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土竜族の都市には、工芸品らしきもののお店が多い。
そのことに気づいてライナスさんに問いかけると、土竜族は手先が器用で工芸に特化しているのだと教えてくれた。
籐の籠のお店や陶器の並んだ店、ガラスの作品のお店まである。
あとは木工のお店には椅子や家具や、子どもの玩具まで並んでいた。
ほかには生活用品のお店や、八百屋に肉などの商店もあり、地下にあるだけで少し昔の日本の商店街みたいな雰囲気がある。
長閑で、でも活気もあって良い雰囲気だ。
私はガラス工芸品のお店でついつい視線が止まってしまう。
「なにか気になるものがあるのかい?」
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そんなライナスさんの問いかけに私はお店に並べられている綺麗な形の瓶を見つめて聞いた。
「あの、綺麗な色と形の瓶は何に使うんですか?」
私の示した先を見て、ライナスさんは教えてくれる。
「あぁ、あれは香水の瓶だね。調香師にお願いして大抵は花の香りと番の香りを混ぜた香水を作ってもらって自分の好きな瓶に詰めてもらうんだよ」
へぇ、自分の好きな香りで香水を作ってくれるところがあるのね。
でも、番の匂いってどういうこと?
「獣人族の男はね、自分の番に自分以外の匂いが着くのは嫌がるから。だから、番が香水に興味を持ったら瓶を選ばせて、自分の香りと混ぜて納得できる匂いの香水を番にプレゼントするんだ」
そんな習慣があるのね。
元の世界だと、大体自分の好きな香りで選んでいたなぁ。
あんまり使うことは無かったけれど……。
自分で楽しむためって用途だったから、プレゼントされるのは少し面白そう。
自分の香りを纏わせるって、やっぱり番への気持ちが強いんだな、ここの人たちは。
「奈々実はどの瓶が気に入ったの?」
ライナスさんが私に聞くので、私は水色に瓶の蓋が蓮の花の形のものを示す。
「あぁ、この色が好きなんだね。奈々実、香水を作るのはうちの蛇族が多いんだ。瓶を買って帰って頼みに行こう」
微笑んでライナスさんは言うと、私が気に入った瓶を買ってくれた。
「ありがとう」
香水はどんな香りになるのだろう、少し気になるけれど楽しみにしようとこの日はほかに土竜族の都市にしかないお菓子なども買って蛇族の都市になる崖の上へと帰った。
帰りは登りなので、大丈夫だろうと思っていたが途中から下を見てはいけないことに気づき、やっぱり大変疲れてしまったのだった。
それでも、お出かけ出来た私は大変満足したのだがその後、なかなか蛇族の崖から出ることが叶わなくなるとは思ってもいなかったのだった。