初めてみたが賢者の称号は伊達ではない。

「では行こうか!」





まるで冒険者みたいなテンションでマリーンは階段を下りていく。

「久々の魔術戦になりそうだね」



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