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ウェポンサモナーとスラ子の冒険  作者: どれいく
コバヤシと言う冒険者~1章
16/115

スラ子の日常

わたしはスラ子。スライムの女の子。

「今回の依頼は俺一人じゃないといけない、お前はここでおとなしく過ごしててくれ。カネは置いておく」

なーんて言われたけどそんなことは守る気はない。

魔獣の母体を倒してからは私もししょーも一目置かれるようになった。それに簡単な依頼ならわたし一人でもいけるかも!

そんなことを考えながらギルドの扉を開けると、聞きなれた声がスラ子を呼び止める。

「お!スラ子ね。元気?」

「元気だよ!ニナも元気そうだね!」

「あいつは元気なの?えーと・・・」

ニナは名前をド忘れしてしまったらしい。でもここで名前はあまり出さないでほしいとお願いされているのでそっと耳元で言う。

(コバヤシだよ)

「そうそう!あいつよ!」

「元気だよ。体が治ったらすぐ次の依頼に行っちゃった」

「あなたは置いて行かれたの?同じパーティよね?」

「今回は1人じゃないとダメなんだって。詳しいことはわからないけど・・・」

すこし彼女は寂しそうだった。ニナは思わず声をかけてしまった。

「いまから私たちのパーティでゴブリン討伐にいくのよ。よかったらいかない?」

ゴブリン退治の依頼なんて、誘ったら迷惑ではないだろうか。なにしろギルドの新人冒険者が受けるような依頼だ。上級クラスの私たちが受けるものではないし、彼女は新人ではない。

「うん!行きたい!でも・・・」

コバヤシには秘密だと彼女は言った。余計な心配はかけたくないのだろう。しかし、私たちのパーティなら問題ない。

「とりあえず、皆と合流しましょう。あなたなら大歓迎よ!」






「おお。あの時は世話になったな。スラ子」

サーウェスは親しげに声をかける。一度とはいえ強力な魔獣を一緒に打倒した仲だ。

「うん!ところでなんでゴブリン退治なの?みんなすごく強いのに!」

「私たちがお世話になった村だからですよ。過去に助けて貰ったんです」

経験もない新人だったころ、無茶な依頼を受けて武器も食料も戦闘で失い死にかけた時。ある村に救われたのだ。ティトル、という村だった。

傷が癒えるまで身の回りの世話をしてくれ、いまでもすごく感謝しているのだという。

「いまその村がゴブリンの被害で困っているの。食料も奪われて迷惑してるって」

ゴブリンとは緑の肌、貧相な体、そして人並みの知能を持つ人とそう変わらない雑食性の怪物だ。

5,6体の群れで行動し、冒険者から奪った武器を持っていることが多い。

「1人手が増えればそれだけ楽になる。報酬もしっかり分けるので安心してほしい」

ほんとにいい人達だね!とスラ子は思う。昔は人は私にとっては恐ろしい存在だったから、でも。

(魔物だってわかったら嫌われちゃうのかな・・・)

私がたまたま、人語を話すタイプの魔物だったけど、ゴブリンだったら殺されちゃうんだろうな。

「どうしたの?スラ子」

ニナが心配そうに覗き込んでくる。

「あ・・・ううん。なんでもないよ」

「さて、準備ができたら依頼の村へいこう。時間は掛けたくない」

スラ子は冒険者なら必須の基本装備を付けていない。解毒薬や痛み止めになるスタミナポーション、キャンプグッズなどだ。

普段から持ってないけど、いい機会だしどうせならギルドで買っちゃおうかな。

「ちょっと待って!すぐ戻るから!」

・・・楽しみだなあ!スラ子はワクワクした。







フンフーン♪パーティですこし遠出する。見たことのない景色をみたり、ワクワクするような冒険の話をきいたり話してるだけでも楽しい。

目的地に向かう途中の揺れる馬車の中、思う。

(こういうのもたのしいんだね・・・コバヤシも居ればよかったのに)

「つきましたよ。皆さん」

馬車が動きを止める。どうやら村についたようだ。

馬車の荷台を降りると、村人から歓迎される。

「サーウェスさん!いらっしゃい!」

「ニナお姉ちゃん!サーニャお姉ちゃん!」

人懐っこそうに少女が二人に抱き着く。

「こらこら・・・迷惑かけてすいません」

気の良さそうな村人たち、わたしはあわててフードを深く被りなおす。

・・・バレたら迷惑かけちゃうし。わたしは魔物だ。

「あなたは・・・?新しいパーティの方ですか?」

「う・・・うん!そんな感じ!」

慌てて取り繕う。大丈夫かな・・・。

「ん・・・?」

「どうしました?ニナさん」

「いや、なんでもないわ」

「村長・・・被害はどんな感じだ?」

サーウェスは村人達を落ち着かせると村長らしき人に声をかけた。

被害状況が知りたい。

「すでに食料備蓄は3分の一ほど奪われています。これ以上は厳しいですな・・・」

おもったより状況は深刻だ。あと二か月もすれば冬になる、ただでさえ作物を国に納めなければならないのだ。このままだと備蓄が足りなくなる。

「絶対助けなきゃ。苦労して作った作物を狙うなんて許せない!」

わたしも魔物だ。生きるためにほかの弱い生き物から食料を奪うしかない気持ちもわかる。でも・・・

(いまは人間と仲良くしたいと思えるから)

「ありがとう。お姉ちゃん、名前はなんていうの?」

さっきの少女だ。わたしの手を握ろうとしている。

「スラ子っていうの。あなたの村、絶対に守るから待っててね」

ぎゅっと彼女の手を握った。とても暖かった。







ポン・レヴック。この街道はそういわれている。

凶暴な魔物もあまり報告されることはないがだからといって油断はできない。

「何度か来てるということは、小規模とはいえ巣を作っている可能性がある」

いや、と言い換える。巣というか・・・集落か。

ゴブリンは昔から存在する魔物でアヌール文字という未知の言語を使っている。時々人の言葉を話す個体もいるらしいが。

事前にティトル周辺の地図を猟師から受け取っている。

「いまから作戦を説明する」

集落の目星はついている。すでにニナに偵察をさせていたし、準備は万端だ。集落の外観は木の杭で覆われて入り口は1つしかない。粗末な小屋がいくつか並んでいる。

ゴブリンの数は8匹ほど、集落は街道を少し外れた森の中にある。集落の長はシャーマンだ。ゴブリンシャーマン、魔術を行使できる珍しい魔物。

「さすがに一度に7匹ものゴブリンとシャーマンを相手にするのは難しい」

ゴブリンは夜行性ではない。夜になればしっかり眠るのだ。

だからこそ、夜を狙うのも手なのだが。

「我々のパーティで夜目が効くのはニナだけだ。だから昼頃に襲撃する」

「食後を狙うってことね」

どんな生き物も食後の動きは鈍くなる。見張りがうたた寝する可能性も上がる。

「ニナと私が見張りを仕留め、やつらの倉庫に火をつける。そしてパニックになった連中をパーティ総出で仕留める。その時になったらスラ子も自由に戦ってもらってかまわない」

「サーニャはゴブリンシャーマンの詠唱をできないよう、サイレスの奇跡を頼む」

サーニャは無言で頷いた。そろそろ集落も近い。

指示された通り、私たちは草むらに隠れる。

(たのむぞ、ニナ)

(任せて)

手信号で会話しながら二人は2匹のゴブリンが守る集落の入口を隠れながら観察する。

幸いここには隠れる場所がたくさんある。

「・・・クアー」

ゴブリンはあくびをしている。注意力はほとんどないようだ。

(チャンスね)

(いくぞ)

ニナが弓を放ち、サーウェスは物陰から飛び出した。ニナの弓が1匹のゴブリンの頭を射抜き、サーウェスは暗殺者のごとく走り2匹目のゴブリンの心臓を貫く。

「カっ・・・」

一言も発せないままゴブリンは絶命した。

さらに奥に進み、小屋の屋根に隠れそっとニナはシャーマンの様子をうかがう。集落の中央、少し開けた場所に人骨で作られた玉座?がある。

「趣味が悪いわね。ほんと」

サーウェスは食料がありそうな小屋に回り込み、

「ウ・・?」

ボンヤリ用を足していたゴブリンに気づかれる前に剣を突き立てる。声を出さずに仕留め、そのまま物陰に死体を隠す。

「ここは・・・当たりだな」

小屋の中に入るとちょうど燃えやすいわらが積んである。寝床ってとこか。

火打石で火をつけるとすぐに燃え上がった。

「よし」

火が燃え広がり、煙が立ち上る。サーウェスは口元を布でふさいでからしゃがみ、移動する。

(向こうはうまくいったみたいね)

手信号でサーニャに状況を伝えると、ニナは屋根からそっと降りる。

「_____!____!!」

ゴブリンは突然の火災に驚いているようだった。

「行きます!スラ子さんフォローお願いします!」

「うん!」

「ニンゲン、コロス!」

シャーマンは玉座を破壊し、怒り狂っている。持っている杖を大きく振りかざすと、魔法陣が展開される。

「ディバイエフ・・・エアレ・・・」

「詠唱だ!サーニャまだか!」

「神の奇跡よ。沈黙を与えたまえ。サイレス!」

「・・!グ・・・ガ・・・」

沈黙の状態異常が成功する。その瞬間。

「ギャギャギャ!」

物陰からゴブリンが飛びだす。ニナもサーウェスも意図しない方向から手斧を放る。

空を切り、サーニャに向かって凶器が飛んでいく。

・・・あぶない!

「え・・・」

とっさにスラ子はサーニャの盾になっていた。斧が背中に刺さっている。

「痛ったあ・・・」

背中に刺さった斧をスライムの体を器用に使って外す。少し痛かったが、それだけだ。

「大丈夫ですか!?」

「大丈夫。痛いだけだから・・・」

・・・許さない!スラ子は逃げ出そうとするゴブリンに一撃を見舞う。

「ギャッ!」

スラ子が腕を槍のように伸ばし、頭を貫く。

「そこっ!」

一瞬、冷静さを失ったがゴブリンシャーマンの頭を射抜く。

数匹逃げてしまったが皆、それどころではなかった。

彼女の背中に斧が刺さったのだ。

「大丈夫!?血は出てない!?」

「いそいで治療を。一度村に戻ろう」

スラ子は黙って下を向いている。背中は痛くない。これくらい平気だ。

「・・・待って」

勇気をだして、スラ子は言った。

_____わたしはスライムなんだ。







「ありがとうございます。これでなんとか今年も何とかなりそうです」

「ありがとう!お姉ちゃん!」

無事に依頼を終え、別れの挨拶をする。

すこし引け目を感じるけど、スラ子もいた。

みんなが頑張ったからこの村は救われたのよ?とニナは笑う。

別れを終え馬車にパーティは乗り込んだ。

「・・・皆、感謝してたわね。これでしばらくはあの村も安泰でしょ」

「ごめんね。わたし隠してた。ほんとは魔術師でもないんだ」

スラ子は謝罪する。ギルドではアリス以外にずっと隠してきた事だった。

何と言ったらわからない。

魔物なのだ。

「スラ子。あなたは私たちのこと、嫌い?」

そんなわけはない。とても良いパーティだとおもう。

「あなたは私を守ってくれました。驚きましたが、魔物にも心があると思います。あなたが守ってくれなければ・・・今回一緒に来てくれなかったら運命に殺されていました」

「スラ子。君はとてもいい子だ。これからも何かがあったらパーティを組もう。・・・君がよければだが」

「ありがとう!やさしくされると泣いちゃうね」

スラ子は笑顔でフードを外して顔を上げた。





本当に嬉しかった。心が温かかった。









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