失敗
_____チャンスはその一度だけだった。
魔王がコバヤシと口を利く瞬間、注意が逸れた・・・・と思った。
ただ。
マリーンはその時油断したのか、ヘマをした。
・・・いや、または偶然なのかもしれない。
完璧に死角をつき攻撃を繰り出したはずが避けられた。
「なっ・・・!?」
「久しぶりだな、マリファス・・・まさか人間に転生していたとはな。イヴから報告がなければ致命傷になりかねなかった」
「くっ・・・!ごめんねコバヤシ君、僕が甘かったみたいだ」
咄嗟にマリーンはシャイターンと距離を取る。
この状況で俺は思った。
俺が囮になり、退却する。
・・・それしかない。
そのくらいの魔力はある。
「皆、一度退却しよう」
「わっ!コバヤシは!?」
「大丈夫だ此処をしのぐくらいの魔力はある」
皆が退散出来たらスクロールで帰還する。
そういった。
「嘘!」
ニナは俺を見るとそう強く言った。
「俺は嘘はつかない性分でね」
それに。コバヤシはまっすぐにニナを見ると
「優先順位くらいわかるはずだ。お前のほうがこの場合戦力的に今後必要になる」
そういい聞かせるように口に出した。
「頼む、全滅したらこの世界はおしまいだ」
「話は終わったか?」
シャイターンは殺気を俺に向ける。
「ああ」
命を懸けるには十分な理由だ。いままで何のために戦ってきたか分からなかったが、今は分かる。
「マリーン、お前も逃げてくれ」
命を失うほどの魔力の消耗を覚悟した。
・・・いや。
確実に魔力は尽きるだろう。
ただ、それほどの価値はこの時間稼ぎにはある。
次の策はきっとギルガメッシュ王が考えるはずだ。
「はああああ!」
魔力の放出量を限界まで上げる。
「いくぞ!」
剣戟とそれに伴う魔力の放出で空気が揺れる。
お互いまともに攻撃を食らえば死ぬ。
コバヤシは食らえばもちろん死ぬが、シャイターンも魔剣で霊核を貫かれれば同じように死ぬ。
しかし状況はフェアではない、拮抗できる時間は限られている。
「私たちはあなたを置いて逃げるなんてできない!」
ニナはコバヤシに怒った。
いや、その場にいた全員がそう思っていた。
「はっ・・・!まったく皆とことんお人よしだな」
「君ほどではないさ」
マリーンは皮肉っぽく笑う。
____昔を思い出す。かつて天界でシャイターンと戦った時。
あの時はコバヤシと同じことをして・・・天使としてのマリファスは死んだ。
今はパーティがいる。
同じ失敗をコバヤシにしてほしくない。
「それに言っただろう?ピンチになってもあきらめないでってね」
確かにマリーン天使の力を使い果たしているが、魔力は残っている。
「悪かった」
・・・それにね。とマリーンは懐からポーションを取り出す。
「この薬・・・エリクサーがあればこの場にいる人、全員の魔力を全快させるくらいの事は出来る。まあ一つしかないからあんまり使いたくなかったんだけど」
そういうとエリクサーを振りまいた。
「それがどうした?勇者の力は減衰し、我とまともにやりあえるのはそこの魔剣使いのみ。状況は変わらないということが分からないのか」
シャイターンは術式を発動し、数の減ったデビルアーマーを再び召喚する。
「「シャイターン・・・!俺は皆を信じる・・・!俺は負けない、ようやくわかったんだ。俺が戦う理由。それは期待を裏切らないため、譲れないものがあるからなんだ。お前はそれを忘れている。憎しみに飲まれたお前は俺には勝てない・・・!」」
「くだらないな・・・!消えろ魔剣使い・・・!」
____この一撃にすべてを駆ける。