終幕
魔剣と魔剣が激しく接触する。
持てる力でシャイターンにコバヤシは打ち合った。
「はああああ!」
シャイターンは今、慢心している。
つまりチャンスはその1つにかかっている。
もし本気で切り殺すつもりなら今すぐに俺は死んでいるはずだ。
満身でヘブンズギルを振るう。
正直な話、生き残れる気がしないのが感想だった。
相手からしたらこちらはそれこそ羽虫を払うような感覚だろう。
「・・・コバヤシ」
「なんだ?」
ヘブンズギルが俺に話かけてきた。
「酷く消耗するが、奥の手がある」
「・・・なんで今のタイミングで言うんだよ」
含みのある言い方だ。
まるでためらっているようだった。
「これをやれば、お前は助からない。それでもやるのなら・・・止めることはない」
・・・それしかないのだろうか。
「魔剣である私と魂の接続のやり方は分かっているな?その応用みたいなものだ」
要するにそれはビームみたいなものらしい。
持てる魔力を収束し、解き放つ。
これをもろに食らえば如何にシャイターンといえど、無事では済まない、と言った。
「それしかないのなら、やろう」
「分かった」
覚悟を決め、魔剣を持ち。
「シャイターン・・・!!」
魔力を収束する。
「ふん・・・。死ぬつもりらしいな。そんなものを放てばお前の魔力は無くなる」
「全滅するよりはいい・・・!」
「ならばこちらも見せてやろう。答えよ・・・ズルフィカールよ」
お互いの魔剣は魔力を帯び、紫に光沢を放った。
「くらえ!!」
お互いの魔剣から放たれた魔力のぶつかり合いで広間が揺れる。
いまや勇者パーティもスラ子も見ている事しか出来なかった。
「コバヤシ・・・!頑張って・・・!」
スラ子は心配そうにコバヤシを見守る。
衝撃がひとしきり収まると魔力の白光が収まっていく。
視界がクリアになる。
致命傷を受けていたのは、シャイターンだった。
霊核は辛うじて避けれていたがそれでも、致命傷だ。
「くっ・・・ガハッ・・・」
「ハアハア・・・」
一方コバヤシは生命に支障が在るほど魔力切れを起こしていた。
「まだ・・・だ・・・」
コバヤシは死人のような足並みで魔剣をひきづるように歩く。
「貴様・・・!ハアハア・・・!」
それはゆっくりとした歩きだったが少しづつシャイターンに迫る。
シャイターンは動けない。
剣を振り下ろそうとしたところだった。
「やめて!」
「カーリ・・・か。ゴホッゴホッ・・・!」
ガラン、とヘブンズギルを落としてしまった。
「お父様・・・もう止めてください。こんな戦い間違っています。どれだけ人間の魂を集めてもお母さまは帰って・・・こないよ・・・」
「カーリ・・・。私は・・・」
「コバヤシ・・・!ねえっ!コバヤシ!」
「あ・・・」
皆が駆け寄ってくる。
上手く周りが見えない。
視界は何処か曖昧で眠りにつく前のような感覚だ。
「あ・・・」
上手く話せない。
でも。
「聞いてくれ。俺の・・・下の名は・・・名前はコバヤシシュウって言うんだ。覚えて・・・おいてほしい」
「お願い・・・死なないで・・・!」
スラ子は涙を流した・・・のだろうか。
悲しそうな顔をしているのだろうか。
勇者パーティも必死に俺に呼び掛けている。
「・・・コバヤシ君、最後に伝えることはあるかい?」
「大丈夫、だ」
意識を手放そうとした時だった。
思わぬ声がした。
「・・・ゴホッ・・・。そのスライムはアダマイト魔石を持っている。その質と大きさなら息を吹き返す事もできるだろう」
「・・・どうしたんだい?シャイターン」
「今回は貸しだ。・・・この戦争は我々の負けだ」
シャイターンはあの時のメイドとカーリに抱えられて姿を消した。