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勇者は聖女の夢を見る  作者: 茲
1章 王宮スローライフ
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6、礼儀作法教室

教室とは

 少しごたごたした朝、僕は今、部屋で朝食を食べていた。というのも、今は礼儀作法がなっていないだろうと言うことで特別に部屋に持ってきてくれたのだ。

 僕は典型的なニートだったため、食生活が毎日三食ほとんどポテチという乱れまくりな毎日だった。けど、宮廷の食事は結構綺麗で(いや、まあ当然なんだけど)、フォークとナイフを相手に苦戦することになった。礼儀作法が少々なってないのは出来れば見逃してほしい。

 …なんか、じわじわ罪悪感が感じられるんだけど。本当、すんません。頑張って覚えますので。だからメイドさん、そんな常識がなってない人を見るような目で見ないでください。

「…こんなニート、家来になれる訳ないだろ」

ちょ?!き、聞こえて…あ、わざとですか。それはそれは、傷付きました。

 メイドさんが部屋から出ていかれると、僕は女王様に聞いてみた。

「僕、貴族──家来貴族になって良かったんですかね」

「……まあ、そういう事もあるさ」

「今の間、なんですか」

女王様は僕の問いかけを無視し、押し黙っていた。…なんなの、この静寂。

「…ああ、そう言えば今日、カシに礼儀作法を叩き込む予定だったな。喜べ、カシ」

「喜べって言われても、棒読みで言われると全然喜べないんですけど」

「…………」

「…………」

「…すまん」

「アルラ様が謝らなくていいです。…悪いのは、礼儀作法がなってない僕ですから」

女王様は僕を見つめると、ふっと笑い、

「まあ、カシなら直ぐ慣れるだろう」

と言った。

「そうですかね…」

「ああ…っと、そろそろカシの家庭教が来るな」

「家庭教?!」

コンコン。僕が叫んだ瞬間、僕の部屋のドアからノックをする音が聞こえた。

「…失礼します」

ま、まさかとは思うが…カテキョ…?このタイミングで…?早すぎない…?…いや、これが普通か。デスヨネ。

「おう、入っていいぞ」

 部屋に入ってきたのは、執事のようなタキシードに身を包んだ…トラウマの会場で会った、髪ボサイケメンだった。いやー、世界は狭いねぇ。

 …それにしても、嫌な予感がするのは気のせいかな?

「それでは、早速始めさせてもよろしいでしょうか」

「うむ。私はもう戻るからな、一日で覚えろよ」

「?!」

女王様はそう言い残し、行ってしまった。嫌な予感、当たってしまった。…なんでいつも、女王様は行ってしまうのだろう。そして、なんでいつも、無理難題を吹っ掛けてくるのだろう。無理でしょ、一日って。髪ボサイケメン、どうかちゃんとじっくり教えてください。ほんとに。

「あー…どうも、今日から──いや、今日で終わらせるからいっか」

「?!」

こっちもこっちでノリノリなんすけど。なんでや。

「あー、とにかく、勇者サマのカテキョをするリズド・マレルドともーします」

そう言い、そのぼさっとした髪を掻く髪ボサイケメン改め、リズドさん。…えっ。…リズドさん。もしや、もしやですよ。もしやですが…

「あの…僕、一日でちゃんと覚えられるんでしょうか…」

「あぁ。貴族の礼儀作法なんて形だけなんだから、ちゃっちゃと覚えろ…てくださいねー」

チャラいっすね…!そして家庭教の方、全然やる気なさそうっすね…!っていうか、途中から敬語崩れてるよね。……大丈夫だよね?

「ぅい、それ基本的なこと書かれているから読んどけよー」

大丈夫じゃなさそうだねぇ?!僕はリズドさんが放り投げた少し厚めの本をわたわたしながらキャッチ。リズドさんの方を見ると、なんと窓際の椅子に腰掛けて何かの本を読んでいた。

「ったく、ゴルドのヤツ、ソファー位残しておけよ。最低限の物もねぇじゃねぇか」

…………リズドさんんん?

「教える気、あるんですか…?」

「ねぇよ」

僕が呟いた言葉をリズドさんは敏感に察知し、迅雷(じんらい)の如く早く返す。そして、その言い切った姿は、もはや清々しさまでも醸し出していた。…そんなに早く返さなくてもいいんだよ?

「…………」

 …もしかして、この本を読むだけ…?っていうか、それで済むなら僕の覚悟はどうなるんや…。

 僕はとりあえず手元にある本に視線を落としてみた。赤みを帯びた茶色の表紙の上で、『貴族の礼儀』という文字が偉そうにふんぞり返っている。表紙をめくると、「このニナク国の貴族の成り立ち」とでかでかと書かれ、その次にこっっっまかい文字が一ページだけに大量に書き込まれていた。…うん、もうこれだけで読む気なくした。パラパラとめくると、所々に挿絵が散りばめられ、一応は文字だけではないようなので、僕は安堵する。とりあえずこれを読むしかすることがないので、頑張って読むことにした。天蓋付きベッドに腰掛け、最初のページの文字を目で追う。それによると、ニナク国はこの大陸の中心にある帝都の中の有力貴族が家来を連れて開拓して出来たらしく、その時に有力貴族→王族、家来→貴族と昇格したとかなんとか。僕はこういう歴史的なことを読んで面白いと思える人じゃないから、所々飛ばして読む。

「…ふぁぁっ」

丁度目次をパラパラと飛ばし、家来である貴族は礼儀が必要である──的な序文をちらちらと読み、本文に差し掛かった所で、リズドさんが欠伸をした。

 もう一度言おう。欠伸をした。元々やる気がないのは分かっていたけど、まさか欠伸をするまでとは。

「…ん?お前、まさか序文読んでたのか?」

リズドさんが訊ねてきた。

「え?あ、はい」

「あんなん読まなくてもいーからよ、ちゃっちゃと要点ばかりかいつまんで読んどけ」

「?!」

再びムチャブリ。一応この本、厚いですからね?最後の方のページ数確認したら、864だったしね?

「……」

「……」

あ、もう聞いてない。

 僕は唖然としたまま、視線を再び本に落とす。…えーと、要点を書いてるのって、大体最初の方か最後の方だよね。…だよね?僕は目次を探し、大体の項目を覚える。…ふむ、王族への接し方、テーブルマナー、社交場のマナー、他の階級の貴族への接し方、王族への礼儀…王族への接し方と王族への礼儀って違いあんのかな。

「…はあ」

僕はニートだ。だから、めんどくさいものはやりたくないし、めっさ避ける。けど、どうしてもやらなければいけない時は、頑張ることだって出来る。

「…すぅ、はぁ」

もう、ここまで来るとヤケクソがヤケクソじゃないみたいだよ。僕は一つ呼吸をすると、本気でマニュアル本を読みはじめた。

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