賢者の作戦
「転移術式。起動せよ。着地地点、計算」
マリーンは大規模な術式をくみ上げていた。
ここまでの距離を移動するのは正直、大変だった。
しかも持っていけるアイテムには限りがある。そうでないと重量制限で移動できないのだ。
「これだけは、もっていかないとね」
懐に忍ばせたのはヘブンズギルのレプリカだ。
コバヤシ君が持っている本体は僕が天使時代に昔、作ったものだ。
「うまくいけばいいのだけどね。僕の未来視をもってしてもどちらが勝つかはわからない」
そういうとマリーンは移動術式を起動した。
術式が発動し、視界は真っ白になった。
「はああああ!」
「くっ・・・!」
ゼパルはこれまでにない気迫で槍を振るってくる。
紙一重でコバヤシは突きをかわし、剣で受け、流す。
お互いに、隙を狙い致命傷になる瞬間を狙っている。
あの槍の全力は少なくとも二人分の距離感が必要になってくる。
ただこちらも接近しなければならないので今のまま戦い続ければダメージを与えることは難しい。
「どうした?攻めあぐねているようだが・・・」
コバヤシは嫌な予感がした。この余裕はどこから来るのか・・・。
ただただ何度も激しく武器の接触音が鳴っている。
何故か不安が襲い、コバヤシは動きの精細さを失ってきていた。
「このまま続けていても埒が明かない。俺を突破したければ」
「なんだ」
「命を懸けろ、と言っている・・・!」
ゼパルは何故かはわからないが苛立っているようだった。
「シャイターン様は俺よりも強いが、それは別の話だ。俺も騎士だ。相対しているなら・・・全力で向かってこい!後のことなど考えるな・・・!」
_____そういうことか。
繰り返すようだが、お互い時間はない。しかもゼパルは俺が与えた傷のことは考えてはいないようだ。
それならせめてこの決闘に答えるしかあるまい、と思った。
「はああああ!」
______ヘブンズギル・・・!答えてくれ・・・!
(この後が控えているのを無視してこの魔力を使う気か?)
(そうでなければこいつは突破できない・・・!やるしかない!)
ヘブンズギルには申し訳ないが余力を残す余裕はない。
「この一撃に・・・懸ける・・・!」
「こい!魔剣使い・・・!」
ゼパルは槍を構え、
「フルンディング・・・!その力を以って、貫き、破壊する・・・!」
ここだ!
こいつに勝つには剣で受けるのではなく、
「怯むことを考えると・・・!」
避けるしか、ない・・・!
「・・・!?」
その選択肢はゼパルにとっては予想外だったようだ。
顔にわずかな擦り傷を残し、避け切った・・・!
「いけええええ!」
「・・・!」
今度はこちらの番だ。
ゼパルの心臓、核をヘブンズギルで貫く。
「グフッ・・・やる、な・・・」
ゼパルは笑いながら言った。
「玉座で王は待っている。その余力でどの程度戦えるのか・・・楽しみだ、な・・・」
ゼパルはそれだけを呟くと崩れ落ちた。