4、自分の部屋
4、自分の部屋
怒濤のダンスレッスンが終わると、僕の体力は残り1にまですり減っていた。あれから女王様は僕に意外とダンスの才があるとか言って調子に乗ってサンバさえ教え始めたが、僕が女王様より背丈が圧倒的に低いため、女性ポジションにならなければならず、女王様に持ち上げられるという空前絶後のことを引き起こした。
「はあ…」
「どうした?カシ」
「いや、どうしたもこうしたも女王様…アルラ様が僕…つまり側近を持ち上げるなんてことをするからでしょう」
僕がそう吐き捨てると、女王様は少しむっとして言う。
「まあそれは私も悪いと思っているが、それはカシが小さかったからでもあるんだぞ?」
「悪かったですね小さくて」
失敬な。僕だって小さいの気にしてるんだからな。すると女王様はふいと目線をそらし、軽く捲し立てた。
「ま、いいじゃないか、カシも貴族の仲間入りが出来て。側近ともなれば宮廷に自分の部屋を持つことも出来るぞ」
…女王様って、話そらそうとするの、絶対今までやってこなかったと思う。…って言うか、待て。今、女王様、何て言った?
「…えっ、すみません。部屋が貰える、って言いました?」
「…ああ!カシは知らなかったな。なんせ元ニートだしな」
「元ニートは余計です」
失敬な。しょうがなかったんだからな。
「はっはっは、そうだな。すまん、すまん。宮廷にいる貴族は基本は三段階に分かれていて、掃除や洗濯などの王族や他の貴族の身の回りの世話をする下位貴族、会議などにもよく出席して伯爵など…辺境を統治する貴族にさまざまなことを伝えたりする会議員貴族、王族に直接仕える家来貴族がある。会議員貴族は中位貴族、家来貴族は上位貴族、上級貴族とも呼ばれるな。下位貴族は寮生活で、会議員貴族は自分の家から出勤なんだが、家来貴族は宮廷の生活区分に部屋を持つことも出来るんだ。ああ、家来貴族でもメイドとかだと家から出勤だがな。ま、このくらいは覚えとけ」
お、おうふ。ちょっと難しいけど、ゲームの設定だと思うとギリギリ解釈出来る。酔いがまた来て、頭が痛いから、後でまた呑み込もう。
「あ、後、上級貴族とか中位貴族とかよく言うやつは差別意識が強めだから気を付けとけ」
マジかよ…。
「…僕、そういう人苦手なんですけど…」
僕が洩らすと、女王様は笑って言った。
「ふふっ、私もだ。そういうやつはなに言っても基本聞く気がないから、適当に合わせておけば大丈夫だ。それに、そもそもの問題、絡まれなければいいから避けるというのも策だ」
「ほうほう」
勉強になります。
「まあ、王族はそういう訳にはいかないけどな」
「えっ、アルラ様の実践例じゃなかったんですか」
つい僕は女王様の呟きに反応してしまった。
「えっ?…あ、ああ。…まあ、カシ位ならその対応でいいからな、うん」
だけどあまり聞かれたくなかったらしい。人とのコミュニケーションを暫く怠っていた僕はどうも空気が全然読めない。考えてみれば、ふーん位に受け流しておいた方が良かったかもしれないな。貴族になるんだから、そこら辺を何とかしないとな。全く。
…っていうか、今、僕、どこに連れてかれているんだろうな。これも聞かないほうがいいかな?僕は考えながら女王様をじっと見つめる。
「…まあ、貴族の基本は分かったか?」
女王様が顔をひくつかせそうのなるのを堪えながら僕に問い掛ける。何で僕が分かるのかって?そりゃあ、女王様が時折顔をひくつかせてるからだよ。…すんません、ちょっと胸を強調するようなドレスだったもんで、はい。僕だって、一応は男性なんで。僕は反省の気持ちを込めながら女王様に言った。
「はい、大体は」
「……」
えっ、何…?何その疑ってるようで少し安心してる的な顔は?
「あっ、カシの部屋に着いたぞ」
女王様、話題そらしても…っておぃ、マジで僕の部屋用意されてたんだけど?!どーゆーことっスかねぇ?!
「…なんだその顔は」
「いや、マジで用意されてくれてるとは思わなかったもんで」
「最も王族に近い家来貴族に用意しない訳ないだろう」
「確かに…!」
と僕が納得しているうちに、僕は部屋に押し込まれていた。
「じゃ、私はここでお別れだな。トイレや風呂はこっちに進んでいけば見つかるからな。後、私の部屋はメイド達に聞けば分かる」
と言い、ごく当たり前のように僕の部屋となった場所から離れていく。いや、この時間帯だったら当たり前だし、しょうがないんだけどね?
いやいやいや、待て待て僕。自分の部屋に入っているとどうなるのか、自分でも理解できるだろう?そう。僕は、元がついてもニートである。当然……
「ひゃっはー!」
ハイになる。密室&一人ハイである。
思いっきりベッドに向かって走って、…ダイブゥ!ああー、きもちー。ふっかふかやぁ。ゴロゴロして、ゴロゴロして。実家(そこしか家がなかったから別に家でいいんだけど)のベッドを責める訳じゃないけど、それより凄く柔らかく、肌に馴染むな。…宮廷のベッドだから当然か。
「……」
そこで、僕の動きが止まった。…うん、考えてみたら宮廷のベッドだね。僕の部屋になったけど、宮廷の部屋でもあるね。
「……」
僕はベッドのシーツを整え、ベッドに腰かける。僕の中のニートの血が一気に落ち着く。ベッドを改めて見てみると、天蓋らしきが付けられていたり、いたく清潔な印象だったり、横幅が広かったり、物凄く豪華です。はい。
「………取り合えず、お風呂に入りに行くか」
そう呟き、僕は部屋を見渡すと、その豪華さに泣きそうになった。天蓋付きベッドは言うまでもなく、簡素ながらも装飾が所々に散りばめられている壁や天井、窓際にある緑色をベースとした草花の刺繍がある絨毯で覆われた床板、小さいながらもその存在感をひしひしと感じるバスタブ…。て言うかお風呂、部屋に付いてるじゃん。小さいけど。さっきの呟き意味ないやん。はずいやん。もうなんなの。
「…………」
僕はヤケクソぎみに部屋のお風呂に入ると、同じくヤケクソぎみに天蓋付きベッドに潜り込み、もやもやとしたまま眠りに落ちた。